目覚め
「あれ……ここは……」
すっごい長い間寝ていたみたい。
なんかカビ臭いけど、僕はなんでこんな場所で寝てたんだろ?
砕け落ちている柱。破れ、腐っている布。昔は豪華だったんじゃないかと思われるボロボロの大きな椅子。うん、まるで廃墟。
まるでっていうか…廃墟だね。
埃も積もってるし、灯りも何も無いから幽霊でも出そうな雰囲気…
そしてそんなボロボロな部屋を見下ろす僕。
……見下ろす?
「えっ? え……え!?」
体はまったく動かない。自分の体を見る事も出来ない。けど、体を縛る物はわかる。
鉄を格子のように組み立てて柱にガッシリと固定されてる。
柱の上の方に固定されてたから見下ろせたんだ。
そっか。やっと解った。僕は……剣だ。魔王様の為に作られた剣だ。
……思い出した。全部。僕が見てきたもの。
楽しく平和に暮らしていた魔族の皆。
人族の勇者とか呼ばれてた人間に、騙されて殺された魔王様の姿。
その後すぐ、人族の軍隊が攻めてきて……
皆死んじゃったのかな……逃げられたのかな。
でもあれからもう何年……ううん、何百年も経ってるんだ。もし逃げてても皆寿命で死んじゃってるかな。
僕を作ってくれたエディさんも生きてないよね……
懐かしいなぁ。
魔王様に最高の剣を献上するんだって、ずっと修行して素材も自分で集めたんだって自慢してた。魔王様には漆黒が似合いますって言って、僕は全身真っ黒なはず。
初めて魔王様に会った時のことも絶対忘れられない。
箱へ入れられて、ずっと緊張で震えてるエディさんに運ばれたから、いつ落とされるかビクビクだった。でもどんなに震えててもさすがに落とすことはなかったね。
魔王様が蓋を開けた時のあの顔。今でも鮮明に思い出せる。魔族の中で一番腕がいいと評判だったエディさんが、最高傑作だって持ってきたからすごい期待したんだろうな。僕を見た瞬間に困ったような微妙な顔をして。
そりゃそうだよ。だって魔王様は剣なんて使わないし。いや、使えないし。魔法はすごいけど、剣なんて持ったこと無いって言ってたもん。なんで杖とかにしなかったんだろ。そしたら使ってもらえたのに。
魔王様は自分じゃ使えないから、配下の者に譲ってもいいかエディさんに聞いてたけど……発狂しそうなくらい拒否してた。
魔王様も優しいから、エディさんと話して、結局飾られることになったんだよね。魔王様の玉座があるすぐ後ろの柱に。謁見するときに魔王様へ跪いて、顔を上げたときに見えるように高い場所へ。
だから勇者たちは僕に気付かなかった。跪くなんてしなかったし、上を見る事もなかったから。
でも……なんで僕はこうやって色々考えられるようになったんだろ?
ちゃんと知識があるのも分かる。僕みたいな物を知識あるアイテムって言うのも知ってる。
知識あるアイテムは、長い年月魔力の強い場所にあると生まれることがあるらしい。この地は、魔族が住んでたから他の場所に比べれば魔力は高いだろうけど、そこまで違いがあるわけじゃないし……
あ、そっか。魔王様だ。これは魔王様の魔力だ。
ここで……僕のすぐ下で魔王様が殺されちゃった後、莫大な魔力がずっとここに漂ってたんだ。もちろん普通の魔族じゃそんなことはありえない。魔王様だからこそ。
エディさんが僕にオリハルコンやミスリルを使ってくれたのも良かったのかも。魔力を通しやすい金属だから。
エディさんに体を作ってもらって、魔王様から命を頂けたんだ。
……魔王様。僕はどうすればいい? どうしてほしい?
あの勇者や人族に復讐してほしい?
あれ程優しかった魔王様だから、復讐は望まないかなぁ。
どんな時でも自分のことより周りの人のことを気にするような人だったもんね。
魔王様なら復讐の為に生きていくより自分の好きな様に生きろって言ってくれる気がする。
魔王様は大臣とも話していたよね。魔族は他の種族に嫌われているから、もし出会ったら殺されるだろうって。だからすぐに仲良くすることは出来ないかもしれないけど、少しずつでも良好な関係になっていきたいって。
種族なんかに拘らず、力仕事が必要なら獣族に頼めばいい。魔力が必要なら魔族が手を貸そう。手先が器用な人族には色々作ってもらって。皆が得意なことをやって、助けあいながら生きていけばいいって。
そんな平和な世界になったら世界中を旅してみたい。いろんな人と出会って、いろんな物を見て。違う種族の人と馬鹿笑いしながら酒を酌み交わしたい。
その夢。僕が引き継ぐよ!
お酒は……飲めないかもしれないけど。
魔王様が出来なかったこと。やりたかったこと。僕が頑張る!
それが僕のやりたいことだから。
「見ててね。魔王様」
僕にどこまで出来るかわからないけど……やってみるよ、皆で笑いあえる世界の為に!
初投稿になります。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。