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 カールバーンが来るということは、いろんなチャンスもあるらしい。普段手に入らない品物や文化を手にすることもできる。代わりに、こちらから何かを発信することもできるということだ。

 ハタさんが、カールバーンが来ると聞いてうわあと叫んだのには、そういう意味がある。ハタさんは単なる買い物をしたいだけじゃなくて、カールバーンに布を売るつもりなんだ。

「しばらく来ていないから油断してたわ。そっち手伝って!」

 ということで、僕はハタさんの手伝いに巻き込まれていた。

「いつ来ても良いように、ある程度は準備してあるんだけどね、ほら、これよ」

 と言ってハタさんが見せてくれたのは、この村では使わないような厚手の布だった。この村は高温多湿だから基本的に着るものはサラっとしている。薄着で暮らせるからね。だけど、厚手の布は輸出用に作ってあるらしい。きっと寒い地域に持って行かれるんだろう。

「難しくないの。経糸はいつも通り、緯糸だけ太い糸を使うのよ。太い糸そこにあるから、先にひとつ整経しといてくれる?」

「はい!」

 カールバーンが来るまでにできるだけたくさん作っておきたいらしい。これは、今日は徹夜かななんて思ったけど・・・この村に来てから、徹夜なんてしている人は見たことがない。電気がないんだから当たり前か。

「ノッチはこれをやってくれる?」

 えー! ノッチは僕と一緒じゃないのか。しょんぼり。いつの間にかノッチは一人前になっていて、びっくりした。ていうか、この中で仕事が一人前じゃないのって僕だけじゃん。

 ノッチは僕の隣で、違う糸で整経をしていた。すごく細い糸に見える。すぐ近くにいるので、ノッチは今までみたいに話してくれた。

「あのねえ、あたし、ポワルドゥルキャロットのカールバーン、待ってたんだ。前に来た時は、まだ赤ちゃんだったから、おぼえてないの」

「そうなんだ。でも、知らないのに嬉しそうだよね」

「うん、だってね、おいしいものたくさんあるんだって」

「あはは、食べ物が楽しみなんだ」

「うん! あのねえ、お肉がいっぱいあるんだよ。あと<* )))><も」

「へえ~、お肉かあ」

 そういえばこの村は基本的に自給自足で生活しているけど、狩りをしているのを見たことがない。もしかすると狩りもあるのかもしれないけど、そんな感じだから肉類はあまり手に入らない。ハタさんのところでは見たことないし、ノムさんのところでも、干し肉しか見たことがない。だからきっと、その干し肉も、前のカールバーンの時に買ったものかもしれない。

 しかしなあ、こんなに小さな子が「肉が楽しみ」ってなあ。お菓子とかじゃないんだな。

 それにしても、ノッチはいつの間にか自分のことを“あたし”なんていうようになっていた。ほんのちょっと前まで名前で言ってたくせになあ。子どもが大きくなるのなんてすぐなんだろうな、きっと。

「ノッチの整経の糸、すごく細いね。見えるの?」

 僕が聞くと、ノッチはケタケタ笑った。

「これね、すごくきれいな布ができるんだよ。うすくて、むこうが見えるの」

「うすい布かあ。寒いところで使うんじゃないのかな」

「きれいなんだってば」

 ノッチが面白そうに笑っている。ああ、つまり、着飾るための布なのかもしれないな。


 いつにも増して忙しいということもあって、僕たちはみんな集中して仕事をしていた。休憩もしたけれど、仕事は真剣。

 気が付くと夕方になっていた。

「おーい、ミツヒコいるかー?」

 ハタ屋の工房に野太いヤマさんの声が響いた。あれ、呼びに来たのかな?

「はいー」僕が出ていくと

「足、やつらが足やってもらいたいって言ってんだけど、来られるか?」

 ああー! 足ね、足洗ね!

「ちょっと待っててください。聞いてきます」

 ハタさんに聞きに行くと「行ってきなさーい」と言ってくれた。お言葉に甘えてちょっと工房を抜け出すことにした。

 これは僕の仕事だし、久しぶりに長時間狭いところにいたからちょっと歩きたかったし。ハタさんもそういうことわかってくれているんだ。

「じゃあちょっと行ってきます」

「ゆっくりでいいわよ。また明日も頼むから!」

 とハタさんが叫んでいたので思わず吹き出してしまった。


 畑の方に戻ると、今日の順番の人たちが待っていた。彼らの家に行きポットに入れておいたお湯を使って丁寧に足を洗う。

 今日は畑仕事じゃなくて木登りだったから足は思ったほど汚れていなかった。

 そこにあの役人たちが通りかかって僕のしていることを見ていた。玄関だしよく見えないせいか、かなりガン見されている気がする。足洗なんて変だって思われるかな。それともやってほしいかな。

「はい、終わりました。きれいになりましたよ」

「ありがとう。この熱いお湯で絞った手ぬぐいが気持ちいいんだよなあ」

「そうですね~」

 なんて言いながら、報酬をもらい、その家から出てくると、なんとそこにはまだ役人たちがこっちを向いていた。僕を待っていたのかもしれない。

「どうも」

 一応会釈をすると、役人たちはこちらへやってきた。

「あなたの仕事、何をしていたんだい?」

 あ、やっぱりね。何してるか気になったんだろう。

「足を洗っていたんです」

「足を?」

「他人の足を?」

「はい」

「嫌じゃないのかい?」

「え? いいえ」

 なんだろう。嫌だったら仕事になんてしないけど。そう思っていると、通りかかったヤマさんがこちらへ来た。

「どうしたミツヒコ。次の家が待ってるぞ」

「あ、いえ」

「私たちも見に行っていいですか!」

 僕がヤマさんに連れられて次の家に行こうとすると、役人が見学の申し出をしてきた。

「ええー!?」

 なぜ、見学・・・? まあ、いいけどさ。ということで、ヤマさんに連れられて、僕と、役人4人で次の家に行った。




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