リーダー格の男
考え事をしている内に、人間達に運ばれて森の中まで来ちゃった。
話しかけるタイミングも失っちゃったし、このまま黙っていようなか?
いきなり話しかけたらビックリしちゃうよね?
うわっ! 拓けたところに出たと思ったら、人間がいっぱい!
三十人くらいいるのかな?
こんな森の中で汚い格好をした人間が三十人以上居たら……
怪しすぎるよ……
あ、見張りの人かな? こっちに向かって走ってくる。
「どうでした? 何かありやした?」
「いや、何も無かった」
「そうですかい。なら安心ですな」
「お頭は? もう起きているか?」
「へい。ついさっき起きて、今は飯食ってやす」
「そうか。じゃあ報告へ行ってくる。お前らはもういいぞ。休んでおけ」
一緒に探索してた人間達はバラバラになって木陰で休みだした。
それを確認してから、リーダー格の人間は僕を持ったまま奥へと進んでいく。
お頭って呼ばれている人の所へ連れて行かれるんだね。
お頭ってどんな人かな?
怖い人かな?
優しそうな人ならいいなぁ……
ちょっと進んでいくと、テントが見えてきた。
他の人間達は地べたに寝転んだりしてたけど、お頭って人はやっぱ特別なのかな?
「お頭。報告に来ました」
「おう、入れ」
テントに入ると、干し肉に齧りついてる人間がいた。
頭も髭もボサボサ。目つきはするどくてガタイはいい。力は強そうだけどアホっぽい感じ。力任せでなんでも壊しちゃうような人なんじゃないかな。
「で? なんの報告だ、クルト」
「はい、先程川岸へいった奴が変なものを見たとかで、調べに行ってきましたが、特に異変は無く」
「異変が無かっただけを報告に来たのか?」
「いえ、その時にこれを見つけて」
「なんだ? 剣じゃねぇか。それがどうした?」
「かなりの業物だと思うんですが……剣には詳しくないのでお頭に判断してもらおうかと」
「見せてみろ」
お頭に渡される。
きっと鞘から抜かれちゃう。
さっきの感情の激流がまたくる。
ちゃんと抑えるんだ。感情を抑えるんだ。
「ほう、鞘や鍔だけでもかなりの物だってわかるな。これ、抜いたか?」
「はい、刃は漆黒でしたが、かなり切れ味の良さそうな…」
「漆黒? ……抜いたのはクルト、お前か?」
「は? はい、そうですが……」
「これを見つけてからどれくらい経った?」
「川岸で見つけて、そのままこちらへ来たので……十分くらいでしょうか」
「そうか……この剣だが一旦預か……いや、お前が持ってろ」
「えっ? よろしいのですか? お頭に使ってもらおうと思ってたのですが」
「あぁ、クルトが試してみてくれ。この剣の性能を」
「はあ……わかりました」
「そうだな……とりあえず、次の大仕事が終わった後に使い心地を聞かせてくれ」
「はい」
「それと見張りの奴らに伝えておいてくれ。今日か明日には来るはずだから注意しておけと」
「わかりました。では……」
鞘から抜かれなかった。
お頭さんは僕の事、興味無かったのかな?
でも漆黒の刃って聞いた時に一瞬だけ、すごい表情になったんだよね。
僕の事知ってた? うーん……わかんない。
でも鞘から抜かれなかったから良かったかな? まだあの感情に勝てるかわからないからホっとしちゃった。
それと、僕を運んでる人間はクルトって名前らしい。
それにしても、今日か明日……何があるんだろ?
さっきもそんな話してたよね。
こんな森の中に三十人くらいのむさ苦しい男達。お頭。大仕事。
えっ? あれ? この人間達ってもしかして……
「来たぞー! 全員準備しろー!」
「来たか! お頭―! とうとう来たみたいです」
「そうか。よし、全員予定通りに所定の位置へつけ」
「「「へい!」」」
「よし、俺達も行くぞ」
「「「はい!」」」
クルトも数人を連れて動き出した。
森から出て街道が見える所。でも街道を移動していれば死角になってて向こうからは見えない。いっぱい居た男達も同じように隠れているみたい。
これは……あれだよね? 絶対襲う感じだよね?
この人間達って、盗賊?
僕は盗賊に拾われてたの!?
「後少しでここを通るはずだ。全員手順は覚えているな?」
「はい。まずは護衛をしているであろう冒険者を狙って矢を射ります。そしたら特攻部隊が走り出すので、俺達はそれを確認した後に馬車を狙います」
「よし、大丈夫だな。もっと近付いてくるまで弓矢を準備して待機だ」
「はい」
確定だ。クルト達は盗賊だ。
大仕事って言ってたし、貴重な物でも運んでいるのかな? それとも何か大量に運んでるのかな?
どっちでもいいけど……ここで殺し合いが始まっちゃう。
盗賊は……盗むのは悪いことだよね。許しちゃいけないと思う。
襲われてる人達を助けなきゃ!