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囚われのリベラシオン  作者: つきしまいっせい
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○第五話 戦闘前

「気に入らねえな」

 銀髪の元ヤン、桐丘郷は吐き捨てるようにそう言った。

「名前がか?」

 冷静な口調で公安量子魔法迎撃部隊=QCFの隊長、滝山が訊ねる。

「ああ」

 最近になって急速に勢力を増している反体制派にレベリオン・ルージュ、通称RRという組織がある。滝山からその名を聞いた郷は、そんな反応をして見せたのだった。

「なんか、ノース・リベリオンみたいな名前だよね?」

 遠慮がちに会話に加わってきたのは赤羽大地。赤い髪をした、いかにも貧弱そうな少年だ。

「確かに。とはいえノース・リベリオンを目標にしている反体制派組織は多い。やむを得んだろう」

「それが余計気に入らねえってんだ!」

 滝川の客観的な反応に対して、却って声を荒げる郷だった。


 史上最悪のテロ事件を起こした霞治郎という男は、“ノース・リベリオン”と名乗る反体制派組織を作っていた。

 組織の目的は、高級官僚を一人ずつ暗殺していくことで官公庁にプレッシャーを与え、自浄作用を促すというものだった。既得権を重ね、一般人からすれば夢のような待遇を得ていながらもなおそれに飽き足らず、更なる好待遇を求めた彼らは社会的な弱者を搾取する官製貧困ビジネスを確立させていた。

 立法府も主要な閣僚はすべて元官僚で占められ、司法府は人事権を完全に掌握され、体制の監視者たる報道機関はその上層部を官僚の子女たちに牛耳られるようになって久しい。ネットさえ官僚の下僕たる“五毛党”によるミスリーディングがはびこり、真実は国民から遠ざけられているという始末。

 もはや彼ら官僚を止められる勢力はこの国にはなかった。

 だから、国を変えようとするには官僚たちに直接的な脅威を与えるしかなかった。

 そして、一人ずつ暗殺されるという恐怖心こそが、彼らに変革をもたらすはず。

 国民の怒りを知らしめるただ一つの手段となり得る。

 そのような信念を掲げる霞治郎に共感した若者たちが“ノース・リベリオン”に加わり、社会変革のため真剣に闘っていたのだった。

 桐丘郷もそんなメンバーの一人だった。

 だが、その霞治郎という男は組織壊滅に際して変貌を遂げてしまった。厳密にいえば元々隠蔽していたサイコパスとしての本能を剥き出しにしたのだ。その結果、官僚貴族による搾取とは無関係な一般人まで巻き込む大規模テロを引き起こし、何十人もの無辜の市民を死に追い込んでしまったのだ。

 それは、大儀のために闘っていた郷にとっては決して受け入れられない愚挙だった。

 そんな霞治郎の組織をリスペクトする多くの反体制派組織は、従って郷にとってガマンならない存在なのだ。

「気に入らねえっていえば、このカッコも気に入らねえんだよ!」

「それは仕方なかろう」

 滝山はしかし、さらりと受け流す。

 装甲バンの中。郷はエンハンスド・エクソスケルトン=強化外骨格(パワードスーツ)を装備していた。

 長身の郷に合わせて作られているそのパワードスーツは立位で2mを優に超える。背の高い装甲バンの中であっても立ったままというわけにはいかなかった。そのため郷は、四つん這いの姿勢をとっていなければならなかった。

「もうちょっと、なんとかなんねえのかな、コレ?」

「ガマンしろ。ミッション前の移動時だけだろうが」

「ちっ」

 舌打ちをしながら、郷はバンの長いすに眼を向けた。

「ていうか(リーダー)はどうした?」

「学校から向かっているところだ」

「学校ねえ……」

 わざとらしく溜息をつく郷。

 反体制活動をおこなっていた犯罪者である自分とは違い、高島翼は官僚貴族に引き取られた養女という恵まれた立場にあった。しかも通っているのは官僚養成機関への登竜門として名高い都立の超名門高校だ。同じチームでありながらも強烈な格差がそこにはあるのだ。

