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 この村の一週間は、役人が来る日でわかるらしい。5日間畑仕事をして、6日目に役人が来るそうだ。収穫量の10分の一を納めることで、畑を使う権利が得られるらしい。つまり、本来土地は(デュウという)領主のものだそうだ。

 今更だけど、ここはデュウの村というらしい。


 役人が来た次の日、また僕は畑で作業をさせてもらっていた。

 すると、カツカツと蹄の音が聞こえてきた。なんと、今日もまた役人が現れたのだ。とはいえ、荷車は牽いていなかった。ダチョウ(ということにしておく)だけだ。

 役人の若者は、今日は4人。颯爽とダチョウから降りると大きな声を張り上げた。

「ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来るぞお!」

 それぞれの畑で作業をしていた男の人たちが、ワっと声を上げた。みんな役人のところまで走っていく。僕も行くことにした。

 家の方からも、女の人たちが走ってきた。役人の声、大きいなあ。

「いつ来るんだい?」

「今回はどれくらい来るの?」

 集まった人たちは、口々に役人に聞いている。すごく嬉しそうだ。きっとポワルドゥルキャロットのカールバーンっていうのはウキウキするんだろうな。余所から人と物が入ってくる、それは単なる物ではなくて、普段とは違う日常だ。久しぶりに見る何かや、もう一度食べたかったものや、知らなかった文化かもしれない。それはきっと楽しいだろう。

「早駆けで知らせが来たばかりだ。もうシユウの地を出発するとのことだから、5日後くらいだろう。すぐに支度だ」

「よしきた! それ、アピュを採りに行くぞ」

「お前たちはあっちだ。俺たちはそっちへ行くから」

 アピュとはなんぞや? と思っているうちに、男の人だけでなく女の人たちも、子どももどんどん散らばって行ってしまった。どうやらアピュというのを採りに行くらしい。畑仕事は放っていていいんだろうか。

 まごまごしていると、ヤマさんが気付いてくれた。

「ああ、ミツヒコ。5日後にポワルドゥルキャロットのカールバーンが来るっていうんでな、みんなアピュを採りに行ったんだ」

「アピュってなんですか?」

「村中に生ってる木の実だよ。ほら、あちこちにあるだろ?」

 言われてみると、街路樹のようにどこにでも生えている木がある。ヤシの木みたいにかなり背が高くて、上の方に実がなっている。でも、その実を採っているのを見たことがなかった。どうやら、カールバーンが来るときにそれを収穫するらしい。

「カールバーンが欲しがって高く売れるんだ。採れたアピュはデュウのもんみんなで山分けして、それでカールバーンから好きなものを買うんだ」

 なるほど。だから、普段は採らないでとっておくってことかな。どういうことかわかったところで、僕もアピュを採りに行くのを手伝おうとしたらヤマさんに止められた。

「ミツヒコはとりあえず、カワさんとハタさんに伝えてきてくれないか」

「手伝わなくていいんですか?」

「ああ。こっちを手伝ってくれても良いが、カワさんやハタさんのところは知らせが届きにくいんだ。早い方が彼女たちも助かるから、行ってきてくれないか? それに、ミツヒコならハタさんの手伝いもできるだろ」

 なんかよくわからないけど、とにかくポワルドゥルキャロットのカールバーンが来るってことは、大忙しなんだろう。「わかった」と頷いて僕はカワさんとハタさんに伝えに行った。


 伝えに行きがてら、村の中を見ていて気付いたけれど、アピュという実は結構大きなものだった。ヤシの木のように枝がなくて、上るのにかなり技術が要りそうな感じだけど、村の人たちは慣れているのか、半分に切ったフラフープのようなものを使ってどんどん上っていた。

 まずはカワさんのところに伝えに行くと

「まあ、ミツヒコさん! ささ、座って、ゆっくりしていって」

 なんていつも通りだったんだけど、ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来ることを伝えると、急にキリっとした顔になった。

「それは忙しくなるわ。ミツヒコさん、ゆっくりしていってね。でも私、ちょっと忙しいから仕事にかかるわ」

 と言って、すぐに仕事にとりかかった。普段使っている革の端切れのようなものを使って何かを作るんだろう。

 ハタさんのところへ伝えに行くから僕も急ぐと言うと、カワさんは机に突っ伏したまま頷いてくれた。


 ハタさんのところへ行くと、いつものようにノッチが「ミツヒコー!」と言って大歓迎をしてくれた。うん、和む。

「ミツヒコ、畑は?」

「うん、5日後くらいにポワルドゥルキャロットのカールバーンが来るっていうから、伝えに来たんだよ」

「えっ、わあい!」

 ノッチはカールバーンと聞くと顔をパッと明るくさせた。ノッチなんてまだ4歳(になったらしい)なのに知ってるんだ。

 だけど工房に入って、ハタさんにそれを伝えると、

「うわああ! そうきたかー!」

 とハタさんは頭を抱えて叫んでいた。どうしたんだ。



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