第2章 天空の世界 第5話 左の部屋
偶然居合わせたウルスも含め三人で行動することになったファート達だったが、左の部屋を目前に大きな問題が発生した。それは「誰がドアを開け初めに中に入るのか」である。ウルスの話では中に何者のかが居るらしく、初めに入るのはあまりにもリスクが高すぎる。三人とも自分の安全を優先しドアを開けたがらなかった。
「このままじゃ、いつまで経っても決まらないわ!」
ウルスがイライラした雰囲気で言う。
「ならお前が先に入れよ。」
ファートがウルスに言い返したがウルスは首を横に振り、絶対嫌だと言った。そんな風景を見てハースは呆れている。
「ここは公平にジャンケンで決めるわよ。」
「なんで、そんな単純な事で決めないといけないんだよ!」
ハースの提案をファートが断固拒否した。
「それしか決める方法が無いからそれで行きましょ。」
ウルスの発言に助けられジャンケンで決めるという単純な事で決めることになった。
「早く行きなさいよ。」
「うるさいな、分かってるって。」
ジャンケンの結果、ファートは二人に秒殺されドアを開けるはめになった。手が震えるファートの後ろでウルスはニヤニヤと笑っている。早く開けなさいとウルスが急かし、ファートは強引にドアを開けた。
「なにも居ないじゃん。」
ファートは額の汗を払いながら安心したような声で言った。ウルスはおかしいなと言い部屋の中を回ったが気配すら感じられない。
「それで、あなたが見たっていうもう一つのドアはどこなの?」
ハースの声を聞き、ウルスが指を指して言う。
「あの本棚の後ろよ。」
ウルスが指差す先には埃を被り本の表紙が見えないほどの古びた本棚がある。
「ここの後ろか。なら早く行こうぜ!」
ファートはさっきのことで怖さが吹っ飛んだのかテンションが高い。ウルスとハースはまだ恐怖を隠せなかった。
三人が覗いた本棚の後ろにはウルスの発言どおりドアがある。ファートが開けにかかったが何か堅く閉ざされておりドアは開かない。
「たぶん、このドアには魔法が掛けられているわ。」
「なんで分かるの?」
ウルスの推測にハースはびっくりして尋ねた。
「一応、私はいろんな世界を渡り歩いた有名な詐欺師よ。」
「いや、それあまり自慢することじゃないと思う。」
ファートがつっこんだがウルスは無視して言う。
「このドアの両端をよく見て。」
ウルスの言われたとおり二人はドアの両端を見た。なにか物を差し込むような穴があり逆に鍵の入れ口は無い。
「この二つの穴に合う道具が必要ってことなのか?」
「おそらくそういう魔法が掛けられているわ。」
「ならこの穴に合う二つの道具はどこにあるのかしら?」
「それは私も分からないわ。でも言えることはここは海賊の本拠地なのだから、海賊のみんなが共通して持つものだと思うわ。」
ウルスはそう言うと辺りにそれらしき物がないか調べたが、なにも見つからない。
「ここまで来て、先に進めないのか・・・。」
「しょうが無いわよ。どうしようもないんだから。まずはここを出ましょ。」
三人は慌てて入り口に引き返した。もしかしたらドアが閉められ閉じ込められるんじゃないのかと思ったからだ。しかしその心配はなく三人は無事教会の外に出られた。
外に出ると辺りは夕日が沈みかけている。二人は宿に帰ろうとしたが、ここでウルスと別れるのも勿体無い気がした。それなりの情報力もあり頭の回転も速いウルスが傍に居てくれれば心強いからだ。ウルスは違う宿に止まっていることもあり、明日の朝に合流することにした。二人とも宿は二泊しか借りてなかったしウルスも明日にはこの街を出るということだから一緒に旅をすることにしたのだ。
約束を交わすとお互い自分の宿へ戻り、休むことにした。
二人が宿に戻ったのは時計の針が六時を指している頃だった。宿に戻るとすぐに夕食を済ませ、風呂に入った。怪しい教会に入り、微妙な臭いが体に付いていたためハースはとても気にしていたが、風呂に入ると臭いはさっぱり消えた。
「明日、この街を出たら次はどこに向かう?」
部屋に戻り机の上で地図を広げたハースが眠そうなファートに言った。
「まずはウルスが言ってたその研究所に行ったほうが良くない?」
地図を見る限り研究所はそんなに離れていなくて、歩いて2,3日で着くくらいだ。さらに研究所の近くには小さな村もある。研究所に寄るときはそこの宿にも止まれる。
「そうね。ならまずは研究所に向かいましょ。明日ウルスと合流する前に旅支度をしておかないとね。」
そうだなとファートが返すと二人は布団に入り眠った。