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灰かぶりとリトル・ナイト  作者: 七水 樹
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灰かぶりとリトル・ナイト(最終)



「な、何で秘密を守ることの条件がキスなのさ」


 エラは困惑した顔で抗議したが、ヘンリーは「いいだろう、誓いのキッスだ。文字通りの口封じでもあるがな」とにやにや笑うだけだ。


「それ、ちっとも上手くないから……」


 身動き取れない状態で、はは、と笑いながらエラは脳内で前言撤回した。好意だろうと何だろうと、ヘンリーは無遠慮でがさつで暴力的な、俺様野郎だ。やはりこの幼馴染に頼み事なんてするんじゃなかった、と後悔しても、ばれてしまったものはしょうがない。キスの一つで大切な家族を守れるのであれば、安いものだろう。エラは腹をくくって、覚悟を決めた。


「……わかったよ。それで、秘密を守ってくれるなら」


 小さくエラが答えると、ヘンリーは両肩から手を離して、待ってましたと言わんばかりに目を閉じた。光栄だね、シンデレラ、と茶化され、エラは顔をしかめたが、リトル・ナイトのため、家族のため、と自分に言い聞かせてゆっくりと顔を近づける。自分も目を閉じて、そっと顔を寄せると思った以上に柔らかなものに唇が触れた。ヘンリーとキスするのは初めてだ。それなのに、それは知った感触だった。表面はさらさらとしているのに、ふんわりと柔らかくて弾力のある、まるでマシュマロのような。


 そこまで考えて、ぱちりとエラは目を開けた。その視界にはヘンリーの姿はなく、驚いて少し身を引けば、小さなドラゴンが二人の間に割り込んでいたことがわかった。エラがキスしたのは、リトル・ナイトの腹だったのだ。どうりで知った感触だとエラが納得している間に、リトル・ナイトはくるりと方向転換して、ちゅ、とヘンリーの唇にキスをした。そのままリトル・ナイトは音もなく素早く飛び去る。目の前で起きた出来事に、エラは目を見張った。


「く、ふふふ、ふはは」


 リトル・ナイトにキスされたヘンリーは、堪えきれないという様子で声を漏らし、エラは自分がキスしなかったことがばれたのではないかと身を硬くしたが、どうやらヘンリーが漏らした声は笑い声であったようだった。


「何と愛らしいキスだ、シンデレラ。まるで小鳥に啄まれたかのようだったぞ」


 ふはは、と笑うヘンリーに呆然としながら、まぁ似たようなものではあるが、とエラは瞬いた。


「お前の気持ちはよくわかった。この口づけに誓って、俺はあのトカゲのことを皆に黙っておこう」


 リトル・ナイトに騙されているとは露知らず、ヘンリーは急激にマシュマロを持ってきた時以上に上機嫌になり、秘密を守る約束もしてくれた。事態についていけないエラは、ともかくありがとうと礼を言い、ヘンリーに合わせておくことにした。あのキスがリトル・ナイトのものだとばれていたら今頃どうなっていただろうと思うと寒気がするが、このままエラがヘンリーにキスをしたということにしておく方が両者にとってプラスとなるだろう。


 またもや見計らったかのように、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。機嫌の良くなったヘンリーは、時間だな、と言い、自分は予定があるから早めに行くと告げてさっさと校舎へ引き返してしまった。


 嵐が過ぎ去った後のようだ、とエラはヘンリーが去った場所をぼんやりと見つめて突っ立っていた。どっと疲労感が押し寄せてくる。ヘンリーと過ごすと、いつもこうであった。


 気遣わしげに飛んできたリトル・ナイトは、エラの肩にとまると頭を頬にこすりつけて甘えた。いつも通りの、けるける、という鳴き声にエラは安堵する。腕を伸ばすと、リトル・ナイトは肩から腕の方へと渡っていった。手の甲に乗っかったリトル・ナイトに、エラは尋ねる。


「もしかしてお前、私の唇を守ってくれたの?」


 エラがヘンリーにキスを迫られていることに気づいて、それを回避し、そして代わりにヘンリーにキスをしたのだ。リトル・ナイトは、やはりその名に恥じない立派なドラゴンである。エラの問いかけに、リトル・ドラゴンは得意げに鼻を鳴らしていた。それから、何か訴えかけるようにエラを見上げて鳴く。その意図を察したエラは、大丈夫だよ、とリトル・ナイトに頬ずりした。


「こんなに頼もしい恋人がいるのに、浮気なんてしないよ」


 そう言うと、リトル・ドラゴンは満足したように翼を大きく広げて見せる。それを見て、エラはくすくすと笑った。



 小さな騎士は、どうやらあのヘンリーに対して、ライバル心を燃やしているようであった。





 週末、マシュマロをもらった礼にと、エラはヘンリーの試合の応援に行った。ロッカーに張りつけてあった手紙には、勝利を君に、という臭い台詞とともに試合の場所と日程が書かれていたのである。あまり気のりはしなかったものの、念を押すように携帯にまでスケジュールを連絡されては断れなかった。そもそもヘンリーの誘いを断ったのは、週末に家で誰にも邪魔されずにリトル・ナイトと過ごすためだ。エラのリュックサックに忍び込んだことで、外出の楽しさを知ってしまったリトル・ナイトは、エラとともに試合観戦に来ていたのだった。


 試合は白熱し、宣言通りにヘンリーは大活躍だった。歓声が彼を包み込み、ルールがわかっているのか定かではなかったが、リトル・ナイトも興奮した様子で試合を見ていた。


 随分とフットボールが気に入った様子のリトル・ナイトは、持ってきたマシュマロをボールに見立てて飛びついて遊んでいた。食べ物で遊ぶんじゃない、とエラは注意をしながらそんなリトル・ナイトを見て笑った。


 好物も、好きなスポーツも一緒ならば、案外ヘンリーとリトル・ナイトは仲良く付き合えるんじゃないだろうか。エラは一人笑みを浮かべ、マシュマロを頬張ったのだった。





これを書く前に、「ヒッ○とドラゴン」のテレビシリーズを繰り返し見ていました(笑)

あの軽快な皮肉の掛け合いが好きなんですが、ああいうセンスは自分にはないなぁと思いました(´▽`;)ゞ

勢いよく書いたので、とても楽しかった思い出があります。


最後まで、お付き合いくださりありがとうございました!

次回は、クリスマスも近いので「空想科学なロボットの他人を巻き込んだ壮大なラブロマンス」なお話を予定しておりますヽ(〃´∀`〃)ノ

よろしければ、お付き合いくださいませー!

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