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異世界転移していたらしい僕の執事ライフ  作者: marron
ポワルドゥルキャロットのカールバーン
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 デュデュのお城には、お客さんが来る。

 今は、ポワルドゥルキャロットのカールバーンがいるせいもあるけれど、ポワルドゥルキャロットのカールバーンの人(普段テントで暮らしている人)はもちろん、ほかにも違う地域の人が訪ねてくることもあった。

「ミツヒコ、今日はこれからシユウの村の領主の弟が来ることになっているんだ」

「シユウの村の領主の弟さんですね? なんというお名前の方ですか?」

 僕がお客様の扉のところで、足洗の準備をしているとデュデュが来てこんな感じに伝えてくる。

「シュブリッジという太ったおっさんだよ」

「シュブリッジさんですね。いらしたら、どちらにお通しすればいいですか?」

「おや、そこまでやってくれるのか。じゃあ、山側の客間に通してくれるかね」

「かしこまりました。ていうかですね、そこまでやるもなにも、基本的に取り次ぎは誰がするんですか?」

 ここに初めて来た時から思っていたのだけど、取り次ぎ係がいないんだよ、このお城。あんまりお客さんが来ないとはいえ、一応ここはお城なんだし、誰かいた方が良いと思うんだよね。僕が初めて来た時だって、役人が連れてきてくれたからよかったものの、どこの玄関から入ったらいいのかもわからないし、入ったら入ったで、どうしたら良いのかわからないじゃないか。

「誰って、コレ」

 デュデュが指さしたのは、玄関にある置物だった。

「コレ?」

「こうやって、振ると結構な大きな音が出るから、誰かが気付いてくれるという」

「・・・わかりました」

 これ、鐘なのか。

 それで、音に気付いた人が取り次ぎをするのか。ファミリーレストランかよ! という心のツッコミがあってから、なるべく僕は玄関にいるようにした。僕は足を洗う係なんだから、玄関にいるし、そのまま取り次げば問題ないじゃないか。

 それから1時間ほどしてシュブリッジさんがやってきた。外には衛兵がいるから、お客様の入ってくる扉は衛兵が教えるのだろう。

 扉が開いてお客様が入ってきたので、僕は挨拶をした。一応シュブリッジさんの容姿は聞いていたけれど、僕は知らない人だから、間違ったら困るよな。

「いらっしゃいませ。お名前をうかがってもよろしいでしょうか」

「ああ、シュブリッジだ」

「シュブリッジさん、お待ちしておりました。よろしかったら足を洗いますので、そちらにおかけください」

 いつも通り足を洗いながら、少し世間話をしたりして、洗い終わると、

「では、こちらへどうぞ」と、客間へ案内した。廊下を歩いているときに、掃除をしている家政女中がいたから、お客さんが来たのでデュデュに伝えてくださいと言っておいた。

「こちらで少しお待ちください」

 客間に通し、シュブリッジさんが座ったところで、デュデュが客間にやってきた。ほら、ぴったりじゃん。お客さんを待たせなくていいし、僕は勝手に取り次ぎ係になろうと決心したのだった。


 とはいえ、勝手に取り次ぎ係も何も、このお城の人事は全て使用人頭のマテテショヴが取り仕切っているはずだから、ちょっと話に行った。

「このお城にお客さんが来た時にですね、取り次ぐ係の人がいないんですけど、僕、それをやっても良いですか? それとも他に」

 執事ってなんていうんだろう・・・今までそれっぽい言葉どころか、それらしい人がいたことがない。あえて言うなら、使用人頭がそうだけど、彼は使用人を取りまとめる人であって、デュデュとの橋渡しや城の中が機能するために働いているわけではない。

「デュデュのことを助けるために働いている人はいますか?」

 難しい。言葉を知らないというのは不便だし、場合によっては“執事職”という概念がないかもしれない。

 案の定使用人頭はちょっと考えていた。

「デュデュのことを助けるために働いているというのは、この城で仕事をする一人ひとりがそうだと思うが?」

「えっと、説明が難しいですね。つまり、僕がここで仕事をするかどうかを決めるのは、まずデュデュが使用人頭であるあなたに、僕の面接を依頼するわけですよね?」

「そうだねえ」

「使用人に関しては、わかりました。で、ほかにもデュデュのお客さんが来るとなったら、デュデュは誰に何を言うんですか?」

「誰に何を、とは?」

「たとえば、何時に誰が来るということを誰に伝えておくんですか?」

「デュデュが伝えておく? ああ、つまり、食事をするからその準備をしておくように、ということかね? もちろん、食事係に伝えるんだよ」

「宿泊をする場合は?」

「宿泊がある時は、家政女中か掃除係に言うねえ」

「デュデュ自らですか?」

「それはもちろん」

「デュデュの身の回りの世話は誰がしているんですか?」

「それは家政女中がやるねえ」

「すべての使用人へのお給料は、デュデュ自らが手渡すと聞きましたが」

「そうだよ?」

 使用人頭のマテテショヴはにっこりと笑って僕を見ている。僕が何を質問しているのかたぶんわかっていないのだ。

 僕が聞きたかったことは、このお城の総務や執務的なことをしている人は誰なのかを聞きたかったのだけど、使用人頭の話では、どうやら事務職もいないようだ。すべてはデュデュが治めているらしい。

 でも、デュデュにはお城の使用人を治めるよりもやらなければならない仕事があるはずだ。村を治めるために、情報を入手し、村の人たちが安全で健康に過ごせるように気を配るのが領主の仕事だろう。それに外部からのお客さんをもてなしたり(世界情勢っていうのかな?)外国の情報も得なければならないはずだ。

 お城の使用人たちは、デュデュが働きやすくなるために彼に仕えているはずなのに、そのデュデュがすべてを取り仕切っていたら、本末転倒のような気がしないでもない。




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