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異世界転移していたらしい僕の執事ライフ  作者: marron
ポワルドゥルキャロットのカールバーン
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 足を洗う仕事は基本的に午後、しかも夕方ごろなので、それまでの時間にお城でのマナーや敬語を教えてもらえることになった。ポワルドゥルキャロットの人たちが来る前にすでに少し習っていたものの、やはり実践が始まると、疑問に思うことも多々ある。言葉は単に知っていればいいだけではなくて、文化的にどう考えるか、文化的にその言葉がどういう意味を持つのか、それがわからないとなかなか難しいこともある。特に大事なお客様だから、失礼がないようにしなければならないからね。

「女性の足を洗うのは失礼にならないのですよ。ポワルドゥルキャロットの方たちは手先や足先に触ることは失礼ではないのです。胴体やその近辺に触るのは、よほど親しくなければなりません。ですから肩や肘はあまり触らないように気を付けた方がよいでしょう」

「わかりました。肘もなんですね。膝はどうなんでしょうか」

「膝は大丈夫だそうですよ」

 よくわからない文化だ。でもまあ、膝に触っても失礼でないのなら、女性の足を洗うのは問題ないのだろう。でもなあ、今さら急に洗うのもなんだかなあ。

「女性で気を付けなければならないのは、かぶり物をされている方をじろじろ見ないようにしなければなりません。彼らにとってかぶり物は多くの場合日よけでありますが、時に既婚ではなく、心に決めた男性がいる女性がほかの男性に付きまとわれないために、そのようにすると聞いています。ですから、顔を隠すようなそぶりをしている女性がいましたら、こちらも興味がありませんという意思表示のために、あまりじっくり見ないように気を付けると良いでしょう」

 そう言われてみると、テントの中にいても、布をかぶっている女性は時々見かけた。あれはそういう意味だったのか。まあ、わざわざじっくり見なかったけれど、知らないと思わず見てしまう気もする。教えてもらってよかった。

 文化の違いを教えてもらうのは、勉強というよりは人と接するために必要な情報なので、すごく興味深かった。僕はこのデュウの村のしきたりすらまだあまり覚えていないうえに、お城の作法もわかっていない。そのうえポワルドゥルキャロットの文化も知らなければならないから、覚えることはたくさんあって、毎日が充実していた。


 言葉の方は、わりとすぐに覚えた。敬語の種類もいくつかあって、日本語ほどではないものの、細やかな心遣いだと思うことも多かった。

「これだけ敬語ができていれば問題ないでしょう。ミツヒコは言語に対して天才的な能力の持ち主ですね」

「ありがとうございます。僕は両親が違う国の人なので、いろんな国の言葉に興味があるんです。だから、こうやって教えてもらえてとても嬉しいです」

 言葉の先生には、敬語はもう大丈夫だと太鼓判を押してもらえた。

「せっかくですから、まだポワルドゥルキャロットの方たちがいらっしゃいますが、文字をお教えしましょう。それから、もし興味があればですが・・・古文を読んでみたくないですか?」

「古文ですか? それは、もちろん」

 なんと、普通の文字だけでなく、古文も教えてくれるというのだ。いちもにもなく僕は飛びついた。たぶんこの村で、文字を知るだけでも貴重なのに、さらに古文まで教えてもらえるなんてこんなに嬉しいことはない。

 ハタさんの話だと、このデュウの村は元々井戸丸の12人兄弟が別れて、ここにきて住み着いたとかそういう感じだったはずだ。しかもその12人兄弟がそれぞれの場所で村を築き、文化を築いてきて、今でこそ違う種族のようになっているということは、ここに来るまでに長い年月があったはずだ。

 何が言いたいかというと、つまりとても歴史があるということだ。

 古文を読むとなると、その辺の歴史もわかるんじゃないだろうか。僕が、興味があることは言語ではあるけれど、その言語はどうして成り立っているのか、そのためには歴史の流れは無関係じゃない。「愛している」の言い方ひとつでも、国によってそっけなく言った方が愛情の度合いが高いとか、まわりくどく伝えた方が女性が喜ぶとか、そういうのがあるんだ。そこに至るまでの経緯がわかると、その言葉がグッと身近になる。

 僕はそういうことが知りたい。古文を読み解くのはきっとすごく難しいと思うけれど、仕事の合間に少しずつでも知ることができるなら、とても有意義だと思うんだ。

「よろしくお願いします!」

 僕の意気込みがわかって、先生も嬉しそうにしてくれた。


 しかしなあ、文字を覚えると言っても、この国に紙と鉛筆がないんだよなあ。その辺がちょっと気になるけれど、まあ、なんとかなるだろう。

 明日からの勉強タイムもすごく楽しみなのだった。



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