キミの声が聞こえて
つい先日、リアルで実際にあった出来事
知人に話したら、ドラマのようだと言われたので
自分なりに表現するなら小説かなと思って
数年ぶりに勢いのまま書いてみました
半分以上脚色ありですけど……
その日のボクは、初夏の日差しの中、駅前の交差点で信号待ちしていた。
県内ではあるが地元の駅から乗り継ぎも含め小一時間かかる駅の前。
これ以上暑くならなければ良いなと思いながら、頭の中でこの後のスケジュールを確認。
そんな時にその声は聞こえた。
最初、それは空耳だと思った。
なぜなら、その声はどう聞いても若い少女の声で、ボクがこの声を聞いていたのはまだ高校生のころ。
あれから二周り以上の年月が経っている。
だからこの声が聞こえるわけはないのだから。
でも、変わらず聞こえるその声は空耳などではなく、声に惹かれて振り返ったボクは、一瞬その目に映ったことが理解できずに呆け、その次にはタイムスリップをしたのかと本気で思った。
そこにいたのは一人の少女。
長い黒髪を片方で纏めて肩から前にたらした髪型。
ちょっと垂れた目元により大人しそうな人柄に見えるのだが、細めのフチ無しの眼鏡を掛けることで少しシャープなイメージに変わる。
左手で電話を持ちながら、空いた右手を左肩におき一定のリズムでひと差し指で肩をたたくしぐさ。
声やしゃべり方もそのままで、その外見やしぐさも確かにあのころボクの隣にいたキミ。
ただ着ている制服だけがあのころのセーラー服ではなく、いまどきのブレザーの制服だった。
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キミと出逢ったのはボクが高校2年生の夏。
特に興味も無かった生徒会活動に、借りのあった生徒会顧問の教師に頼まれたと言うか脅されて、いやいやながら参加する事になった初顔合わせの場だった。
当時のボクは、学校や家庭で斜にかまえる事が格好良いとちょっと痛い自分に酔っていたころ。
その為、悪い意味で一部の生徒には敬遠されていた。
実際、その場の何人かは、ボクの顔を確認しすると表情をしかめた。
「先輩、これからよろしく!」
そんな中、キミはボクの噂を知って表情をしかめるわけでも無く、初対面でのお互いの距離を図るそぶりもせず、前々からの知り合いのように話しかけてきた。
最初は臆せず話しかけてくるキミが、ボクの噂を知らないだけなのか、それとも単に空気の読めない無遠慮な人間なのかと興味を持っただけだった。
でも、後日に聞いたキミの言葉がボクの中の何かを変えた。
それは、キミの周りの奴らがボクのほうをチラチラ見ながら小声でキミに話しかけていた時のこと。
ボクの噂を元にキミに色々と吹き込んでいたんだろう。
きっとキミも他の連中と一緒でボクから距離をとるようになるのだろうと勝手に考えていた。
でも、キミの反応はボクの予想の範囲外。
キミの周りの奴らは小声で話していたのでボクにはまったく聞こえなかったのに、キミの声は何故か良く聞こえて来た。
もしたらワザと聞かせようとしたのかもしれないが。
「噂は知っているけど、あの先輩けっこう良い人だよ?」
「面倒臭そうな反応ばかりしているけど、決まった事はきっちりやるし、知らないうちに先回りして助けてくれてるし」
「先輩の普段の態度とかってきっと照れ隠しのポーズだと思うよ」
それがきっと興味が好意に変った瞬間。
我ながら安いなっと思うけど。
当時のボクは理解されようとしていないくせに、理解してくれない周りを悪者にして自己正当化。
ただの性質の悪いガキだったんだ。
そんな時にキミの言葉はボクにとっての救いになった。
それからのボクは、キミの前だけでは素の自分をさらけだすようになった。
その為なのか、キミはボク専属の後輩のような立場になって、いつの間にか二人でいるのが当たり前に。
あまりにもキミの隣が居心地良くてキミを手放したくなくて、その数ヵ月後にボクはキミに交際を申し込んだ。
「いつ言ってくれるのか待ってたんですよ?」
キミがボクの何に惹かれたのか判らないけど、キミがボクを受け入れてくれたことが嬉しくて、そっと抱きついてくれたキミが何よりも愛おしかった。
一緒にいるときのキミはいつもその声で言ってくれた。
「先輩といるときと私は幸せな気持ちになれるんですよ。だから一緒にいて下さいね」
ボクこそ、キミと一緒にいるだけで救われているんだ。
口に出しては言えないけど。
「先輩、どんな時も前を向きましょう。斜に構えていたら見えるものも見えなくなって掴めるはずの幸せも逃しますよ?」
キミはいつも真っすぐだった。
