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勇者はサキュバスに恋してる  作者: 栄伊右衛門(えいえもん)
4/7

第4話:美人は得

勇者によって、サキュバスにされたせいだろうか、妙に牛乳の消費量が増えた。

朝起きて最初に口にするのが牛乳、ご飯のお供に牛乳、お風呂上がりにはコーヒー牛乳だ。


サキュバスと言っても、ちょっと妖艶な女性に、頭に小さな山羊の角、背中にコウモリの羽、尾骶骨に続いて悪魔の尻尾が付いているだけだ。

羽を使って飛べるわけでもないし、魔法が使えるわけでもない。

力は元の姿の方が強く、身長も20センチほど縮んで、爪先立ちでもキッチンの上の棚に手が届かない。

着替えの時、ツノが引っかかってTシャツを何着かダメにしてしまった。

さらに困ったことは、大きな胸のせいで肩は凝るし、揺れてまともに走れやしない。


コップを机の上に置き、ソファにいる勇者を見ると、古代ローマ人の様に横になりながら食事をしている。

何度も注意したが、勇者は頑なに座って食べようとはしない。


椿「なぁ、サキュバスって言っても、一応は魔物だろ?特殊能力とかないのかよ?それと、座って飯を食え」


別に特殊能力が欲しいわけではないが、あるのなら使ってみたい。


勇者「もぐもぐもぐもぐ・・・・・ハフファフォ(あるわよ)、ヒフォフファヘェ(1つだけ)」


勇者は、大好物のピザを頬張りながら言う。


椿「おお‼︎どんなの⁈俺でも使えるのかな⁇」


俺は勇者の上半身を無理矢理起こし、勇者の隣に座った。

勇者はすぐに横になって、俺の膝を枕にした。


勇者「もぐもぐもぐもぐ・・・・・オフォコにモフェルノウフォフフォ(男にモテる能力よ)」


うわっ、いらなっ。


俺をこんな姿に変えた勇者ですら、元の純粋な人間に戻せないらしい。

つまり俺は、半分男半分サキュバスとして、生きていかなければならないということだ。


元の姿に戻るには、勇者の白聖エネルギーとやらが必要で、それを手に入れる為には、勇者に直接触れ続けなければいけない。

勇者から貰ったエネルギーを、俺の身体にチャージする事が可能で、最大チャージで4時間だけ元の姿に戻ることができ、触れ合っている面積が大きいと、早くエネルギーを溜め込むができる。

