保健体育
【保健体育】
「えと、このクラスは、男子はおらんかったわね」
佐川県幕末市の市立幕末着物高校、通称幕女の保健体育の浅野先生が、1年甲組の出席簿を確認しています。
浅野先生は、黒い大島紬をお召しになっておられ、生徒達は華やかな肌色の着物が制服になっています。
甲組は、入学試験時の成績優秀者の選抜クラスで、甲乙丙丁の順番でクラス分けされているのでした。
「では、教科書の102ページを開いてください」
徐ろに黒板にテーマを書き出します。
『着物の美しい脱がされ方』
脱がされ方?
「さて、皆さんは日々着物の美しい着付けを学んできていらっしゃいますが、本日の保健の授業では、所謂殿方との交わりについても学んでまいります」
「先生!交わりって、エッチの事ですかぁ?」
キャーキャー、ヒューヒューと大騒ぎ。
「その通りです」
慣れているのか先生は平然として言い切りました。
「幕末着物高校の伝統として、殿方との交わりの際には、着物を如何に美しく脱がされるかが、最重要課題となっております」
「先生!」
クラス委員長の久保素子が手を挙げました。
なかなか凛とした美人です。
「着物を脱ぐ時の作法やたたみ方は、着付けの授業で学んでおりますが?」
「もちろん、それが基本です。でも、それは自分で脱ぐ時の作法ですよね」
「はい」
「保健の授業では、頭でっかちな皆さんに足らない部分、如何に殿方に苦労をさせないで、着物を脱がしてもらうかについて学びます」
黒板に項目を書き始めました。
お年頃の生徒達も、興味津々で一斉にノートに書き写し始めます。
1、襟と裾
「皆さんご承知の通り、着物はきちんと着こなしてきちんとたたむが大原則であり、女の嗜みです」
「ただし、ある場合を除いて、です」
「ある場合とは、勿論、殿方に脱がせて貰う様な状況になった時やね」
や〜ん、キャ〜ッ、あふ〜んと大騒ぎ。
男子の居ないクラスは、まさに女子校のノリなので、乙女の恥じらいが足りません。
元々1年生の男子は、丁組に呉服屋の跡取り息子が3人しかおらへんし。
「殿方は、着物を早く脱がしたい、と思っているものですが、着物というものはなかなか脱がす事が厄介な訳です」
「着付けの知識や経験が乏しいと、脱いだ後も大変な訳やしね」
「ここで大事なポイントは、殿方の気持ちを察してあげる事なんです」
さらに黒板に小項目を書き込みます。
「襟と裾と書きましたが、結論から申しますと、この二つについては、思いっきりええんかいって位グチャグチャにして貰ろうてください」
え〜、キャーッ、イヤ〜ン
「着物を着ている状態から一つ一つ脱がして貰うんは、慣れとらん殿方にとっては途方も無い大変な苦労になりますやん」
「淑女は、殿方に決して苦労をかけたらあきません」
「少なくとも幕女出身の淑女が、そんな粗相をしては絶対になりません」
「すると決めたら、基本、自分で脱ぐ訳やけど、そこに至る前戯の段階では、殿方の多少の無茶は許容範囲としとって下さい」
「襟はできる限り押し広げてもらい、裾は大きく割ってもらいましょう」
イヤ〜ン、エッチやわぁ、キャッ
「この時、後々のたたみ方や着付けの事は、一切頭からすっ飛ばしといて結構です」
エェ〜?
どうしてですか〜?
「殿方は、着物という神聖な鎧の中に隠された皆さんの初々しい肌を露出させ、触りたいのです」
キャッキャッ、イヤ〜ン!
