無敵スキルが自爆スキルだったので地道に努力して成り上がる
微細ながらも興味を持っていただきありがとう存じ上げますm(_ _)mハハァ/
拙文ではありますがお楽しみいただければ幸いです。
それではどうぞ。
大晦日の二十三時―――
珍しく二十四時前退社を許された俺は愛車(自転車)に跨り我が家を目指していた。だが帰還することは叶わなかった。
―――けたたましく鳴り響くクラクションの音。後ろを振り向けば瞬く間に迫る壁。
(ああ、死んだな)
真後ろから速度規定の三倍速度で迫りくるトラックを躱す術なぞ窶れ草臥れ疲れ果てたサラリーマンが持ち合わせているわけがなかった。
だから俺は死を悟った。走馬灯? そんなもんあるわけがない。死ぬほど働き、安飯食らって、死なない程度に体を休める。ただそれだけの人生だった。そもそも俺の人生に楽しい一時なんてあったか――――いや、あったな。
子供の頃に遊んだゲーム、面白おかしく読んだラノベが懐かしくて堪らない。ああ、これが走馬灯っていうやつか……もし次生まれ変われるなら―――
(ゲームのような世界がいいな)
この日、今崎宏太はこの世界を去った―――
死んだ俺の目の前に広がるのは真っ白な空間。のっぺりとした白だ。影を伴わない白に立体的な視覚情報は一切なく、平衡感覚を狂わすのだ。そう、詰まる話、俺は蹌踉めき倒れ込んだ。
「いったたた……なんだここは?」
『お、目が覚めたかいな。良きかな良きかな』
「誰だ!?」
突如として頭の中に鳴り響く声。この展開、デジャビュを感じる。確か高校時代、友人に勧められて読んだ異世界転移勇者伝とかいう小説で見た光景だ。
事故で死んだ少年が神からチートスキルもらって異世界で生きていく物語だった。
つまりこの声は―――
「神か」
『なんじゃ、妾のこと知っておるじゃないか。良きかな良きかな』
神は告げた。地球で転生するか、神の指定するゲームチックな異世界へ転生するか。指定先に行けば望むスキルを5つくれると。
地球で歩んだ灰色な人生に嫌気が差した俺は新たな世界への転生を強く望んだ。昔読んだ小説の影響もあってのことだろう。今よりはマシだろう―――そんな根拠のない自信を俺は抱いた。
そして望みを告げると神から分厚い本を何十冊も渡された。これに載っているスキルから計5つ選べということか。
膨大な情報量だ。一日やちょっとでは読み切れない。だが幸いなことに俺の体は精神体だ。飲食が不要なのだ。ページを捲って内容を読む。単純作業が得意な俺にはうってつけだ。
長きに渡り熟考を重ね、俺はスキルを厳選した。
「お待たせしまして大変申し訳ありませんでした。それでは―――」
―――【無限収納】、【魔力操作】、【世界地図】、【全人語完全理解】、【無敵】。
これらのスキルを所望した。すべてレベルは最大値の十だ。
【無限収納】はその名の通り、亜空間にあらゆるものを収納し、出し入れできる便利スキルだ。触れさえすれば生物だろうと何だろうと放り込める優れものだ。欠点を言えば内部の時間は外と同期することぐらいか。つまり時間停止しないのだ。
【魔力操作】は魔力を操作する技術を素人でも使えるよう体系化したスキルだ。異世界に行って魔法が使えないなんて残念なことにならないようにするための所謂保険である。
【世界地図】は自身の現在地を中心に世界地図を閲覧できるスキルだ。3Dと2Dの切り替えが可能だ。
【全人語完全理解】は人類の用いる言語を理解し意思疎通を可能とするスキルだ。もちろん読み書きも可能だ。
最後に【無敵】。言うまでもなく、あらゆる攻撃を無効化し、究極の一撃を以ってして怨敵を屠る最強スキルだ。コレさえあれば死ぬことは無いだろう。ちなみにアクティブスキルなので常時力加減に気を配る必要のない安全設計。
『お主の次生に幸あれ――――』
次の瞬間、俺の意識はプチリと途絶えた――――
今崎宏太…改め、トゥーゲル・フォン・フリュンゲルド10歳! なんと驚くことなかれ騎士階級、つまり貴族の家庭に生まれました! ……下から数えて二番目の爵位だけど。
そして只今絶賛「ぐはっ」鬼教官のお父様と稽古という名の拷「ぶはっ!?」問中でありまっ「がっ!?」す!死ぬぅうううぅぅぅううううう!!!!!!!!!!!
「ゲルっ!集中しなさい!」
「は、はいいいいっ!!!」
無敵スキルがあるのになぜ使わないのか。そもそも訓練する必要があるのか。答えは単純明快ですよ。なんと無敵スキルは使えない子だったのです。というか無敵スキルで一度死にかけたのです。いや、マジで。え、口調が変わりすぎて気持ち悪い? 稽古中は口調が矯正されてしまうのですひぃぃぃぃぃ!!!!!!