ただし、元の姿で体を動かせば動かすほど、エネルギーの消費も多くなる。

エネルギーが切れれば、その瞬間にサキュバスに変身してしまう。

元の姿に戻っても悪魔の尻尾は残ったままで、これを引っ張る事によって、エネルギーが残っている場合のみ、元の姿とサキュバスの姿に切り替える事ができる。

尻尾の色で状態を確認でき、通常時は紫紺色、エネルギー切れの時は白色、エネルギー切れ1分前になると紫紺色と白色の交互に点滅する。

と、勇者直筆の説明書にはそう書かれていた。


勇者無しでは、最高で4時間しか元の姿を維持できない事を考慮して、なるべく俺はサキュバスの姿でいるようにしている。


勇者「つぅちゃん、大変よ‼︎‼︎お菓子が切れてるわ‼︎今すぐ買ってきて‼︎」


ピザを平らげた勇者は、ポテチを求めて台所を荒らしている。


椿「たまには自分で行けよ。それと、ちゃんと片付けろよ」


床には、食べこぼしや食器が散乱している。

この汚い部屋は、すべて勇者のせいだ。


勇者「ダメよ!今から戦場に行くのよ」


勇者は、ゲームコントローラーを握っている。

当然、口論になるが、勇者は子供みたいに癇癪かんしゃくを起こし、更に部屋を散らかし始めたから、俺は渋々買い物に行くことにした。


サキュバスの姿で外出する時は、角は帽子と髪の毛で隠し、コウモリの羽根は背中にピタッとくっ付けて、悪魔の尻尾は腰に巻きつける。

これで何とか隠せてはいるが、魔界のセックスシンボルであるこの姿で街道を歩けば、男達のいかがわしい眼差しが俺に向き、必ずと言っても良いほどナンパにあう。

なので、なるべく人気のない道を選んで歩く様にしている。

この姿でいると面倒だらけだが、良い事もある。

相手は男に限るが、買い物する時にはサービスしてくれたり、バスや電車など席を譲ってくれたりする。

今日もコンビニで、店員にポテチを10袋もオマケしてもらった。

俺が買ったのは、3袋だけだ。

更に、レジに並んでいた男性客にもカリカリチキン(フライドチキン)を奢ってくれた。

2人共、俺の連絡先を聞こうとしていたが・・・・


椿「ありがとうございます。また来ますね」


と笑顔で会釈をし、そそくさと店から退散した。

美人は得だなと自分の身で知ることができたが、争いを生む火種にもなる事も分かった。

店員と客は火花を散らしていたし、客は彼女と同伴していて、彼女の顔は鬼の形相をしていたところを見ると、後に修羅場になっている事は言うまでもないだろう。


誰もいない帰り道、スマホを取り出し、インカメラで自分の姿を見てみた。


椿「こんな女のどこが良いんだぁ?乳でかいだけだろ」


ついでだから、自撮りしてみた。


カシャッ。


椿「・・・・勇者ファレンのよりデカイな」


俺は自分の姿に少しだけ興奮した。


家に帰ると、勇者はコントローラーを握ったまま、床の上で大の字で寝ている。

相変わらず、部屋は汚いままだ。

だらしが無い勇者の姿を見て、流石に温厚な俺でもイラッとしたから、大きく開いてる勇者の口に、さっき客に貰ったカリカリチキン突っ込んだ。

それでも勇者は、眠り続けている。

俺は勇者をそのまま放置して、散らかった部屋の片付けと晩御飯の準備に取り掛かった。


数時間後、部屋を綺麗にして料理もできた。

勇者を見ると、口の中にあったカリカリチキンがなくなっていた。

勇者の周りを見ても、カリカリチキンはないところをみると、吐き出してはいない。

つまり・・・・・


椿「こいつ・・・・・寝ながら食いやがった・・・・」


まぁ、部屋が汚れるよりは良いけどな。


勇者「ほぉわぁ・・・・・・おはよう、つうちゃん」


じゃじゃ馬勇者のお目覚めだ。

しかし、なんて寝癖なんだ・・・・。

どんな寝方すれば、こんな寝癖がつくんだよ・・・・。


勇者の長く金色の髪は、直立している。


椿「もう夕方だぞ。言われた通りに、お菓子を買ってきたけど晩御飯の後な」


机の上にある先ほど買ったお菓子に指をさした。


勇者「こんなに買ってきてくれたの?!つぅちゃん、ありがとう!」


勇者はお菓子の山を見て、寝起きとは思えないほど大興奮だ。


まぁ、殆どもらったものだけどな・・・・。


椿「ご飯をそっちに持って行くから、机の上を片付けて!」


キッチンで、勇者のご飯茶碗に炊きたてご飯をよそう。


勇者「はーい!ふふっふふっふふっふ〜ん♪」


勇者は、元気の良い小学生の様に手を挙げ、鼻歌交じりでお菓子を床に置いて机を布巾で拭いてくれている。

