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 サンダルや靴を作るカワさんという人は、ノムさんの家のすぐ近くに住んでるようだった。

「こんにちはー」

 教えてもらった家の扉を叩いて扉を開けた。ここらへんでは、鍵をかけないし、呼び鈴はないから、人の家を訪ねるときはこんな感じだ。しかもこの家は、普通の民家と違って高床になっていない。つまり平屋建てで扉の向こうは土間になっている、ハタ屋と同じ作業場だということがわかる。

 扉を開けると、案の定家の中は作業場になっていて大きな机がデンと構えていて、その机につっぷすように作業をしている人がいた。

「なに?」

 顔も上げずに僕に答えた人は、どうやら若い女の人のようだった。

「あの、サンダルを作ってもらいたくて」

「うん、良いわよ。ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来たらね。順番待ちで7番目。報酬は5日分。食べ物でも良いし、日用品でもなんでもいいわよ。足はc(・。・)?」

 作業の手を止めたくないらしく、顔も上げずに色々と説明をしてくるけれど、知らない単語が出てきた。オウム返しに聞くと、また同じことを言われた。

「c(・。・)ってなんですか?」

 もう一度聞くと、彼女は顔をあげた。怪訝そうに目を細めている。だけど僕のことを見て、すぐに外国人だとわかったんだろう。ハッとして立ち上がった。

「あらっ、あなた誰?」

「僕、ミツヒコと言います。ハタ屋の隣に住んでいます」

 怪しいもんじゃないってわかってもらおうと、一応住んでいるところも伝えた。彼女はなぜか近づいてきて、僕の顔をのぞき込むように目を近づけてきた。

「ハタ屋の隣のミツヒコさんね。あたしはキュイワンディ。みんなにはカワって呼ばれているの。ごめんなさいね、ちょっと忙しかったものだから、失礼なことしちゃって。ああ、足の大きさを聞きたかったの。ちょっとそこに座って?」

 キュイワンディ、ことカワさんは早口でしゃべりながら僕に椅子を勧めた。気が付くとストンと椅子に座っていた。

「ちょっと足を見せてね。ええ、そうね、このサンダルではあなたには小さいわね」

 そう言いながらサンダルをとっぱらって、僕の足を計測している。

「うん、いい形ね。ちょっと細くて、柔らかい足だわ。そうね」

 そう言いながら、今度は立ち上がって僕のサンダルを作業台の上に置いた。それをなにかの器具で押さえて、クリームのようなものを塗り込んでいる。そして少し引っ張っていた。

「これでどうかしら。少しは履きやすくなっていると思うわ。履いてみてちょうだい」

 言われるままに、渡されたサンダルを履いてみた。カワさんは熱心に僕の手足を見ている。

「わあ」

 さっきまで少しきつかったサンダルが、ぴったりになっていた。

 普通革の靴は少し伸びたりするけれど、だからといってサイズが変わるほどは伸びない。それがこれは、僕の足にピッタリになっていた。

「ちょうどいいです。あの、ありがとうございます」

 新しく靴を作ってもらう必要なんかないみたいだ。僕が立ち上がると、彼女はまた僕のそばまで寄ってきて、顔を近づけてきた。この人、距離感が近いんだけど、目が悪いんだろうか。

「そうね、このサンダルはこれで良いと思うのよ。ミツヒコさんは外国からいらしたから知らないと思うけど、このサンダルで使う革はとても丈夫なの。一足あればしばらく使えるのよ。だけど、あなたはもう一足欲しいでしょう。そうね、山を歩くための靴が欲しいんじゃないかしら。ハタ屋の裏には山があるものね。そうでしょう。だからあなたのために、とびっきりの靴をつくってさしあげたいわ。ああ、でも今は良い革がなくてとっても残念だわ。でも大丈夫、革が入り次第すぐにあなたの靴を作って差し上げるわ。だから、革が入ったかどうか毎日見に来てほしいの」

 いやいやいや、毎日って。

「あの、そうです。山に登るための靴が欲しいんですけど……ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来ないと革は手に入らないんですよね?」

「そうなの。今はポワルドゥルキャロットのカールバーンが来られなくて困っているの。でも、きっとすぐだわ。あたしはそう思うの。だって、本当にしばらく来ていないから、そろそろ絶対くるはずなの」

「だったら、ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来たら、またここに来ますよ」

「でもいつ来るかわからないもの。ね、毎日少しで良いからお顔が見たいわ」

 なんのこっちゃ。

 カワさんっていうのは、変な人だなあ。

「あのでも、僕、仕事も探さなきゃならないので、毎日は無理です」

「じゃあ、ここに住み込んでくれてもいいわ」

 なぜ……

「家はもうハタさんの隣にあるので大丈夫です。じゃあ、こっちのほうに来たらなるべく寄りますから」

「わかったわ、わかったわ。なるべく寄ってね。この辺でお仕事、きっとあるから」

 よくわからないけれど、カワさんはここに来てほしいらしい。まあ、顔を出すくらいだったらいいかということで、約束をした。



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