地獄の訓練が終了した俺は「ふぅ~」と溜息を漏らす。と同時に全身へ降りかかる途絶えることのない神経痛の到来に顔を歪めた。集中力が切れるといつもこうだ。集中時はアドレナリン?ってやつが痛みを抑えているのかもしれない。
で、無敵スキルは一言で言えば地雷スキルの類に入る。所謂、自爆スキルだ。
あらゆる攻撃を防ぎ、あらゆる存在を一撃の下に屠る。正に最強クラスのスキルだが、それを実現する力を生み出すには膨大な魔力が必要だ。よく考えれば想像に難くない。
転生して間もない頃の俺は、はっきり言って浮かれていた。あらゆる柵から解き放たれた解放感に己の望んだ世界で始まる新たな人生への期待と渇望。それらが俺を常時浅い興奮状態にさせ冷静な思考を欠くこととなった。
そのまま成長を遂げた俺は前世の知識と神からもらったスキルで瞬く間に全属性上級魔法までも習得した。物覚えもやたらと良くまわりからチヤホヤされて有頂天になった。
巫女っ娘美少女な幼馴染がいる展開にも萌えて燃えて歓喜した。何もかもが思い通りに進んだのだ。
どこからともなく湧いてくる自信に溺れた当時7歳の俺は誰に相談すること無く、ひとり勝手に魔境へ踏み入り、ひとり勝手に自爆した―――無敵スキルで。
無敵スキルには膨大な魔力が必要だ。しかし魔力が足りない場合どうなるか。これがゲームならば『MPが足りません』のダイアログが出てスキルは不発に終わるだろう。
―――しかしこの世界ではそうではなかった。
魔力が足りない場合、足りない分に相当する生命力を搾取して発動するようだ。生命力1に対して魔力は10~100ぐらい濾し出せると言われている。才能無き者への神の救済処置らしい。
倍率もそこそこ高く、魔力が余程低くても安全にスキルを発動できる親切設計とも言えるだろう。普通ならば。
だが無敵スキルの魔力消費量は異常だった。気付けば俺は全身から血を吹き出し、地に伏していた。体の血管という血管の血流を逆にされたかの如き張り裂ける激痛に苛まれ、のた回ることすら許されないのだ。正に地獄の底を見た。
紅く染まる視界の中、迫るゴブリンが死神に見えた。そして俺は死を覚悟した――――だが結局のところ、俺は助かった。
こっそり俺の後を付けていた幼馴染のユリエルが俺を救ってくれたらしい。ご都合展開にも内に眠りし巫女の潜在能力が覚醒めたおかげで半日近く結界を展開して俺のことを守れたと涙ながらに語ってくれた。
目が覚めれば全身ぐるぐる包帯巻き姿だった。歩けるようになるには1年半ものリハビリを要した。全身を苛む神経痛は3年経った今でも治まることはない。
親父からは数日に渡り説教され、母と幼馴染からは『死ぬほど心配したんだからね』とひたすら涙を流された。
男友達もとい悪友にも『心配かけさせやがってこの野郎』とかなんとか言われては軽く頭を小突かれた。
感極まって俺は何度も何度も泣いてしまった。
そして気付いた。俺は慢心していたのだと。神から貰ったスキルがあればどうにでもなると。言ってしまえば何もかもが思いのままだと――――だが蓋を開ければそんなことなかった。
結局どこの世界も同じだ。努力しないやつはいつか足元を掬われるのだ。いや、そういう問題じゃないな。俺は大切な家族と友人を泣かせたのだ。俺の心の未熟さ故に。
だから俺は決意した。スキルに依存するのはやめようと。地道に努力して強くなろうと。もう二度と同じ過ちを繰り返すつもりはないのだ。
午前は父を相手に剣術を、午後は母とともに魔術の訓練を、寝る前には世界の一般常識から始まり様々な分野の勉強をする日々を過ごした。
巫女な幼馴染は能力を買われ、異世界より召喚された勇者と共に魔王討伐へと征くこととなった。
その命に難色を示した俺たちは、ただそれだけで国家反逆罪と見做された。魔王に与した裏切り者として家族郎党地位も何もかも没収され国外追放となった怒涛の展開だった。気付けば隣国の関所を通過した後だった。
今日ほど無限収納に感謝したことはないだろう。何せ服や靴、下着までも奪われたのだから。今まで使い道なくぶち込んだ品々がここで役に立ったのだ。
ああ、それとだ……あの時なぜか見送りに来た勇者の厭らしい笑みが忘れられない。恐らく何もかもあの勇者のせいだ。あいつに謀られたのだ。あれは腸に何かやばいものを抱えているぞ――――俺の直感がそう告げた。
トゥーゲル18歳、冒険者になりました。
ランクは驚くことなかれなんとAランクだ。
上から順にSABCDEFGHでAなのだよ。
だがこれじゃダメなんだ。
元勇者を斃すにはランクSの実力が最低限なけりゃダメだ。
復讐? いやいやなんのことやら?
