川岸の出会い
よし、これで誰かが川に近付けばきっと見つけてくれると思う。
もうすぐ陽が昇るし、顔くらい洗いにくるんじゃないかな?
人間に会ったらなんて声かければいいんだろ?
こんにちはとか? いやいや、これから陽が昇るところなんだからおはようでしょ!
それとも、初めましてってあいさつしたほうがいいのかな?
あー! どうしよう!? なんにも考えてなかったよ!
___ジャリッジャリッ___
あ、足音!? もう誰か来ちゃう!?
まだ心の準備が……
「あ~、眠いなぁ。ったく、見張りなんか一人か二人いればいいだろ」
「そう言うなって。寝ている間に襲われて、そのまま死んじまうよりマシだろ?」
「まぁ……な。だけどわざわざこんな森の中で……」
「それも後少しだって話だろ? 予定では今日か明日って言ってたんだ。我慢しろよ」
「わかってんだよ! わかってんだけどよ……」
うわぁ、人間だ。
でも……なんだろ。二人ともボサボサの頭にボロボロの服。胸当てだけは皮で作られているみたいでしっかりしているし、腰には剣を吊るしているけど……なんか汚らしい。
川で顔洗ってるけど、まったく綺麗にはなってない。
でも初めて会った人間に変わりは無いし、この人達に連れて行ってもらおう。多少汚くても気にしない。
いきなり話しかけるのも恥ずかしいし、向こうが僕に気付いてくれればいいんだけど……
薄暗いせいか気付いてくれる雰囲気も無いし……
うーん、どうしようかな?
しょうがない、とりあえず。
「“マインドコントロール”!」
あれ? 魔法が効いてない!?
あ、そうか。“マインドコントロール”は知能の低い生物にしか効かないんだっけ。小動物や虫くらいにしか効かないんだ。
えっと……じゃあどうしようかな。早くしないとどっか行っちゃうよ!
そうだ! ちょっとした音を立てればこっちを見てくれるよね? 魚が跳ねた位の水飛沫をあげればいいかな。
魚が跳ねるくらいだからちょっとだけ“アクアボール”を出せばいいんだ。
ちょっとだけ。すっごく弱いやつで……
「“アクアボール”!」
___どばしゃーーーーーん____
「おい! なんだ!?」
「わからねぇ! やばい、逃げろ! 急げ!!」
……いなくなっちゃった。
すっごい弱い魔法を出そうとしただけなんだよ?
それなのに三十センチくらいの玉が出てきて、凄い勢いで川に突っ込んでいった。
そんなつもりじゃなかったんだけど……
人間も逃げて行っちゃったし、失敗した……
僕は魔法の威力の調整とか出来ないんだね。知らなかったよ。
よし、今後の課題だ!
威力の調整が出来るように頑張ろう! 次から頑張ろう、うん!
さて、人間もいなくなっちゃったし。これからどうしようかな。
…あれ? また誰か近付いてきてる?
「なんなんだよ、朝っぱらから」
「何が起きたかわからないんスよ! だけど川が爆発して……さすがにほっとけないじゃないスか!?」
「川が爆発? おまえ何言ってんだ? 頭大丈夫か」
「俺だって良くわかってないんスよ! でもこれで何か起きちまったら、お頭に殺されちまう!」
「お頭は怖ぇからな……で、川まで来たけど何もねえぞ? 寝ぼけてただけじゃねえのか?」
「そんな目立つ所に立っちゃダメっスよ! どこからか魔法を撃たれたのかもしれないんスよ!?」
「魔法って言ってもな。こんな森の中に魔法使いなんているわけないだろ?」
「魔法じゃなきゃあんな爆発起きるわけないッスよ!」
「わかったから落ち着け。お前が騒いでるほうが目立つんじゃないか?」
「……!!!」
「とりあえず、何か起きてからじゃ遅いから一応調べはするが……何も無かったら、お前わかってるな」
「……はい」
「よし、お前達は向こう岸へ行け。俺達はこっち側を探ってみる」
「わかりました」
なんか人間が増えた。
しかも探るって言ってるし、これで僕を見つけてくれるかな?
二人が川を渡って向こう岸へ行っちゃったけど、こっち側にも三人残ってるし大丈夫だよね。
「人が歩いたような痕跡もないな」
「そうスね。やっぱりあいつらが寝惚けてただけなんじゃないですか?」
「まったく、時間の無駄だな。……ん? あれはなんだ?」
「あれって? どれですか?」
「ほれ、そこの川岸に何か引っかかってないか?」
!!
気付いてくれた!
あー、どうしよう! ドキドキする!