第2話:俺の彼女は勇者だ!
俺の恋人は勇者だ。
異世界では世界征服を目論む魔王が魔物達を率いて、人間達を苦しめていた。
王都の騎士達が魔王軍に対抗するが、魔物の強さは凄まじく、とても人間の力では太刀打ちできなかった。
人間達は絶望し、戦うことを諦め掛けていた頃、王都から遠く離れた田舎町で不可思議な噂が流れた。
一人の女が、素手で魔物を討伐したというのだ。
噂は瞬く間に王都にも広がり、人間の王様は、その女を王都に召喚させた。
数日後、噂の女を乗せた一台の馬車が王都にやってきた。
貴族や街の人達も、噂の女を一目見ようと王城前広場に集まる。
屈強な肉体を持った勇猛な女騎士の姿を、誰もが思い浮かべていただろう。
しかし、その予想とは余りにもかけ離れていた。
馬車から降りた女は、どう見ても年端もいかなぬか弱い少女なのだ。
誰もが肩を落として呆れ返っていた。
勿論、王様も。
王様は、少女を田舎町に返すように言い、王の命を受けた騎士は、少女の腕を掴んで馬車に引き返そうとした。
少女「気安く触んじゃないわよ‼︎‼︎」
誰もが目を疑った。
腕を掴んだ騎士が、少女によって数百メートル先の教会の鐘まで殴り飛ばされたのだ。
一同は困惑し、暫く鐘の音だけが漂った。
騎士団長「は、早くその娘を捕らえよ!!!!!」
いち早く我に返った騎士団長の命令で、騎士達は数十人掛かりで少女を捕まえようとするが、最初の騎士と同じように全員殴り飛ばされた。
再び静けさが漂り、次第にどよめきに変わった。
王様「噂は本当だったのか・・・・・」
その日から、少女は勇者と呼ばるようになる。
数十年後、勇者は魔王に挑み見事に勝利した。
魔王討伐後、すぐに勇者は国王から栄誉称号を授与し、地位も名誉も手に入れ、誰からも尊敬されるようになった。
それはもはや尊敬を超えて崇拝と言っても過言ではない・・・・。
勇者が道端に唾を吐けば、その場所は聖地として崇められる。
勇者「お腹が空いたわね」
と呟けば、周辺の住民らがその街1番の料理屋に招き、勇者にご馳走を振る舞う。
勇者「・・・まずいわ」
と言えば、その店は付近の住民らによって破壊され、店主は街から永久追放となる。
勇者は街の人達に尊敬されているだけではない。
1度視界に入れてしまえば誰もが息を呑む程の美人なのだ。
貴族だけでなく、魔王軍の幹部からも結婚を申し込まれるほどである。
しかし、勇者は全てのプロポーズを断った。
勇者にとって自分以外の存在は、国王だろうが魔王だろうが、蟻とさほど変わらないのだろう。
多くの人に愛され、崇拝され、どんな男にも靡かない、この勇者に恋人ができた。
相手の名前は、梅桜椿。
そう・・・・俺である・・・・。
こちらの世界で、俺と勇者は二人で暮らしている。
以前、勇者に・・・・。
椿「なんで俺なんかと付き合ってるの?」
と問うと。
勇者「んっ?うーん・・・・フィーリング?」
らしい・・・・。
運命の人はDNAで決まっていて、その人を見つける方法は体臭を嗅げば分かるなんて事をテレビで聞いたことがあるが、犬より鼻が良い勇者は、それで俺に決めたのだろうか?
本当の理由は未だに謎である・・・・。
異世界で猛威を振るった勇者の馬鹿力は、こちらの世界でも健在である。
勇者「つぅちゃんのために料理をするわね!」
と言って、包丁を持てば眩い光を放ち、エクスカリバーばりの斬れ味で食材おろか、台所まで真っ二つにする。
唖然とした俺に、勇者はテヘペロッで誤魔化す・・・・。
実は、勇者は心優しいところもある。
弱いものを身を呈して救う素晴らしい人なのだ。
勇者は、車が行き交う車道に飛び出した子供を助ける為に身を乗り出し、勇者にぶつかる車は全て大破させながら子供を救った。
当然、周辺は大騒動。
その事故はすぐにニュースになったが、勇者に関する情報は報道されなかった。
不幸中の幸いと言っていいのか、その事故の死者数は0だったそうだ。
重軽傷数は見なかったことにした・・・・。
勇者のラックも最高値なので、宝くじを買えば常に一等であり、来世でも使い切れないほどの大金を手に入れ、出禁になった。
そんな勇者にも欠点はある。
勇者は異常な嫉妬心を持っているのだ。
異世界では、誰にも頭を下げることがなく、ワガママを言っても誰かが叶えてくれる。
そんな日常が当たり前になっていたら、当然何かしら欠落した人間になるだろう。
この勇者に俺は色々と悩まされている。
俺は高校生で、勇者もこちらの世界で高校生をやっている・・・・。
しかも、同じ学校で同じクラスの隣の席だ・・・・・。
学校内にいる時では、何故か勇者はツンデレモードになり、クラスメートの前では、ワザと俺の事を無視をしたり、俺の有る事無い事を話して勇者の彼氏は史上最低なお下劣野郎というレッテル貼りをして、俺から友達を失わせようとする。
更に、俺が他の女の人と中良さげに話していると、無言で横っ腹を殴ってくるのだ。
ツンデレモードだけならまだ可愛い方であり、ヤンデレモードにもなる。
ただでさえ異世界から来た勇者によって俺の人生は大きく変わったが、このヤンデレモードによって、俺の人生に更なる急展開劇が始まるとは思いもしなかった・・・・。
ある日、俺は二人が付き合って一ヶ月ごとにある記念日を忘れて友人と遊びに行っていると、携帯電話の着信履歴は1000件を越えていた。
慌てて帰ると、家の中は無残にも荒らされていた。
壁紙は剥がされ、家具や衣類はボロボロ、窓ガラスは割られている。
唯一綺麗に残ったベットの上に座っている勇者は
勇者「つぅちゃん、おかえりなさい♪」
と言って、作り笑顔を浮かべた。
その後のことは覚えていない・・・・。
目覚めた時には、俺はサキュバスになっていた。