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 ということで、僕が取り次ぎ係をすればいいということはわかった。

 基本的に執務を行うのはデュデュ(とその息子)だけだけだから、全ての情報はデュデュが管理している。それで、毎晩、夕食後に僕はデュデュの部屋を訪れることにした。

「デュデュ、明日のご予定を教えてくださいますか。お客さんはみえますか?」

 これを聞いておけば、お客さんが来ても大丈夫だ。デュデュと約束している人ならば山側の客間に通せばいい。聞いていない人が来たら、約束のない人だから、玄関ホールの脇にある小部屋に通すことにしよう。

「明日はポワルドゥルキャロットのカールバーンの若者が数人来ることになっている」

「午前中ですか?」

「おうそうそう、午前中なんだよ。早起きして準備をしないとなあ」

「お忙しいですね。食事はなさいますか? 僕から食事係に声をかけてきましょうか?」

「ああ、助かるよ。たぶんねえ、7,8人は来ると思うんだ。若者たちの選んだ品物を見せに来るというから、いくつか買ってみたいと思ってね」

「ははあ、デュデュも若ぶってみたいんですね」

 と笑うと、デュデュは嬉しそうだった。

「今日は、シュブリッジが来たんだが、シユウの村はかなり厳しいらしい」

「厳しい? どうしたんですか?」

 僕にはほかの村のことなど全然わからないせいかデュデュは気軽な感じで話している。

「あそこは砂漠に近いからなあ。また6日後に来ると言ってたよ」

「そうなんですか。では、もう失礼しますね」

 時間にすればほんの2,3分だ。それでもデュデュと直接話すことで、いろんなことが分かった。

 明日は午前中に数人の来客がある。料理係に手配に行かなければならない。

 シユウの村は、砂漠に近いために何かが厳しいというのだ。砂漠の民に襲われるのではないだろうか。その件で、また6日後にシュブリッジさんが来るということだ。もう彼の顔はわかるから、次回は挨拶も取り次ぎもしやすくなったぞ。


 部屋に戻る前に、料理長に明日の来客の件を伝えに行くと料理長が驚いていた。

「前日に教えてくれて、こりゃ大助かりだよ。ありがとう」

 いえいえ。そりゃ、7,8人も午前中に来て(たぶんお昼に)食事を出すんだから、当日の朝に言われても困るだろう。デュデュ・・・よっぽど忙しいんだな。


 次の日、予告通りポワルドゥルキャロットのカールバーンの若者が8人、お城にやってきた。さすがに8人もいるといっぺんに足を洗えない。だけど、予告されていたので、お湯で固く絞った手ぬぐいを渡すことができた。こういう準備って大切だよね。

 見たことがないものを手渡されて彼らは少し驚いていた。

「よろしかったら足を拭くのにお使いください」

「うわあ、なんだこれホカホカしてる」

「熱いけど、気持ちが良いぞ」

「どうなってるんだ、これ?」

 彼らが足を拭き終わると、それを受け取り、

「では、こちらへどうぞ」とすぐに客間へ通すことができた。

 客間の方も、家政女中に伝えておいたので、カールバーンの品物が広げられるように準備が整っていた。

 うん。お城ってこうあるべきだよね。

 地味ではあるけど、自分の仕事がうまくいった気がしてとても嬉しかった。


 とはいえ、上手くいったのはそこまでだった。

 午後になって、デュデュはポワルドゥルキャロットの長と一緒に山の方へ視察に出かけると言って外出した。

 外出の予定があったのなら、先に知っていれば動物小屋のオンブリカルに伝えておけばよかった。だって、今日は午前中に8人の来客があって、彼らはラクダを連れているから、動物小屋の方は忙しかったはずなんだ。それなのに午後になって急に、今度はデュデュがダチョウを使うと言ったら、オンブリカルはいっぱいいっぱいなんじゃないだろうか。

 失敗したなあ。今度から、来客の予定だけじゃなくて、外出の予定も聞いておかなきゃな。


 なんて思っていると、また扉が開いた。今度はお客さんの扉ではなくて、向こう側の使用人の扉だ。もちろん城の中でつながっているから、使用人の扉も見ている。

「こんにちはー」

 と入ってきたのは、なんと村のサンダル(だけじゃなくて革製品だったらなんでも)作りのカワさんだった。

「カワさんじゃないですか」

「ミツヒコさん!」

 カワさんは、そこにいたのが僕だとわかるとすぐに駆け寄ってきた。すごい荷物だ。この大荷物で山道を登って下の階段を上ってきたのだろうか。きっとそうなんだろう、カワさんは汗だくだった。

 すぐにお湯で絞った手ぬぐいを渡してあげた。

「足を拭く前に、顔とか首とか拭くと気持ちが良いですよ」

 そうだ、もう一枚。すぐにもう一枚絞って渡すと、彼女はすごく嬉しそうにほほ笑んだ。

「それにしても、今日はどうしたんですか?」

 使い終わった手ぬぐいを受けとりながら聞いた。カワさんは荷物を抱えなおして言った。

「あら、デュデュに聞いてない? 今日納品だって」

「納品?」

 そりゃ、納品の意味はわかる。カワさんの作ったものを持ってきたんだろうけど。

「お城で使うものをいくつか頼まれていたのよ。ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来たからやっと作れて、今日持ってくるって言っておいたんだけど」

「えっと、デュデュは今、出かけてるんです。どうしますか、待っていますか?」

「うーん、困ったわ。この後ほかにも納品があって。でもこれ、持って帰るのも嫌だし」

 基本的にこの村では、物々交換だから、品物を持ってきたら報酬を受け取らなければならないってことだよな。

 今日は確か、マテテショヴ(使用人頭)もお休みだし。僕も困ったな。

「じゃあ、僕が預かります。報酬は後払いになってしまいますけど・・・僕がカワさんのところに持って行きますから」

 そういうと、カワさんは嬉しそうな顔をした。

「ミツヒコさんが来て下さるの? 嬉しいわ」

 いやいやいや、うん、まあ。仕方がない。

「中身はデュデュに頼まれたものが入ってるんですね? 僕は開けてみませんけど、大丈夫ですよね」

「ええ、袋物5つ、履物6つ、帯類7つ、あと"φ(・ェ・o)~が8つよ」

 うん、覚えやすい5,6,7,8個だな。"φ(・ェ・o)~てのがわからないけど、まあなんとかなるだろう。

「わかりました。確かに」

「じゃあね。ミツヒコさんに会えてうれしかったわ。ウチに来て下さるのも楽しみ」

「はい。ありがとうございました。失礼いたします」

 という、やりとりがあったんだけど、デュデュめ。カワさんが来ること忘れていたな!




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