いつもこれくらい素直だと良いんだけどな〜と染み染み思う俺であった。


勇者「ププッ」


勇者の笑い声が聞こえる。


椿「何?どうしたの?」


キッチンから顔を覗かせて、勇者を見た。

台拭きそっちのけで、ソファに寝転びながら俺のスマホを勝手見ている。

勇者のお手伝いの時間は5秒ももたなかった。


勇者「何自撮りしてるのよ。ちゃかり、斜め45°でキメ顔とか・・・・気持ち悪い・・・・サキュバスになってご満悦かしら?」


勇者は、ゲスい顔で嘲笑う。


椿「あぁ、この胸は誰かさんと違って大きいなと思ってな!」


普段は温厚で優しい俺だが、少しイラッとして勇者に嫌味を言ってしまった。


椿「痛ッ?!」


胸に激痛が走り、ご飯茶碗を落としてしまった。

下を見ると、勇者の手が俺の胸を鷲掴みにしている。

俺のスマホを見ながらソファに寝そべっていた勇者は、一瞬で移動して、後ろから俺の胸を襲い始めたのだ。


勇者「サキュバスにしたのは失敗だったわね。つぅちゃんは男だし、邪魔でしょ?取っちゃいましょう?」


見なくても分かる・・・・勇者は殺気に満ちている事を・・・・。


椿「バカにしてきたのは、お前からだろ‼︎イタタタッ‼︎いや・・・・邪魔じゃないです・・・・・取らないで欲しイタタタタタタッ?!!!」


少しずつ勇者の爪が俺の胸に食い込む。


ドロンッ!!


俺は堪らず、自分の尻尾を引っ張り元の姿に戻った。

サキュバスの大きな胸から平の胸になり、勇者の手から解放された。


椿「はぁ〜・・・・危なかった・・・・お前、いい加減にしろよ‼︎」


勢いよく振り向いて勇者を見ると、勇者は涙目だ。

ほんの数秒前まで、あれほど殺気に満ち溢れていたくせに、今は借りて来た猫のようだ。


勇者「大きい方が好きなの?私のじゃ小さい?」


勇者は、泣きながら甘えてくる。


感情の起伏が激しすぎてついていけない・・・・。


椿「いや・・・・そんな事ないです・・・・・」


ここで喝を入れてやりたいのだが、泣かれるとどうも怒れない。


勇者「嘘!私の胸が嫌いなんでしょ!?そもそも、私の事なんて嫌いなんでしょ!??」


勇者はその場で、蹲ってしまった。


うわー、めんどくせー・・・・・。

俺の彼女、めんどくせー・・・・・。

何で俺が悪者みたいになってるんだ?

数秒前に乳を捥がれそうになっていたのは俺なのに・・・・。

泣きたいのは俺の方なのに・・・・・。


と、内心ではそう思ってはいるが、俺はしゃがんで勇者の頭を撫でた。


椿「そんなことないよ。勇者(ファレン)の胸は好きだし、勇者(ファレン)の事は大好きだよ」


俺は何を言っているんだ?


勇者「グスッ・・・・じゃあ、チュウしてよ・・・・」


椿「はぁ?何で?!」


このタイミングでキスの要求するとは、意味が分からない。


勇者「やっぱり私の事なんて嫌いなんだ!!」


勇者は塞ぎ込んだ。


俺達は付き合ってるし、初めてするわけでもない。

これで泣き止むなら・・・・まぁ、良いか。


椿「分かった。しよう!キスしよう!」


勇者は顔を上げ、目を瞑って唇を突き出して待っている。


勇者「ん〜〜〜っ」


暴力は振るし、性格も悪い勇者だが、見た目だけは良い。

悔しいが、こいつは美人だ。


勇者の顔に自分の顔を近づけた。


椿「んっ?!・・・・・臭っ!!揚げ物臭っ!!ファレンの口臭いふんぬっ??!!!」


今度は、股間に激痛が走る。

勇者の右手が俺の股間を鷲掴みにしている。


勇者「あー、そうだったわ。さっきね、いい夢見たんだー。カリカリチキンを山ほど食べる夢。それでね、起きたら口の中がカリカリチキンの味がするの・・・・・どうしてかしらね?」


口は笑ってはいるが、目は笑っていない。


せっかく機嫌が良くなったのに、さっきのイタズラがここで災いを呼ぶとは・・・・。

今度はサキュバスになって、この危機から脱しなければ!

また乳を捥ごうとするかもしれないけど、こっちよりはまだ耐えられる!


俺は急いで尻尾を引っ張ろうとするが、勇者の左手が尻尾の根元を掴んでいて引っ張れない。


勇者「胸じゃなくて、こっち取っちゃわない?」


男になっても、女になっても、勇者がいれば俺の不幸は続くのであった。


椿「ご、ごめんなさぁぁぁぁあああああ!!!!!!!・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・」

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