俺はイケメンが嫌いだ。
人は見た目が9割とよく言うが、全くもってその通りだ。
何故なら、イケメンなだけで女性にモテて、人が集まり、そこでコミュニケーション能力が上達し、そのコミュ力と顔を使って営業すれば、たちまち営業成績は上がり、高収入になる。
地位が高くなれば更に人は集まり、今度は優秀な人材、美女の群れがお待ちかね。
恋人選び放題、お金も使い放題、人生バラ色。
・・・・・はぁ。
全く腹が立ってしょうがないぜ!
前働いていたバイト先では、俺が下手こいた時にパートのおばさんにこっぴどく怒られたが、全く同じ失敗をしたイケメンにはドンマイで許されていた。
イケメンは勝ち組、そうじゃない人は来世に期待・・・・。
畜生ッ!!だから、俺はイケメンが嫌いなんだ。
いや、イケメンなんか大っ嫌いだ‼︎!
そして、今現在。
俺は、大っ嫌いなイケメンによって拉致され、この大っ嫌いなイケメンに尋問を受けている。
イケメン騎士「この世界には、お前ら魔物は存在しない。つまり、お前も異世界の扉を使って、こちらの世界に来たという事だ。この世界に来た目的は何だ⁈他に仲間はいるのか⁈言えっ!!」
俺の胸ぐらを掴み上げながら、問い詰めてくる。
椿「うぐっ・・・・⁈だから何度も言ってるだろ‼︎!俺は人間なんだって‼︎勇者が俺を魔物に変えたんだよ!!!」
何度言っても信じてもらえない。
まぁ、そりゃそうだろう。
異世界を救った勇者が、一般市民を魔物に変えたなんて・・・・。
俺も、勇者が魔法で家を木っ端微塵にする前まで、異世界で勇者やってるって聞いても信じられなかったもんな・・・・・。
それにしても、魔物を見ただけでこんな扱いするとはな。
異世界では、魔物は人間達に相当嫌われているみたいだ。
このイケメン騎士は、黒い髪に切れ長の目をしている。
左目は、透き通った青い瞳。
前髪に隠れた右目は角度によってチラチラと見えるが、黒い瞳をしている。
つまり、オッドアイだ。
身長は大体180cmくらいで、体格はアーマーを着ていて分かりにくいが、アーマー自体がそこまでゴツくないから、おそらく細マッチョだろうな。
なんか・・・・・・むかつく。
最初は騎士の格好をしたコスプレイヤーかと思ったが、俺を腕を掴んだと同時に、見知らぬ廃墟に瞬間移動し、あっという間に俺の両手両足を縛り上げた。
ほんの数秒の出来事だったが、これだけで確信した。
コイツは勇者と同じで異世界の人間だと。
手際の良さを見ると、異世界でもかなりの手練れなのだろう。
薄暗い部屋の中、唯一の光は、ひび割れた窓を通して差す日の光だけ。
外からは、人も声も車が通る音も聞こえない。
ここで大きな声で助けを呼んでも無駄だろうな。
仮に誰か来たとしても、また瞬間移動して別の場所に移動されるのがオチ・・・・。
ここは、勇者が助けに来てくれるので待つしかないな。
でも、あいつ、この場所分かるかな・・・・?
イケメン騎士「勇者様がそのような事をするはずがないだろう‼︎はっ⁈・・・・・まさか、お前・・・・勇者様がこの世界にいる事を知り、始末するつもりだったんだな⁈許せん‼︎ここで叩き斬ってやる‼︎‼︎」
騎士は、俺の首筋に先の鋭いナイフを突きつけた。
それは流石の俺もビビる!!
椿「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った‼︎嘘なんかついてないし、勇者の事を殺そうなんてしていない‼︎それに、俺は勇者の恋人なんだって‼︎」
イケメン騎士の動きが止まった。
イケメン騎士「お前、馬鹿か?勇者様は、大の魔物嫌いだぞ。嘘を付くならもっとマシな嘘を付け」
椿「嘘なんかついてねぇよ‼︎だいたい俺は魔物じゃねぇし‼︎・・・・・・そうだ‼︎尻尾を引っ張ってくれ!そうすれば、俺が人間だって証明できる‼︎」
俺は自分の尻尾をピンッと伸ばして、イケメン騎士に見せつけた。
イケメン騎士「・・・・尻尾?魔物の尻尾なんか触りたくない‼︎汚らわしいし、うねうねしてて気持ち悪いし・・・・」
俺の尻尾は、ミミズかナメクジか?
