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ハタさんのところで布を織る仕事にも慣れてきた。そしてお城(じゃないかもしれない!?)の布も織りあがり、ついに僕は自分の布を織ることになった。
ていうか、いつの間にかに自分の布を織る算段になっていた。
ハタさんが、僕に整経をさせていたのは、自分の布を自分で織るための準備だったんだ。それで、ハタさんの織り作業を見ていたこともあり、自分の布を織る時には作業手順もだいたいわかるようになっていた。
機織り機は、お城の布を織ったのとは違って、小さいものだった。
「やり方は、今まで私がやっていたのと大差ないけれど、まずはこうして、こう。この順番で作ってごらんなさい」
「はい」
言われた通り織りだしたけれど“まずは”ってどういう意味だろ。まあ、良い。こうして、こう、だな。こうして、こう。
「ミツヒコ、かっこいい!」
「え!?」
なになになに!? なんで僕褒められてんの?
恥ずかしくて赤面している気がする。ノッチ、もう僕のこと見ないでくれい。
緯糸を通して布を織る作業は、思った以上に時間がかかった。ハタさんが10日って言ってたけど、これ、10日じゃ終わんない気がする。しかも、なんとか8日で一つ仕上げたと思ったら、
「じゃ、次はこれね」
と、次の作業を言い渡された。どういうことかというと、もうひとつ織らなきゃならないらしいのだ。どうやら今まで織っていた布は、体に直接触れる衣服のための布で、これから織るものは、前掛けや上着といった部分のものらしい。同じ糸を使って、違う織り方をすることで肌触りとかを使い分けるってことなのだろう。
ということでもう一回同じような作業をして、全部で15日くらいかかったかな。全然10日じゃ終わらなかった。
なんとか自分の布を織り終えると、今度は衣服を縫わなければならない。これは、基本的に自分でやるらしい。(ていうか、たぶん女の人の仕事なんだけど、僕に母親や奥さんどころか彼女もいないので、結局自分でやるのだ)ノリーナさんが衣服の縫い方を教えてくれた。
まずはTシャツのようなものを作る。
あったかい村ではあるけれど、なぜだか7分袖。そしてハイネックに見えるようなつけ襟をする。畑に出る男の人はこのつけ襟を着用していない人もいるけれど、普通は付けるものらしい。脱着可能だから暑かったら取ればいい。
とりあえずTシャツ部分ができたので、早速試着していると
「きゃあー、ミツヒコかっこいい!」
「え」
着替えシーンでノッチが興奮している。って、なぜ!?
「あははは。ミツヒコ、真っ赤よ」
そりゃそうだよ。何だろうなあ、まったく。
「ミツヒコは面白いねえ」
ハタさんまで笑っているけど、何? 面白いの、僕?
急いでTシャツを着て、つけ襟をつける。うん、苦しくない。
「似合うわよ」
「あら、良いじゃない」
「ミツヒコ、かっこいい~」
いやいやいや、ノッチ。お願い、もう褒めないで。
そんな感じで、僕の衣服を作るのは、なんだか妙に恥ずかしかった。
もちろんその後すぐにズボンも作った。ズボンはちょっとモンペみたいな感じで、足首のところがすぼまっている。
それから前掛け。これがこの村の(というか、この世界の?)特徴だと思う。エプロンのような、胸から腹部を覆う布が前だけでなく、後ろ身ごろもあってそれを脇の下とウェストを紐で結んで留めるんだけど、これがあるとなんかカッコいい。
「この前掛けは、体を動かして仕事をする人はこのくらい。それ以外の仕事の人は長いのよ」
とノリーナさんが教えてくれたけど、それ以外の仕事の人……?
「畑仕事以外に仕事があるんですか?」
「当たり前じゃない」ハタさんが言った。「お城で働く人たちは、この辺りを治めているんだから」
つまり政治があるってことか!
「お城で働く人でも、庭師とか調理師はあまり長くなくて、何かの研究をしたり教えたりしている人は膝丈くらいなのよ。執政官、つまりデュウはくるぶしまであるデバルドを着ているわ」
デバルドっていうのか。さすがにエプロンじゃないよな。
「そうなんですかー!」
まさかそんなにお城がしっかりした政治を行っているとは思っていなかったから驚いた。だけど考えてみれば、これだけ栄えているんだから、誰かが土地を治めていても不思議じゃないよな。
僕の知っている言葉でいうところの、ホワイトカラーはデバルドの長さが長くて、労働者は丈が短いってことがわかった。
衣服はふた揃え作り、着替えてみると僕もなんとなく村の一員になったような気がした。
「ミツヒコ、カッコいい~!」
ノッチ、これしか言ってないだろう……もう、まいっちゃうな。でも、まあ嬉しいけど。
衣服ができたので、約束通り僕の着ていたポロシャツを渡した。(ちゃんと洗ったよ!)
「ありがとう、ミツヒコ」
ハタさんはポロシャツをひらひらさせて、踊り出した。いやいや、踊る? そこ、踊るところなの?
「うわあ、良いなあ。ノッチも欲しい」
いやいやいや、そりゃもうひとつポロシャツあるけど、なぜ。僕が困っていたら、その顔を見てハタさんとノリーナさんが笑っていた。
「あ、じゃあ、ノッチにはこれをあげるよ」
ズボンのポケットに入っていたハンカチ。これなら数枚持ってるし、布は今、織ったのがあるから、と思ってノッチに手渡したら、ノッチの顔がキラキラ輝いていた。
「うわあ~、ミツヒコ、ありがとう~」
「あらー、いいわね。それも良い布ねえ」
ハタさんがすごい目で見ている。ああ、タオル地だもんね。
「あげないよ、これノッチの!」
ノッチはハタさんの目に負けていなかった。うん、強い。
なんにせよ、僕はこれでこの村の衣服を手に入れることができた。よかった、よかった。