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 一日の終わりに、人の足を洗う。

 僕はこの作業が結構好きだ。自分も疲れているんだけど、人から言われてやる仕事ではなく、自分の仕事と思えるから。それに一対一で向かい合うのもあって、普段畑仕事をしながらではできないような会話もできる。他愛もないとだけど、僕はこれで例の砂漠の民のこととか、カンミールという動物のことを知ることができた。

 カンミールは、どうやらとても神聖な動物らしい。

 前にハタさんに聞いた、井戸丸の12人兄弟が栄えたのもこのカンミールのおかげだとかなんとか。カンミールがいると栄えるのかな? ちょっと聞きなれない言葉ばかりだったので間違えて理解しているかもしれないけれど、おおむねそんな感じだと思う。

 とにかく、砂漠の民はそのカンミールを持っている(飼っているかな?)ので、彼らを本格的にやっつけることはできないそうだ。もとは親戚同士なのだし、なにか掟のようなものがあるのかもしれない。カンミールがいることで、リーダーの証なのかな、と思った。

 だから砂漠の民は、働かなくても食べ物を得ることができるし、植物の育たない砂漠に住んでいても滅びることがないんじゃないだろうか。

 そういったことを知ることができる、この作業は僕にとってはとても貴重な経験ができるものだった。


「明日は畑、休みだな」

 ヤマさんの足を洗っているとき、そう言われた。

「そうなんですか」

 いまいちこの辺の一週間がどうなっているのか今だにわかっていないんだけど、とにかく誰かがお休みを教えてくれる。

 そうすると、本当に畑には誰も出ていないということはわかるので、その日はハタさんの仕事を手伝うことにしている。ハタさんも喜ぶし、ノッチも僕のことを待っていてくれるから。

「ミツヒコはどうする?足やってくれるか?」

「あ、はい・・・えっと、夕方に来ればいいですか?」

 畑がお休みでも、足を洗いに来ていいのか。みんな休日ってどうしてるんだろうか。

「そうだな。お城の回収が昼には来るから、午後だったらいつでもいいぞ」

「お城の?」

 回収ってなんだろう。聞き間違いかな。

「お城に納める地代のことだよ。って、そうか、知らねえよな」

 聞き間違いじゃないみたいだ。話によると、どうやら税金のようなものらしい。そりゃそうだよね。お城の人だって土地を治めてるんだから、その分税収がないと食べていけないよね。全然気づかなかったよ。


 ということで、僕はそのお城の回収を見に行くことにした。

 畑の休みの日は、お城から誰かが何かを回収にくるってことだ。ヤマさんが教えてくれた時間にヤマさんの家に行かせてもらった。

― ガラン、ガラン ―

 ヤマさんの家で待っていると、鐘の音が聞こえた。それを合図にヤマさんは穀物袋をいくつか持って外に出た。

 外には同じように、畑を持っている人(普段僕を雇ってくれる人)たちが、穀物袋を持って立っている。そして向こうからは馬車のような荷車がやってくるところだった。

 車を牽いているのは、馬じゃなくて、どっちかというとダチョウのような動物だ。あれはカンミールじゃないのかな。見たことない動物だけど。

 馬車(ということにしておく)が到着すると、馬(ダチョウ?)から2人の若い男の人が下りてきた。

「名前を言ってくださいねー」

 若者は気軽な感じで、小作人(だよね。昔社会の授業でやった気がする)から穀物袋を受け取っている。特に書類と照らし合わせたりはしないらしい。

「いつも通りですか? 品種改良はどうです?」

「まあまあかな。今回改良したやつが入ってるから、そのつもりで見てみてくれよ」

「わかりました。お疲れ様です」

 だいたいこんなやり取りをしているようだった。

 感心して眺めていると、お城の人、つまり若いけれど役人がこっちを向いて聞いてきた。

「あの人は?」

 僕のことか。最近衣服は同じになったけど、顔というか髪の色はどう見ても外国人だもんな。ちなみに僕はイギリスと日本のミックスだから茶色い髪に茶色い目。ここの人たちは基本的に黒い髪の毛。でも顔の彫りはわりと深いと思う。顔立ちとしては、僕はそんなに違和感ないんじゃないかと思っているけれど、やっぱり知らない人が見たら外国人だと思われるんだろう。

「あいつはミツヒコっていう、ハタさんとこに住んでるやつだ。ウチやこの辺の畑を手伝ってくれてる。よく働く子だよ」

 子って。まあいいや。とりあえず紹介されたから会釈でもしておこう、と思ったら、役人はすごくフレンドリーだった。

「ミツヒコ? カッコいい名前ですね。どこから来たんですか?」

「あ、えっと、イタリアというところです」

「イタリア? きっと遠くから来たのでしょうね」

 たぶん、近くだと思うんだけどね。今思うと、近くて遠いところなんだろうなあ。

「ハタさんのところに住んでいるんですか? 不便はないですか?」

「はい。あの、よくしてもらっていて助かっています」

 ていうか、住民票とかはないだろうけど、そういう登録みたいなのはどうするんだろうか。ちょっと心配だけど、この役人たちのようすからだと、あまり気にしなくてもいいのかな。


 役人と言っても、普通のお兄ちゃんだった。僕より若いだろうし。

 それにこの辺の人たちととても仲がいいようだし。ちょっと安心した。でも、デバルド(Tシャツの上に着るエプロンみたいなやつ)の長さが膝まであるから、やっぱり役人だ。役人の服を初めて見たからちょっと新鮮だった。



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