カルテットパレード
「兄ちゃん! また余ったプリン食べたでしょ!」
「食べてねぇよ!」
「嘘だ! いっつも余ってるプリンはなくなってるんだ! 兄ちゃんに決まってる!」
「いや、マジで食べてねえから!」
僕は冷蔵庫の扉を閉めて、ゲームをやっている兄ちゃんの隣に座った。そして、コントローラーのボタンをメチャクチャに押してやった。
「おい! やめ……負けちゃったじゃないか!」
兄ちゃんが僕の背中をパーで思いっきり殴った。僕も負けじと、兄ちゃんの腹を蹴飛ばした。
「もう、あんた達! いっつもデザートでケンカして! もう買ってこないわよ!」
お母さんの怒鳴り声が台所から聞こえてきた。僕たちはいつも、この声とデザートが無くなってしまうことが怖くていつもそこで終わりにする。
お母さんは僕らが大人しくなったのを見ると、洗い物の続きを始めた。兄ちゃんもコントローラーを手にとって、ゲームをやり始めた。
僕は心の中にあるモヤモヤが収まらなかった。
きっと悪いのはプリンを食べた兄ちゃんじゃない。
プリンなんだと僕は思う。
次の日、僕はお母さんと二人で買い物に行った。兄ちゃんは友達と遊んでいて来なかった。
お母さんが今日の晩御飯のおかずを決めながら野菜や魚、お肉を買い物かごに入れていく。僕もお母さんに指示されたものを探しては買い物かごに入れた。
しばらく歩くと、デザートのコーナーに着いた。僕は色々と並んでいるプリンやヨーグルトを眺め始めた。どれもおいしそうである。
そして、どれも「3つ」入りだった。
「3つ」入っているからいつも兄ちゃんとケンカになるのだと、昨日僕は思った。プリンもヨーグルトもゼリーも全部「3つ」入り。
眺め続けていると、今度は「2つ」入りのワッフルやカットされたロールケーキが置いてあった。
「2つ」なら兄ちゃんとのケンカも無いだろうと考えたこともある。でも、「2つ」じゃだめだ。
足りない。もっと食べたくなってしまう。
もちろん「4つ」入りのデザートもあった。しかし、一つ一つが小さい。それでは「2つ」といっしょである。
僕は仕方なく「3つ」入りのプリンを買ってもらうことにして、お母さんとお店を出た。
今日は珍しく、お父さんが早く帰ってきていた。久しぶりの4人での晩御飯だった。
4人でいるとやっぱり楽しい。そういえば、帰り道の途中、見かけたほとんどの車や補助輪つきの自転車は、すべて「4つ」のタイヤで走っていた。ずっと前に誰かが、「4という数字は『死』を連想させるから嫌われている」と言っていたけど、僕の周りで考えてみれば「4という数字は『幸せ』の最初の文字」になる。
晩御飯を食べながら、やっぱり「4」が良いと思った。
晩御飯を食べ終わった後、僕と兄ちゃんはプリンを仲良く食べた。でも、それは今日の話で明日はまたケンカになる。すると兄ちゃんがある提案をしてきた。
「このあとゲームで買ったほうが残ったプリンをもらえるのはどうだ」
兄ちゃんはニヤリと笑って
「えー、それじゃあ僕がいつも負けるから嫌だ」
「そう言うと思ったぜ。だから、やるゲームはお前に決めさせてやる! そうすれば文句無いだろ」
「兄ちゃんかそれで文句を言わなければいいよ」
「俺が言ったルールだ! 文句は言わない!」
そう言って兄ちゃんはすぐにゲームの準備に取り掛かった。
「お、ゲームするのか」
お酒を飲みながらお父さんが僕に話しかけてきた。
「明日のプリンをどっちが食べるかで勝負するんだ」
「いいねー。そうだ、プリンと言えば、この前食べたやつおいしかったな」
え? あのプリンを食べたのはお父さんだったのか!?
「明日のプリンをかけて戦うなら俺も混ぜなさい」
「いいぜ! 勝負だ!」
「じゃあ、お母さんも参加させてもらおうかしら。私もプリン食べたいから」
え? え? え?
「みんな相手にしてやる!」
僕は戸惑いながらコントローラーを握りしめた。家族4人揃ってテレビの前に座り、ああだこうだ言いながらゲームに熱中した。
僕はプリンのことなんてすっかり忘れていた。
ゲームをやり終えて、僕はやっぱり「4」っていいなと思った。
読んでいただき、ありがとうございました。