表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移していたらしい僕の執事ライフ  作者: marron
イタリアではないと気づく
16/66

16


 ハタさんの家に住み込んで手伝いをしていて、やればやるほど、仕事の多さ大変さがわかるようになった。ハタさんが、弟子入りを熱心に勧めてくる気持ちもよくわかる。


「ハタさん、いる~?」

 その日の朝、ノッチと一緒にノリーナさんがやってきた。

「あらあ、ノリーナ。来てくれたの? じゃあ、さっそく頼むわ」

 ノリーナさんの姿を見ると、ハタさんは有無を言わさずに仕事に引っ張り込んだ。そりゃそうだ。仕事はたっぷりあるんだから。

 糸を紡ぐところから、整経(せいけい)にもっていくまでだってかなりの仕事量なんだ。今日は織りを教えてくれるところだったけれど、ノリーナさんがいるなら、僕とノッチは糸を紡ぐ作業で良いし、その先の染めやらボビンに巻く作業(なんていうかは知らないけど、2工程くらいはあるように見える)をやればいいんじゃないかな。なんて、僕が仕切ってるわけじゃないからそこはよくわからないけど。

 まあ、僕が思った通り、その日は僕とノッチは糸を紡ぐ作業にとりかかることになった。


「ねえノッチ? ノッチはお友だちと遊びに行かないの?」

 作業をしながらおしゃべりをするのは、いつものことだ。一人で黙々と作業をするのも楽しいけれど、僕はやっぱり誰かと話すのが好きだ。

「おともだち? ミツヒコはお兄ちゃんでおともだち」

「あはは、それは嬉しいな。でも、ここにきたら仕事ばっかりで、ごめんよ。本当は遊んであげられたら良いんだけど」

 ノッチの糸をかけるのを手伝ってあげながらそう言うと、ノッチは大きな目をくりくりとさらに大きく見開いて、それから笑った。

「おしごと、楽しいもん。あのね、ミツヒコとおしゃべりできるから、いいの」

「そうなの? 僕もノッチが来てくれると楽しいよ。それに言葉も教えてくれるし」

「おしえてなんてないよお」

 ノッチは笑っているけど、本当は教えてもらってるんだな、これが。子どもの会話は難しくないから、言葉を覚えるのにぴったりだ。それに同じ作業を繰り返しているから、言葉も繰り返す。頑張らなくても覚えられるんだ。


 ハタさんとノリーナさんも、向こうで会話をしているようだった。

「ノッチは本当に上手なのよ。今やってることだって、みんな難しいって言うけど、ノッチは最初からちゃんとできていたのよ?」

「まあ、そうなの? でも、無理よ。私は不器用だし。この作業くらいしかできないわ」

「全部ができる必要はないのよ。ここの作業だけだってすごく助かるもの。ね、ノリーナ、お願いよ」

「でもねえ」

 あれはきっと、弟子入りの勧誘だ。

 ノリーナさんは前にも時々手伝いに来ていたらしいし、今もたぶん畑仕事のほうがひと段落したのか、こうして手伝いにきたのだろう。ノッチが毎日のように来ているから、様子を見に来たのもあるんだろうけど。

 本当は僕がずっとこの仕事を手伝えればいいんだけど。こうなると、断るのは悪いだろうか。

「ミツヒコ? どうしたの?」

 ついぼんやりしていたらしい。

「なんでもないんだ。ただ、僕はこれからどうしたらいいのかなって、考えていたんだ」

「これから?」

「うん。ああ、ノッチは、大きくなったら何になりたいの?」

「大きくなったら? おとなになるよ。ママになるよ」

 なんかちゃんと伝わってない気がする。将来の夢ってなんて言うんだろうか。それとも、そんな感覚はないのかな。職業を自由に選べる環境じゃないのはわかる。だいたい、この村の人は農業をしているし。

「そうだよねー、大きくなったら大人になるよね。みんな、大人になるよね」

「ミツヒコは? おとなになるの?」

「あはは、僕はもう、大人だよ?」

「もうおとな?」

 あれ? そう見えないかな。ていうか、もしや、大人の定義が違うか?

「僕はね、前に住んでいたところで、執事の勉強をしたんだ。この国でそれをなんていうかは知らないし、もしかするとそんな職業はないかもしれない。

 だけど僕は主人に仕えて、その主人のすべての物に仕えて守る仕事がしたい。すべての物って言っても、たんなる物質じゃなくて、主人の家や仕事、家族や友人、すべてにおいて僕が助けになるような、そういう仕事がしたいんだ。僕のいた国の執事っていうのはね、信頼される尊い仕事なんだ。小さなことに忠実な執事は大きな仕事も任される。僕はそんな、立派な執事になりたい」

 カラカラと糸を紡ぐ音が響いている。ノッチには難しい話なのに、つい熱を込めて話してしまった。ノッチだったから言えたのかもしれない。こんなこと、こんなにお世話になっているハタさんには言えないことだ。


 だけど、僕は向こうの部屋でハタさんが僕の言葉を聞いていたなんて、知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