「殿方というもんは、走り出しだら欲望が先行しますんで、作法もヘッタクレもありまへん」
アハハハ、キャッ、エッチ〜
大受けです。
「出来るだけ早く殿方の目的の胸をはだける様に、出来るだけ早く裾を割らせて足の付け根を露出できる様に、さり気な〜く自ら動き、殿方のヘルプをしましょう」
「ここは重要ポイントなのでマークしとってください。期末テストに出します」
途端にノートする生徒たち。
「帯締めを解くと、太鼓結びのたれが下がりますね」
「さて、では、小泉さん」
「は、はい」
「次は何をしますか?」
「帯締めを取ってからやから、帯揚げですやん」
「もう一つ」
「あ、帯枕もです」
「そうやね、胸元で帯揚げと帯枕を解く訳ですが、背中にあるお太鼓はこの二つを解くことで取ることができますね」
「これらの手順は、着付けの授業で既に学んでいると思いますけど」
「皆さん、ええですか!最も重要なポイントは、さりげなさと素早さです」
「殿方に女子の色香を十二分に感じさせなあきませんし、殿方の気持ちが盛り上がったまんま冷めさせん様、出来るだけ速やかに実行しなあきまへん」
「ここに、さすがは幕女出身の淑女だと、殿方にお慶び頂ける最大の要素があるのです」
「当然ここもテストに出します」
また生徒たちが一斉にノートに書写します。
「ここで大事な番外編の話をしておかなあきまへん」
番外編って?
なになに?
「夜になって、さあもうこれから寝ようかと言うタイミングならば、そのまんま教科書通りに着物を脱いでたたんで戴いて構いまへん」
「ところが、殿方の欲求というのは時と場合を選ばない事が往々にしてございます」
「そういう場合でも、幕女出身の淑女は臨機応変に対応していかなければなりません」
それって例えば?
「帯を解かずに、着物を脱がずに、事に及べ、と言う事です」
エェ〜?
何やのんそれぇ〜
「先生!」
「はい、久保さん」
「着物を脱がな裸にはなれません」
「そうですね」
「裸にならんとエッチは出来ないんと違いますか?」
「そうでしょうか」
「出来るんですか?」
「先ほど、前戯が始まって、帯を解く前の段階はどうなっていたでしょうか?」
「帯を解く前ですか?」
「襟と裾の項目で話しましたね」
「えっと、出来るだけ襟を推し開いて胸をはだけ、思いっきり裾を足の根元まで露出する様に割ってもらうと」
「そうやね」
黒板にさらに項目を追加します。
2、端折りと身八つ口
「幕女に入学して一番最初に習ったんは何ですか?えと、斎藤さん」
「え、はい、ええと気付けと作法ですよね」
「違いますやん」
何や、知らんわぁ。
覚えとらん。
「一番最初に習うんが、着物でのトイレの入り方でしたよね?」
ああ、そうやん!
確かにそうやったわぁ。
「端折るという事を、その時学んで貰っていると思います」
「要は、着物でトイレを使う時に、着物を汚さない為に、裾をくるっとめくって下半身を露出させるやり方ですが、これは、当然殿方との交わりにも応用出来ますやん」
そやなぁ、なるほど〜
いや〜ん、エッチィィ。
「着物独特の切れ目である身八つ口は、シワを伸ばしたり襟を正したりする事のほかに、母親が赤ちゃんに授乳させる時にもそこから乳房を出して使いますね」
うんうん、習うたわ〜
「要は、殿方も大きな赤ちゃんと思えば良いのです」
「着物を着たままでも殿方に乳房を触らせる事ができますので、襟を乱さなくても、前からでも後ろからでも殿方に自由にしていただけます」
「皆さんは、着付けの基本として、殿方に襟元から手を差し込まれないよう、差し込まれても乳房を隠しておけるよう、帯を高めに結ぶように習っているかと思います」
せや。
「だから、殿方に触ってもらう時は、逆にやり易いようにしてあげたらええんです」
「帯が乳房を隠さないようにやや下にずらしとこ、という真逆の方法論になる訳ですね」
「もう一つ、皆さんにお勧めの交わりの姿勢があります」
え、それって体位やん!エッチィ〜
「殿方に後ろからしてもらう、俗に言うバックですわ」
ええ〜!うそ〜、恥ずかしいやん!
「理由は簡単やん、トイレの延長線上でお尻を高く上げるだけやし」
「身八つ口から乳房にも触って貰えるし、そのまんま男女の交わりも出来るからやね」
「今はまだ、この知識はすぐには必要はありしませんが、来たるべき時に、幕女出身者として恥じない対応が出来る様、心しとってください」
「ここ、最重要ポイントやから、一年に一回しか言わへんし、必ず試験に出しますよ!」
一心不乱にノートを取る、選抜クラスの生徒たち。
こうして、名門幕女の、見目麗しい淑女達が作られていく訳でございます。
(つづく)