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 爺さんはさらに、僕に食べ物までくれた。

 爺さんがくれた食べ物は、お米のようだった。もう少し赤みがかっているけれど味はほぼ米のそれ。あと汁物をくれた。野菜っぽいものと肉っぽいものが少し入ってる、黒く濁った汁物で、気分は闇鍋。味は少し酸味があってなんというか全体的に塩気が足りない感じだが、出汁がきいておいしかった。

「うまい!」

 思わず言うと、爺さんが言った。

「ヽ(‘ ∇‘ )ノ?」

「ヽ(‘ ∇‘ )ノ?」

 僕が真似ると爺さんは笑った。

「はっはっは、ヽ(ω・ヽ)(ノ・ω)ノ、。。ヾ( ~▽~)ツ」

「。。ヾ( ~▽~)ツ?」

「。。ヾ( ~▽~)ツ」

「。。ヾ( ~▽~)ツ」

 どうやら通じたみたいだ。

 よかった。あんまり複雑な発音の言語だと聞き取りにくいけれど、爺さんの言葉は日本語とイタリア語の発音によく似ている。(つまり、母音がはっきりしている)

 そうこうしていると、向こうの部屋から男の人がやってきた。僕より少し年上くらいの人と、さらに上の青年。それから少ししてもう少し年上に見える女の人と、子どもだった。

 イタリア人にしては髪の毛の色が黒いと思った。でも、アジア人には見えない、かな。でも少なくとも、イタリア人にも見えない。おかしいな、まだイタリアから出てないと思うんだけどな。(イタリアの中にはバチカンやらサンマリノやらあるとはいえイタリア語が通じるはずだし)

 みんなは僕のことを興味深そうにじろじろ見てきて、何かべらべらしゃべっているけれど、全然わからない。爺さんもべらべら話している。

 特に驚いて大声を出したりしないどころか興味を示して、みんな僕を見て超笑顔だ。なんか面白いことをするのを期待されてるような、そんな顔。いや、そんな顔されても、何もできないよ?

 う、

 うひ?

「ヾ(>▽<)ゞヾ(▽^ )ゞヾ( >▽)ゞ」

 ねえ・・・なんか、笑われてない、僕? 恥ずかしいんだけど。


 なんだかよくわからないうちに、爺さんの家族も食事をして、そんで出かけて行ってしまった。後に残ったのは僕と子どもだけ。

 って・・・え?

 子守り、っすか?

 まじで?

 よくわからないなあ。でも、それはそれで気楽だった。だって、こんな明らかに外国人の僕のことを信用してくれているってことでしょう? そうじゃなければ、僕のことを家に置いていかないと思う。

 みんなは仕事かな。ここら辺の産業ってなんなんだろう。ていうか、それ以前に、ここはどこなんだ。イタリアから出ていないとも思うし(出国するならパスポートが要るはずだ)、そのわりにイタリアっぽくない気もするけれど、だったらどこなんだ。

 とはいえ、子どもはなんだか僕になついていた。全然物おじしないで手をつないで、あっちへ行こう、こっちへ行こうと僕を連れまわした。


 家を出て少し行くと、緑色の農地が広がっている。そこに村人たちが働いているのが見えた。少し行くと小山があって、林業をしているのか大きな機械のようなものが見えた。その向こうにはもっと大きな山が見えるが、その辺にはあんまり人はいないようだった。

 子どもは何かをしゃべったり歌ったりしながら、僕のことをまるで案内するかのようにいろいろ見せて回ってくれた。

 それに言葉も覚えた。

 子どもの言葉はわかりやすい。小難しいことは言わないし、まずは簡単な名詞を教えてくれる。

子ども「(* ̄▽ ̄)=====C< _△_))))))))」

僕  「(* ̄▽ ̄)=====C< _△_)?」

子ども「(* ̄▽ ̄)=====C< _△_))))))))」

僕  「(* ̄▽ ̄)=====C< _△_)?」

子ども「=====C< _△_))))))))!」

僕  「=====C< _△_))))))))?」

子ども「C< _△_))))))))」

 何を言ってるかわからんが、子どもは上を指さしている。見ると大きな木に赤い果物がたわわになっているが。この木の実の名前を教えてくれている。それを取ってと言っているのだろう。

 マンゴーに似ている果物を取ってやると、子どもは両手を嬉しそうに差し出した。

「ほら」

「<(_ _*)> 」

 これは、ありがとうと言ってるようだ。うん、わかってきた。やっぱり子どもとやりとりすると言葉の習得が早い気がする。面白くなってきたぞ。


 見たところ、電気はないし、ほかにも文明はあんまり発達しているように見えないけれど、作物が育つし穏やかで豊かな村だということがわかった。


 実は爺さんに拾ってもらって非常に助かっていた。なにせ、顔に擦り傷を作っただけじゃなく、腰やら足やらも痛めていたのだ。自分の居場所がわからないうえに言葉も通じない。

 何度か、英語とイタリア語で僕が就職するはずの町の名前を言ってみたが、ハテナという顔をされるだけで、彼らはそんなところは知らないようだった。距離的にはたぶん森を挟んだだけの近距離のはずだし、知っていてもおかしくないのだろうけど、爺さんの村の人は、なんというか閉鎖的な暮らしをしているのかもしれない。言葉も生活様式も全く違うし、文化水準もこのご時世では考えられないほどに低い。

 だいたい、どんなへき地でも、今時電気も水道もないところなんて、よっぽど人がいないところとか、高い山の上とかしかないだろうに、ここは人もそれなりにいるのに、そういうものが一切入ってきていない。

 ということで、僕は動くに動けず、帰るに帰れずにいたのだった。

 だいたい、帰ったところで……あの屋敷には戻れまい。ちょっと近づいただけで殺されそうになったんだ。実はドッキリでした~みたいな、歓迎会とも違うだろう。もしそうだったら、演技力高すぎ。その前に銃をぶっ放さないでほしい。

 だから……あれは、本当に、恐ろしいことだった。



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