「とはいえ今回の任務、翼はいらないかもしれんな」

「どういうことだ?」

「お前がメインってことだ」

「へえ」郷がほうと頷いてみせる。「そいつはちょいと乗り気になってきたな」

「画像が送られてきたぞ」

 滝山の言葉に反応して、郷はフェイスガードシールドを降ろし、仮想ディスプレイを表示させる。

 UAV=無人航空機から送られてきた画像数点を確認すると、

「なるほど。確かにコイツぁオイラ向きだ」

 そう呟くとシールドを上げ、心配顔をしている大地に声をかけた。

「よし、翼が来るまでに片づけちまおうぜ」

「うん!」

 元気よくそう返事をすると、大地は四つん這いになっている強化外骨格(パワードスーツ)の背中に装着された盾に乗っかった。

「しっかり捕まってろよ!」

「うん」

「いいか大地」郷はそこで野太い声を響かせた。「ゼッテエに、ゼッテエに手を離すんじゃねえぞ、わかったなッ!?」

「う、う……ん」

「ゼッテエだぞッ!」

 郷がしつこいくらいに念を押すと、滝山が冷静に声を出した。

「現着だ」

 間髪を入れずに響く、気合の入った郷の叫び。

「エンゲージッ!!」

 直後、装甲バンの後部ドアが開かれる。

 バンは時速30km程度の速度で走行中だ。

 20mほど後方には赤色灯を回しているだけでサイレンを鳴らしていないパトカーが尾いていた。郷は躊躇せず、流れていくアスファルト上に躍り出た。

「ひッ!?」

 虚を突かれたように驚きの声を上げる大地を気にせず、郷は着地。パワードスーツの足部底面に装備されているウィールが逆回転の唸りを上げる。

 バンから飛び出したことによる慣性とウィールが回転する速度差はほぼゼロ。

 静止している地面に飛び降りた程度の弱い衝撃だ。

 郷はそこでウィールの速度を緩めていく。

 既に涙目になっているに違いない大地のことを考えて、郷は笑い出しそうになっていた。


「開いた」

 装甲バンの後方を走っていたパトカー。ハンドルを握る警官がそう声に出していた。

 観音開きの後部ドアが左右に開くと同時に飛び出してきたのはスケルトンタイプの強化外骨格(パワードスーツ)。ブレーキを踏む暇すら与えずに、それは路上を後ろ向きに走行していた。

 その距離が少しずつ詰まっていく。

 アクセルを緩めるものの、パワードスーツはなおもじわりじわりと距離と縮めてきた。

 あともう少しで触れてしまうという近さになって、パワードスーツの使い手はニヤリと口を歪ませた。と同時にスピンターン。瞬時に切り替えるウィールの進行方向。今度は逆に前方へ向かって猛加速を始める。

 パワードスーツは左脚一本で跳躍。

 次いで右脚で装甲バンの縁を踏みつける。

「へっ?」

 あまりにも自然な操作だったため、警官たちは気づくことがなかった。

 その手が握っているのは単なるグリップ。操縦桿に類するものではなかったということを。

 つまり、すべてのコントロールを脳波を通じておこなうブレイン・マシン・インターフェース=BMIを通して成されていたといことを。

「あっ――」

 パトカーのフロントシールドからその姿がかき消えた。

 助手席に座る警官だけが、左側ウィンドウの向こうで郷が跳躍していく姿を捉えることができたのだった。信じられない脚力でもって飛び上がると、高い塀の向こうへと吸い込まれていくパワードスーツと、その背中にしがみつく少年らしき姿を。

「あ、あれが……」

 噂には聞いていたがその眼で見るのは初めてだった。

「あれが、公安量子魔法迎撃部隊=QCF?」


「ひぃいいいいいいいいいい――ッ!!」

 涙目どころか実際に涙を撒き散らしながら、大地は衝撃と風圧に翻弄されていた。

 ――ゼッテエに手を離すんじゃねえぞ、わかったなッ!?

 郷の言葉だけを必死に脳内で再生させることで、大地はとにかくパワードスーツの盾にしがみつく。

「手を離しちゃダメ手を離しちゃダメ手を離しちゃダメ手を離しちゃダメ……」

 走っている車内から飛び出すとは思っていなかった。

 そしていきなり塀を跳び越えるとも思っていなかった。

 郷のことだから、敵本拠地の正面から突破していくものと決めつけていたのだ。

「うわッ!」

 ゴンという衝撃に続き、内臓をすくい上げられたような浮遊感が下腹からせり上がる。と、その直後に脚部にのしかかる重圧。

 郷は敵の拠点内に着地していた。

 飛躍した高度からは考えられないほど完璧に衝撃を吸収している。

 しかし重力による慣性までは消すことができず、大地はたまらず膝を折っていた。

「大地」

 郷は低い声で呼びかけてきた。心なしか嬉しそうな感じさえする。

 大地は恐る恐る、郷の背中越しに前を見た。

 郷と同じ機体を操るテロリスト5名がその場に立っていたのだ。

「いくぞ、大地」

 余裕すら感じさせる郷の声。

「そ、そうだ……」そこで大地はようやく本来の目的を思い出す。「闘わなくっちゃ」

 郷が動き出す気配を感じると大地はパワードスーツの背中から飛び降り、敵本拠地を取り囲む高い塀に沿って全力疾走を始める。

 遅ればせながらミッション突入の声を出した。

「エンゲージッ!」

 直後、郷は爆発的な加速を開始する。

 自分と同じ強化外骨格(パワードスーツ)を装備した敵に向かって。

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