これは立派な人類の使命だ。
勇者は何と寝返りやがった。
理由は単純明快。
『ロリ魔王マジ萌え~~~』
誰もが顎が外れるほど口をぽかんと開き呆然と立ち尽くした。なんだよロリ魔王って。数千年も生きてるやつだぞ、そいつ。ロリババアだぞ……ってそうじゃなくてだな・・・
そもそもあいつは勇者ではなかったのだ。邪神の使徒だったのだ。神代の時代の鑑定具すら欺く隠蔽系スキルを持っていたのだ。それだけじゃない。スキルを奪うスキルも持っていやがった。勇者に付いて行った奴らは身包み剥がされスキルも奪われ男は殺され女は慰みものにされたんだよ。チクショウッ!!!
だから俺はユリエルの仇を取るんだ。さっきと言ってることが違うって? そんなの知るかよクソが……って、すまない。今の俺は正直言って冷静じゃないと思う。だが冷静だったとしても同じことを言いそうだな俺。
ということは俺は冷静ってことか。ん? 自分でも何言ってるかわかんなくなってきたぞ。まあいいや、今日も遅いし寝るとするか。
トゥーゲル・フォン・イビルスレイヤ、25歳です!
ついにランクSになりました!鍛錬に鍛錬を重ね、ついに無敵スキルの効果・範囲・時間の限定発動の習得に成功しましたヒャッハー!!……まぁ1秒しか持たないけど。
あとついでに言うと、魔王に与する魔族をバッコンバッコン薙ぎ払ってたらいつの間にやら名誉貴族に叙されてました!
某ギルド長の呼び出しで馳せ参じたらいきなり『お前今日から貴族な』って言われたときはマジ困惑モノだったわ。ギルド長の仕事じゃないだろ、それ。ツッコンだけど無視された。
で、イビルキラというのは二つ名だ。二つ名は称号みたいなものだから譲渡は基本不可能。つまり一代限りの文字通り名誉貴族というわけだ。
ちなみにたぶん無いと思うけど昇格する場合は二つ名の手前に雅名つまり本貴族としての家名が付与されるらしい。ぶっちゃけどうでもいい豆知識。ここテストに出ないから忘れていいよ。
なんでこんなどうでもいい話をしているかって? そりゃ現実逃避したいからだよ。なんたって最悪なことに元勇者とばったり遭遇してしまったんだよ。現在進行形で対峙中だ。
今の俺は世界屈指の猛者と言っても過言ではない。
だが12人いるSランク連中の中でも後ろから数えた方が早いくらいの強さしかねえ。そんな俺が邪神の全面バックアップ受けた『剥奪』スキル持ちのあいつに勝てる見込みはハッキリ言ってゼロ―――
「どうしました今崎宏太さん。今更怖気づいたんですか?」
「言わなくても何もかも解ってんだろクソがっ」
やつは魔眼の中でも最上位に位置する神眼持ちだ。人の心情を見通す『心眼』、言葉の真偽を見分ける『真贋』、視界の時間を支配する『晨眼』、3つのスキルの効果があの目には宿っているのだ。片方の目は普通の目だとやつは宣うが実際はどうだか。ともかく俺が同郷の転生者である事実は疾うの昔で知られているのだ。
とにかく卑怯だ。マジで卑怯だ。情報の後出しばっかりしやがってこの野郎――――
「クククククッ…ハハハハハッ!!」
「小物臭漂う小悪党な笑い方して気でも狂ったか?」
「もちろん違いますよ。ユリ…なんでしたっけ? 最後まであなたの名前を叫んでいましたよ。でもあなたは来なかった。いえ、僕を恐れてあなたは来なかった。そうでしょう? 本当最低ですね自分のことがそんなに可愛いのですか――――」
「――――ッ貴様あああああああああああああ!!!!!!!!」
怒りに任せて俺は『縮地』を発動―――瞬時にやつの懐まで迫るとそのままやつの土手腹に愛剣を突き刺した―――が、やつのねっとりとした黒い笑みに己の愚かさを悟った。
「―――かかりましたねぇ。発動【剥奪】対象【今崎宏太】技能【無敵】。ハハハッ!!どうですかどうですかっ!?最後の切り札を失った気分は? 嬉しいですか悲しいですか? それとも絶望のあまり何も言えないですか?? ヒャハハッ!その顔その顔!!それが見たかったのですよ。本当笑えますよね!!!あんて哀れなんでしょう!!!ヒャハハハハ――――」
「ははは、罠にかかったのはお前だよバーカ」
「なっ!?」
―――この日のために用意した最後の切り札を見せてやろうじゃねぇか。