椿「くっ、女々しい野郎だな!良いから引っ張れよ‼︎この分からず屋が‼︎‼︎」
少し、癇に障ったのだろう。
イケメン騎士は眉をひそめる。
イケメン騎士「口の悪い魔物め・・・・変な真似したら、その場で切り刻むからな‼︎」
イケメン騎士は、ナイフを鞘に戻し、俺の尻尾を力強く引っ張る。
ドロンッ
イケメン騎士は、元の姿に戻った俺を見て、無言のまま驚いた表情をしている。
椿「いってぇ‼︎‼︎・・・・強く引っ張りすぎだろ!!!!・・・・でも、これで分かっただろ?正真正銘の人間だ‼︎・・・・・って何してんだよ?」
俺は渾身のドヤ顔を決めたというのに、イケメン騎士は俺の胸を揉んでいた。
イケメン騎士「・・・・あの胸はどこいったんだ⁈・・・・・まさか、お前・・・・いったい何枚入れてたんだ?⁈!」
椿「パットちゃうわ‼︎!」
変化に気づいたの、胸だけかい‼︎
それに、異世界にもパットあるんだな!
「うーむ・・・・魔物とはいえ、女でこれだけ小さいと流石に可哀想だな」
イケメン騎士は俺の肩を、ポンッポンッと叩いた。
椿「俺は男だ‼︎‼︎!それと、全国の貧乳に謝れ‼︎っていうか、さっきの痴漢だろ!俺が本当に女だったら完全にアウトだぞ‼︎イケメンだからって何やっても許されると思うなよ‼︎」
本来の姿を見れば、流石に堅物イケメン騎士にも誤解が解けたかと思えたが・・・・。
イケメン騎士「ふむ、成る程。人間に化ける魔物もいるのか」
椿「違うわ‼︎逆だ‼︎逆‼︎」
信じてもらえなかった。
イケメン騎士「ふふふふふっ、お前の化け術は疎かだな!ほら見ろ‼︎尻尾は残ったまんまだぞ‼︎」
さっきまで触りたくないと言っていたくせに、嬉しそうに俺の尻尾を握り続けている。
椿「あぁもう、話にならん‼︎ファレンに連絡させろ‼︎本人に聞けば良いだろ⁉︎」
イケメン騎士「無礼者‼︎魔物ごときが、気安く勇者様の名前を呼ぶな‼︎」
うっわ、めんどくせー・・・。
こいつも勇者の信者の1人なんだな・・・・。
残念すぎるイケメンだ。
もしや、こいつが残念なのは、勇者のせいなのか・・・・?
