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序
びょうびょう。
びょうびょう。
恐ろしいほどの音を鳴らし、風が荒れていた。
夜空を飾る満月の中、小さな黒点。
「やあね、髪が乱れてしまうわ」
満月を背に、足下の街を見下ろす少女は呟いた。
かたかたと笑ったのは、少女が座る杖の飾り。王冠をつけたしゃれこうべ。
「うるさいわね…これでも女ですもの。少しくらい気にしてもいいでしょう?」
少女の言葉に、しゃれこうべは再びかたかたと笑う。少女には何か聞こえているのか、むっとした表情を浮かべるが、それはほんの一瞬のこと。気持ちを切り替えるように、長息を漏らした。
「それにしても、この腐臭は我慢出来ないわ。早く行きましょう」
―『魔神』の元へ。
その声は、少女が発したとは思えぬ冷たさだった。
一際強い風が少女の髪を乱す。その風を契機に、少女はその場から飛び去った。流星の如き速さで。