突如空に現れた武器の数々に驚愕する勇者もとい邪神の使徒。そりゃそうだろう。その数、およそ250万本。世界各地の武器屋鍛冶屋に無理を承知で頼み込んで土下座の末に打ってもらったどれもが英雄級の業物だ。
それに加えて地獄の鍛錬で手に入れた『最後の一撃 EX』―――武器が必ず自壊する代わりに武器から生ずる汎ゆる効果が百万倍へ増幅する。
これらとその他のスキルの数々が合わされば一本一本すべての瞬間火力が神級位階魔法と同等の威力になるだろう。
―――俺諸共こいつを武器で貫き葬り去ってやる。
「まさかこんな手札を隠し持っていたとは……でも残念でしたね。僕には無敵スキルがあるんですよ?あれが全部創世級だったとしても無駄ですよ無駄無駄。本当バカですね~? 本当に貴方って人は傑作ですね! ハハッ何か言い残すことはありますか?」
「――――やってみなけりゃ分からねぇだろうがああああああああああああああ!!!!!!!!」
「無敵スキル発動―――――ッ!!」
「ッ!?」
突如起こった状況に俺は思わず目を見開いた。
なにせそこには全身から血を吹き出し崩折れる元勇者の姿があったのだから―――――
押し留める必要の無くなった俺は『縮地』の連続行使の下、切り札の射程外へと緊急離脱を図った。そして数多の武器の串刺しとなり物言わぬ屍と化した奴の姿を只呆然と眺め続けた――――
鳴り響くレベルアップのファンファーレ。以前のレベルの5倍近く―――その実、5517レベルまで上昇した。あれは分身でもなければ分体でもなく、正真正銘の本体だったらしい。
詰まる話、邪神の使徒との戦いは呆気ない最後と共に幕を閉じた。まさか全力全開で『無敵』を発動するとは思わなかった。正に予想外ってやつだ。恐らくやつのチートスキルは全般的にノーコストあるいは低燃費だったのだろう。だから魔力枯渇による生命力の消費を知らなかったのだと推測する。
こんな方法で倒せるもっと早く魔王城へ行けばよかった。そうすればユリエルは助かったかもしれない……いや、切羽詰まった状況じゃなければ神眼で思考を読まれて詰みだっただろう。本当にどうしようもなかったようだ。はぁ・・・
やりきれない気持ちを振り切れない俺は宿屋に戻り半年ほど引き籠もった――――
トゥーゲル・フォン・(?)・イビルスレイヤ、30歳だ。
あれから国連軍と共に魔王を討ち果たした俺は公爵位を受け賜った―――なぜか世界各国から。ってか勝手に家名つけられた。マジでいらんわ。
国によって(?)の部分が変わるから面倒なので今まで通りトゥーゲルと呼んでくれると有り難い。
まぁ俺は権力闘争渦中の人となった。もちろん望んだわけではない。激化する勢力争いの中で幾度となく、大切な家族や友人の命は脅かされてきた。だから俺は仲間を連れて空へ逃げることにした。
神代の時代の『浮遊大陸舟』を復元して、とっとと空へとんずらした。
そして今は大切な人たちと穏やかな日々を過ごしているところだ。といっても娯楽も人も対して多くなく、たまに退屈で陰鬱になるときもある。そのときはこっそり地上に降りては燥いだりもする。
時折見かける人種差別、迫害、奴隷。それらで迫害されてきた人々を拾っては俺の空島に移住させてを繰り返してたらいつの間にやら人口は有に10万を超えていた。いっそのこと、国興すのも有りかもしれんな。
んなわけ、俺の怒涛の冒険は緩やかに終わりを迎えつつある。俺もそろそろ年なんで。ってことで以上、近況報告でした。ん? 誰にって? 神様にだよ神様。言ってなかったっけ? 日記通して毎日神様と連絡とってるんだよ。え、マジか。言ってなかったか。本当今更だよな~。悪ぃな! はははっ―――――
これは、後に平和の象徴の代名詞『ラピュルタ国』を築き上げた冒険王が記したとされる日記の一部である。
神に宛てて書いたとされる日記とは別物であることは内容から想像に難くない。ではこれは誰に宛てたものなのか――――それは生涯明かされることはなかったという。
『悪役勇者がスキル奪って自滅する展開』これがやりたかっただけです。はい。
良い点、悪い点、おかしな点、評価等、どしどしお待ちしております。
―――え、評価するの面倒くさいって? そんなぁ~
+------------------------------------------------
| 2018/01/05 02:06 脱字修正