5. 応答
日暮 恵勇 ヒグレ ケイユウ 主人公。
アラネコ あらねこ 相棒。
不動 瑞子 フドウ ミズコ 笑顔が怖いクラスメイト。
和泉 風 イズミ フウ 主人公の隣の席の女子。
和泉 鈴 イズミ リン 風の妹。
藤谷 朱音 トウヤ アカネ 人。
神尾 翔子 カンオ ショウコ 人。
平優 タイラ ユウ 人。
東雲 海人 シノノメ カイト 人?
臙脂棗 エンジナツメ 人じゃない。
夜。カフェの奥で事件に関する新聞と、綿密に書き込まれたノートを広げる。
「最初の事件が八日」
次に十三日、十八日。
「次の事件は二十三日、今日だな」
老人の発言に頷く。
「三人はもう被害に遭ったのだから、もう終わりだと思っていたんだけど、そうじゃない。今日も藤谷朱音は人を襲う」
病院にはすでに結界が張ってあって、何かあればすぐにわかるようになっている。でも、影はそこを襲ったりはしない。
女性従業員が四人用の机いっぱいに広げられている紙類を踏みつけたりしないように、コーヒーを置いていく。それが置かれてから、ハルヌは口を開いた。
「次は和泉の姉というわけか」
影が襲う人間には共通点がある。それを、和泉風も持っている。
「犯行があるのは決まって五日おき。それ以外の条件はないみたいだ」
僕の発言に、ハルヌは僕と同じ結論を出す。
「魔力が十全に回復するのを待っている、というところか」
「余程高位の変化の術を使っているらしいね」
化けることに徹している。いや、固執している。
「和泉の家にはもう許可を取ったのか?」
彼の問いに、僕は苦笑する。
「ああ、こちらの要望をすべて飲んでくれたよ…」
目を丸くされる。無理もないことだろう。
和泉の父親はこの町でも有数の資産家だ。和泉家はその亭主が所有する三十階建てのビルの中に住んでいる。僕の要望はそのビルの駐車場にされている一階部分にある車や設置物をすべて別の場所に移動して欲しいという無謀なものだった。更にエントランス部分以外の侵入できる場所には一般人が見れば途轍もなく胡散臭い御札まで貼ってもらった。
「一体どうやって資産家の娘を誑かしたんだ?」
「そんなの僕が知りたいよ」
和泉に電話で用件を伝えると、「わかった、お父さんに代わるね」と突然お父様に応対が変更されたのは堪らなかった。
「ただのクラスメイトです」
この一言が信じてもらえたかは定かではないが、とにかく無事に一階部分は空けてもらえた。…僕も一つ条件を突き付けられたのだけれど。
「勝つ算段はあるのか?」
今までの調査の成果と、藤谷朱音が教えてくれた話から推理をして決戦に臨む。
「わからないけれど、倒してみせるよ」
彼女の願いを、無視することはできない。
いつも通りの味がするコーヒーを飲み終えて、僕は夜に駆け出した。
空は星が瞬く。天の川は薄れ、オリオンが顔を出す。空を見上げるだけで移ろっていく時間が視覚に捉えられる。この空は、流れる雲は、絶えず光り続ける星は、誰のためにそこにあるのだろう。
問いに、とある吸血鬼は鼻で笑ってこう言った。
「そんなものは誰の為でもない。『君の為』だよ」
と。