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そんなこんなで、気が付けば2週間くらい経った気がする。
そして僕の特技である、言語習得技術が非常に役に立っていた。そう、僕はこの村の言葉を習得していたのだった。そりゃあ、ペラペラでなんでも話せるわけではないけれど、子どもと同じくらいの会話はできるようになった。多少の意思疎通なら問題ない。
「森の向こうにイタリアがあると思う。一度戻って見てきたい」
「いいや、イタリアなんてところは聞いたことがない。それにこの森は入っちゃいかんところがある。ミツヒコには危険だろう。もう少し時間ができたらわしが連れて行ってやるから、お前さんがもう少し元気になったらヾ(・ω・o(;´д`)ノ)」
とまあ、このくらいの会話は、できるというか、爺さんのセリフの最後の方は聞き取れなくなったけれど、まあ、ダメだということはわかった。
あ、ちなみに爺さんが「ミツヒコ」と言っていたのは僕のことで、僕のフルネームはセバスチャン・光彦・オブライエンだと爺さんに教えたら、セバスチャンは言いにくくて、ミツヒコを気に入ってくれたというわけで、こう呼ばれている。
「じゃあ、せめて何か仕事をしたい」
「そうじゃあ。だったらそろそろあっちの畑の収穫の時期だから、手伝ってもらおうか」
ということで、僕はこの村の収穫の手伝いをすることとなった。
収穫はご近所同士持ち回りで手伝いながら行うようであった。
「ミツヒコ、いっしょに行こう」
「えっ、ノッチも行くの?」
まだ3歳のノッチ(女の子)の小さな手で手を握られ、驚きながら連れられて行く僕。だって、収穫作業に3歳児がいて良いわけ? とは思うけれど、驚いた顔は見せまい。そりゃ、この村のやり方を知らないんだからいちいち驚いていられない。
ノッチは嬉しそうに笑いながら、僕を畑に連れて行った。
畑に行くとすでに10人くらいの人たちがいて、こっちを見ていた。うわ、緊張するし恥ずかしい。こういう時こそ無表情だ。しかし無表情をすればするほどなぜかみんなこっちを向いて笑顔だ。
なんだこれ、笑った方がいいんだろうか。
う、
うひ?
「あはは、にいちゃん、手伝ってくれるんだって? 頼んだぜ」
「あ、はい。ヨロシクおねがいします」
なんだか、笑われてる気がするけれど、ま、いいか。挨拶もできたし。一応、言葉があまり堪能でないことは爺さんが伝えてくれたらしいから、わかってくれるだろう。
収穫といっても何をどのように収穫するのかさっぱりわからない。だいたい大学ではコミュニケーション学を学んで、そのあとは執事養成学校に行ったんだから、農業なんてわかるはずがないんだ。だけど、考え方によっては、執事というのは人に仕える仕事だからな、なんだっていいかもしれない。
ノッチに手を引かれて連れてこられたのは、枝が大きく張り出している木がたくさんある畑、じゃなくて林だった。一本一本の間隔が広い。
一本の木の下に、大きなシートを広げている。張り出している枝の下いっぱいに広げられるかなり大きなシートだ。どうやらそれを持つらしい。端っこ持ってればいいのか? 横でノッチが真剣な顔をしてシートを掴んでいる。
すると木の根元に細くて長い棒を持った女の人たちが入り込んだ。そして、上の方の枝を叩き始めた。
―― カタカタカタカタカタカタ ――
木がものすごい振動している。枝が折れそうとかそういうんじゃないけど、枝を小刻みに揺らす感じだ。
すると木の上から、豆みたいのがものっすごい勢いで降ってきた。
「うっ」
手元に豆がバチバチ当たるけれど、ここでシートから手を離したら、豆がすべて転がり出てしまう。そうか、このシートで落ちてきた豆をキャッチするという算段か。
シートに落ちてきた豆は木の根元にあるかごに面白いように転がって集まる。
なんだこれ。
収穫ってこうやるのか? てか、こんなことして木は痛まないの?
思わずあんぐりと口を開けていたらしい。この木の収穫が終わると、シートを持っていたみんなが僕のことを見て指さして笑っていた。
くそう、思わず素になって驚いちゃったけど、僕は執事職なんだから本当はポーカーフェイスが得意なんだぞ! くそう、もう、驚いた顔なんてしないもんね。
と、決意しながら次の木へ。
とはいえ、次の木でも同じことをしているのに、枝を振動させる作業はやっぱり奇妙で、驚かずにはいられない。しかも、豆でしたたかに手をぶたれるから痛くて、ここでポーカーフェイスはできないっ。
痛いっ、痛い痛いっ!
「あはははは」
って、なぜ笑われる!?
とにかく、初めての収穫作業では僕はなんだか笑われっぱなしだった。
そのうち慣れれば、僕もこんなに驚かなくなるだろうから早く慣れたい。でもまあ、外で体を動かして作業をするのはとても楽しかった。
働くことってすがすがしいよね。なんて、強がってみたりして。