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 お城の仕事がどんなものか、いまいちピンとこないのは確かだけど、お城に仕えるというのはまさに僕がやりたいと思っていたことだ。それを伝えたところ、ヤマさんはぽかんとしていた。

「でも、ここで足を洗う順番は先まで決まっていますし、ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来るまでハタさんのところで布づくりを手伝わなきゃならないんです。僕はこの村の人の考え方とかがわかっていないので、これ以上は僕が決められないことなんです」

 僕の言いたいことはこれだけだ。

 お城に行ってみたいけれど、ここでの仕事もある。

 どちらも大切だ。

 その気持ちが伝わっただろうか。ちょっと心配だけど、黙っているよりはちゃんと言った方が良いというのはわかっていた。


 するとまたみんな、一斉に口を開いて話し始めた。

「ハタさんのところもあるのか」

「こっちは良いんだ、ミツヒコがやりたいことがあるなら気にするな」

「でも知らないところに行くのは大変でしょう?」

「もちろんお城に来る気があるなら、いつでも来てほしいんですから」

「デュデュも喜びますよ」

「そういうことだったら、ここらのことはポワルドゥルキャロットのカールバーンが帰った後にゆっくり来てもらっても良いじゃないか」

「でも、布は先だな」

「ハタ屋に聞いてみたらどうだ」

「どんな仕事になるか、先にデュデュに聞いてきましょうか?」

「ハタ屋に行くなら私も行きますよ。今行きましょう!」

 うん、一斉にしゃべったら何を言ってるのか全然わからない。僕、まだここの言葉だってそんなに堪能じゃないからね?


「すみません! 何言ってるかわかりません!」

 僕が大きな声を出すと、またみんなきょとんとしてこっちを向いた。

「つまり・・・」

 またみんなが口を開いて一斉に話し出しそうだったのを、ヤマさんが「俺が話す!」と言って話し始めた。

「ミツヒコの気持ちはよくわかった。

 まず、俺たちの足を洗うのは、とりあえず保留にしても問題はない。いつだっていいんだから、気にするな。それだったらお城の方は、大歓迎さ。

 ただ、ハタさんのところは今が忙しいからな、先にそっちを聞いてくるのが良いと思うんだよ」

 ヤマさんが言うと、みんながうなずいていた。

 同じことを考えていたのなら、なんであんなにガヤガヤと話すのかわからないけど、こういう文化なのかもしれない。

「ハタさんのためにも、急いだほうが良いだろう。今、ハタさんのところに聞きに行ったらどうだ?」

「あ、はい」

 なんかよくわからないけど、僕がお城に行くってことで話は進んでいるらしい。

「私たちも一緒に行って良いですか」

「はい、まあ」

 ということで、お城の役人たちも一緒についてくることとなった。ついでにヤマさんもついてきた。


 ハタ屋に戻ると、ノッチが待ってましたとばかりに飛び出してきた。

「ミツヒコ、おかえり~!」

「ただいま、ノッチ」

 ノッチは僕だけじゃなくて、役人( )(とヤマさん)がいたのでびっくりして、それ以上いつもみたいにおしゃべりしなかったけれど、僕の手に絡まってすごく警戒した目で彼らを睨んでいた。そんなに睨まなくても。とは思うけど、ノッチにはわかっているのかもしれない。彼らが来たということは、ノッチと仕事をする僕が、どこかへ行ってしまうことが。

 すぐにハタさんのところへ行って、ことの次第を話すと、ハタさんはあっけらかんと言った。

「うん、良いじゃない。ここのことは気にしないで行ってらっしゃい」

 良いんだろうか。でも変に恐縮するのも逆に悪い気がする。

「ありがとうございます。ここの仕事が中途半端になってしまってすみません」

「いいのよ。私が無理言ったんだから。前にも人に仕える仕事がしたいって言ってたものね」

 覚えていてくれたんだ。

 忙しくて大変なのに、こんなに気持ちよく送り出してくれるなんて。

「やりたいことがあるならやっていいのよ。だからノッチも、そんなにむくれないで」

 ノッチはすごく我慢しているようだった。

 前は泣いて「行かないで」って言ったけど、今回はグッと我慢しているのがわかる。こんなに小さなノッチさえ僕のために我慢してくれるなんて。

「詳しいことはお城に帰って聞いてきます。明日の朝、迎えに来ますね」

 役人たちも、ハタさんにお礼を言って、お城に帰って行った。僕は明日の朝、お城に行けばいいらしい。

 どちらにしろもう夕方だから、今日の仕事はおしまい。

 僕はノッチと手をつないで、ノムさんの家に送り届けて、お城のことを報告した。

 僕が帰る時、ノッチの機嫌は直っていた。いや、たぶんすごく我慢しているんだと思う。だけど笑顔だった。

 笑顔で手を振って僕を送り出してくれた。

「ミツヒコ、いってらっしゃい」

「うん、行ってきます。ノッチ、ありがとう」

 ノッチは笑顔だったけど、目には涙がたまっていた。


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