だからボクは少しは前を向いてまともに歩めるようになったんだ。
それでもやっぱり当時のボクはろくな奴ではなく、いつの間にかキミが隣にいるのが当たり前になって、そのありがたみを忘れていたんだろう。
交際から一年以上が経ち、受験だなんだと理由をつけて、徐々にキミへの対応がおざなりになっていった。
そしてボクが高校を卒業し大学への進学により地元を離れた事で、キミからの連絡がないとボクから連絡をすることも少なくなって。
切欠は、キミが辛いからと連絡をくれた今日みたいに暑かったあの日。
言い訳になるけど、ボクはキミが連絡をくれるのを楽しみにしていたんだ。
でも、その頃もまだボクは斜に構える癖が抜けなくてなかなか自分からは連絡が出来なくて。
ただ、あの日は体調を崩して寝込んでいて、本当に電話に出る事が出来なかった。
本当ならその後すぐに連絡すればよかったんだろうけど、それさえもしなかったボク。
結局、それが全てだったんだろう。
その日を境にキミから連絡が来ることは無くなった。
その翌月に地元に帰省したボクは、あの時のキミに何があったのかを地元の友人に聞き初めて知って、慌てて連絡を取ったけど結局キミには繋がらなかった。
家庭の事情で引っ越したのを知ったのはその時。
地元のキミの友人は、ボクの事を嫌っていたしキミの連絡先を教えてはくれない。
当時は携帯電話もない時代だったから、それでキミとの縁も切れてしまった。
ボクがあの日電話に出れなかった理由はキミにも伝わっていたようだが、それでも取り返せることではなかったのだろう。
それがボクの後悔しきれないキミとの過去。
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ふと現実に戻ったボクは変らずキミではないキミに似た少女を見つめていた。
そして少女はボクの視線に気付かずに、電話を終えて青になった交差点の横断歩道を歩きだす。
少女の歩みにつられてその先に視線を向けると、少女は交差点の先にいたボクと同じくらいの年齢の女性の下へ小走りに駆け寄っていた。
ボクは今度は少女ではなくその女性から目を離せなくなる。
その視線に気付いたのか、その女性はボクを見て思案気な表情をし、その後ボクの隣に視線を移して一瞬目を見開いて驚愕の表情を浮かべたてから、今度は微笑んだ。
その女性の行動の為か、少女がボクの方に振り向き女性と同じようにボクの隣に視線を向け、首をかしげながら女性に何かを話しかけている。
女性は少女に何か答えながら、ボクに向かって軽く一礼して少女を伴って歩き去っていった。
「おい、親父。なに女子高生に見とれているんだよ。恥ずかしいことするなよ」
その後も暫く呆けていたのか、ボクはその声で再度現実に戻った。
隣をみると、さっきの少女と同じブレザーだが男子生徒用の制服を着たボクの息子が、ボクに良く似た目元を吊り上げている。
「おっ、ごめん。ちょっと知っている人に似ていたんでな。別に他意はないよ」
別に嘘をつく必要もなかったので、本当の事を言ってみる。
実際、細かい事は別とすれば嘘ではない。
「本当かよ。あの子、同じクラスの子なんだけど。人懐っこい性格で結構男子にもてるんだよな」
そういう息子の表情は、多少にやけていて、きっと息子もその内の一人なのだろう。
外見だけではなく、好きな異性のタイプも父親譲りらしい。
救いは、性格だけはボクに似ずに、彼の母親に似て素直で真っすぐなことだ。
更に特定の誰かにではなく、多くの人に対して親切な所とかも。
さて、息子よ。
急に今まで言っていた大学と違う大学を志望校にして拘っているようだが、その理由はなんなんだろうな。
「さて、ぼちぼちお前の担任との面談の時間に間に合わなくなるし、学校に向かうか」
「いや、親父の所為で立ち止まっていたんだからな。他人事のように言うなよ」
隣で文句を言う息子をなだめながら歩み出す。
息子の話では、息子の前に少女の面談が予定されているらしい。
タイミングによっては、キミに似た声ではなく、キミの声が聞けるのかもしれないし、聞けないのかもしれない。
別に今更過去を穿り返すつもりもない。
ただ許されるなら、一つだけキミに伝えたいことがある。
ボクにそんな権利はないのかも知れないけど。
キミのおかげで今のボクの幸せがある。
だから感謝の気持ちも含めて。
「今のボクは前を向けるようになりました。キミにめぐり会えて良かった」
と。
勢いのままで書いたので、誤字脱字は後日修正します
声やしぐさって似る人は本当に親子でそっくりになるもんだと実感
今度は女性視点で書いてみたいな
しばらく男性視点ばかり書いていたので