椿「良いか?ここに連れて来られてから、何十回も同じ話しをしているが、冷静になって聞いてくれ。俺はこの世界の人間で、勇者の恋人だ。そして、ゲームで忙しい勇者にパシられて、行列ができるパン屋さんのメロンパンを買いに行ってたんだよ。拉致ってくれたお陰で、もう売り切れだろうけどなっ‼︎!・・・・・・はぁ。勇者にメロンパン買えなかったって連絡したいから、ズボンのポッケにあるスマホを取ってくれ」
イケメン騎士「・・・・メロンパン?スマホ?」
イケメン騎士は首を傾げている。
こいつ、こっちの世界のことは何も知らないのか⁈
椿「良いからポッケにあるのを出してくれ‼︎勇者に連絡するから‼︎」
イケメン騎士「お前、勇者様に連絡するフリをして、仲間を呼ぶつもりだな⁈そうはさせんぞ‼︎」
再び、ナイフを突きつけられた。
椿「だから違うっつうの‼︎」
イケメン騎士の目は血走っている。
もうダメだと思ったその時、戦士の後ろに人影が見えた。
勇者「つぅちゃん‼︎‼︎」
下着姿で仁王立ちしている勇者がそこにいた。
イケメン騎士「勇者様⁈どうしてここに⁉︎」
イケメン騎士は慌てふためいている。
椿「お前、服着ろよ‼︎‼︎」
俺は違う意味で慌てふためいている。
勇者「つぅちゃん、何で縛られてるの?それに・・・・あんた誰よ?」
イケメン騎士「ちょっと待ってくださいよ⁈‼︎私ですよ‼︎ルドベキアです‼︎あなたの1番弟子ですよ⁉︎」
勇者は、必死に訴えるイケメン騎士を下からガンつけるように覗き込む。
勇者「あぁ〜ん?・・・・・あっ、あぁー・・・・あんただったのね。お久しぶりね・・・・それで、私の彼氏をなんで縛ってるの?」
イケメン騎士「彼氏⁈この魔物がですか⁉︎」
勇者「そうよ、私の彼氏よ。でも、つぅちゃんは魔物じゃないわ。こっちの世界の人間よ」
勇者は俺に抱きつき、それを見た戦士は崩れるように膝をついた。
この戦士は俺の話を全く聞かなかったが、勇者の話だけはちゃんと聞くようだ。
イケメン騎士「そ、そんな・・・・あの勇者様が魔物なんかと・・・」
いや、聞いてないな。
勇者「じゃあ、帰るわよ」
パチンっ
勇者が指を鳴らすと、縄が瞬時に解け、俺は自由の身となった。
椿「イテテテテッ、あぁもう、何時間も同じ体勢だったから体が痛い」
勇者「本当に心配してたのよ!!つぅちゃんに何かあったんじゃないかって。おかげ、でお昼寝もできなかったわ‼︎」
俺は勇者の口元に指を差し。
椿「おいっ、よだれ痕」
ゴシゴシ・・・・
勇者は、手の甲でよだれ痕を拭いた。
勇者「・・・・・・本当に心配してたのよ‼︎つぅちゃんに何かあったんじゃないかって。おかげで、お昼寝もできなかったわ‼︎」
コイツッッ‼︎!
イケメン騎士「あの勇者が魔物なんかと、あの勇者様が・・・・」
イケメン騎士は、まだブツクサ言ってる。
このイケメン騎士は、勇者を追ってここまで来たんだよな。捜し回っていたそうだし・・・・放置したまま帰るのは、なんか少しかわいそう気が・・・・・・。
椿「なぁ、この人ほっといて良いのか⁇ファレンの弟子なんだろ?誤解が解けようだし、うちでゆっくり話しとか・・・・」
イケメン騎士「ファッ⁈・・・・・もしや、勇者様は、あの魔物に洗脳されているのか?」
椿「ファレン、帰ろう」
俺は直ぐに勇者の手を握った。
勇者「それじゃ行くわよ・・・・テレポ‼︎!」
勇者が唱えると、目を開けられないほどの白い光が2人を包んだ。
目を開けると、俺達は我が家に瞬間移動した。
椿「うぅ・・・・、何度も経験してるけど、慣れないな。瞬間移動ってのは・・・・まるで、車酔いしたみたいな感じだ。」
勇者「お帰り、つぅちゃん。今日は災難だったわね。あっ、まだログインボーナス取ってなかっわ」
勇者はベットの上に座り、スマホをいじり始めた。
椿「あぁ、メロンパン買えなかったしな」
勇者「それは今度で良いわよ。つぅちゃんが無事に帰ってきてくれただけで私は満足だわ」
・・・・たまに勇者は、嬉しい事をさらっと言う。
が、今回の出来事は、俺を魔物に変えた勇者のせいでもある。
椿「そう言えば、どうして俺が廃墟にいるって分かったんだ?」
勇者は立ち上がり、スマホ画面を俺に見せてきた。
勇者「GPS(愛の力)よ」
勇者は満面の笑みである。
椿「・・・・いつの間に」
勇者に救われたが、最も怖い存在は勇者だと改めて思った。