第一話 霊能少年in 高校
普通の生活に飽き飽きしたあなたへ。霊と、除霊と、
美少女(?)と、美少年の世界へとご案内しましょう。何も怖いことなどありません。だって…僕らには彼が、小次郎君がついていますから。
第一話 霊能少年in高校
某県報政市の桜がきれいな並木道。今日はこの地元の学校で入学式が行われる。
4月。そう、それは希望に満ち溢れた新入生がわらわらと入ってくる桜と、夢と、わくわくに満ちた季節!
というわけで。この俺もそういうドキドキとかわくわくを楽しみにしていたわけだが………。この仕打ちはないだろうよ…。
「小次郎、大変だよ!!この人………」
「てめーも見えるか、山田…。ああ、こいつは………」
「「自縛霊じゃねーか!!」」
説明しよう。俺は神流木 小次郎。名目上はこの県立報政高校の新入生なのだが…俺には少し、というかかなり人と違うことがある。なんだ、だと?
今までの会話だけで充分だろうが。俺は見えるんだよ、霊が。あ?真冬なのにホラーか、だと?春夏秋冬いつでもやつらはそこらへんにいるんだよ、馬鹿。
んで、一緒に来たのが山田 太一。こいつも霊感がかなーりある。そりゃもう、びっくりするくらいに。
「くそ、祓うしかねぇよなぁ、だりぃ………」
校門に座り込んでいる薄ら禿のおっさんに近づいてみる。どうやらあちらさんも気づいたようだ。こっち振り向きやがった。
「わ、私が見えるのか、君は………」
「そういうこったな。悪いが俺の楽しい学園生活のために成仏してくれや」
新品の制服の内ポケットから取り出すのはお札。効くぜ、こいつはよ。あの有名な心霊スポットの霊だって鎮めちまうくらいだしな。あ、ちなみに俺が霊を全部成仏させて潰した心霊スポットの数は30以上だぜ。
「え?ま、待っ…!!」
「問答無用!!」
おっさんにお札を一発くれてやる。ぱちこーん、といい音がした。そして煙となって天へと昇っていく。
「感動的な別れだぜ」
「どこがさ、まともな会話してないでしょうが!」
「るせーなぁ。こっちは楽しいスクールライフに霊の姿なんざこれっぽちも見たかねーや」
親指と人差し指でちびっ、とやってみる。本当、もう飽き飽きなんだよ…。そのくせそこらへんに気づけばいるし時々悪霊もいるから除霊せにゃならんし、いいことなしだ。ちなみに俺の実家は神社だ。かなり正当な血をひいている、ということらしい。だからこんなクソめんどくせぇ力持ってるんだけど。
「ねぇ、あの人何やってたの?」
「さあ…頭おかしいんじゃないの?」
周囲の生徒たちのいぶかしむ顔、笑ってなんか写メ撮ってる奴………。こういうのになるからいやなんだよ、もう…。
「中学の時も誰一人として君に近寄らなかったよね」
「ああ、1年の時のアレがまずかった。でもよ、俺がやらなきゃみんな祟られてたぜ、ったく」
その昔、阿呆な奴が心霊スポットからすんげー強力な霊を持って帰ってきてな。それをわざわざ級友価格のタダで祓ってやったのに次の日から口もききやがらねぇ。周りの奴らも俺は霊能力者だ、なんて言うからみんな寄りつかなくなるし………。
「小次郎様、はやく行きましょうよ!」
「黙れこのクソ霊が。除霊すっぞ、こら」
「はうぅ…何故そんなに凛のことを悪く言うのでしょうか………」
いかにも自然に会話に入ってきたこの悪霊の名は凛。上の名前は知らん。知りたくもない。顔はまあまあ…というかかなりかわいいとは思うが、霊だ。まぎれもなく霊だ。白い和服でふわふわと浮かんでいるいかにもな奴だが一応俺に憑いているらしい。
とはいえ悪さはしないし見た目はかわいいから放っといてある。何かしたら普通じゃない方法で祓うから心配はない。
「そうだよ、小次郎。凛ちゃんがかわいそうだろう?」
「そうですよ、かわいそうなんですよぉ?」
凛をかばう山田に、涙目で訴えかけてくる凛。ああ、くそ…人間だったら口説くんだが………。残念ながら霊に興味はない。
「るせー、はやく行くぞ」
くそ………まさかこの学校であんなに苦労することになるなんてなぁ…。
「はわわ、小次郎様、あそこ…ふ、浮遊霊です!ここ…怖いぃぃい…」
「てめー自体霊だろうが。あんな無害そうなのは放置しとけ。気にするとついてくるからな」
「はう…!あれは何でしょうか………」
「ただの自殺した教師の霊だ。生徒には手を出さねぇよ、たぶん」
なんなんだよ、この学校…霊だらけじゃねーか…。よくこの学生達平気だよな。ま、見えないからだろうけど。
「ひやあぁぁん!!お、お尻触られましたぁ!!」
「あっそ」
最低だ、ここ…。こんな心霊スポット丸出しの高校がよく存続できてるよな。
「わ、かっこいいね、あの人!」
「ほんとだ!!あの、お名前は?」
おーおー、この俺のかっこよさに惹かれた少女が二人…。顔は微妙だが胸がよし。こっちは…うん、腰のラインがナイスだ。
「俺は神流木 小次郎。よろしくな。挨拶ついでにその重そうな背後霊取ってやるよ」
自然な流れで肩についていた恨めしそうな爺さんを天へグッバイ。うーん、俺優しい。超紳士、スーパージェントルマン小次郎と呼ぶがいい。
しかし返ってきた言葉はとてもひどいものだった。
「な、何…したの?」
「え………」
「気持ち悪い…」
ガーン!!
二人組の女子はそそくさと俺の側から離れていった。心なしか周りの奴らまで引いてる。
「あやや…小次郎様は学習しませんねぇ」
袖で口元を隠して笑う凛。それがかわいいから余計にムカつく。
「だーっ!!なんでだよ、せっかくあのわけのわからんジジイ祓ってやったってのによ!!」
除霊だってまったく疲れないわけじゃないんだ。一応少々の疲れは伴う。霊の強さにもよるけどな。
「うわ、また嫌われてる」
「山田!なんでだよ、俺何か悪いことしたかよ!?ええ!!」
山田問いただしても意味ねぇけどそんなの関係ない。なんでこのかっこいい俺がモテんのだ!!山田の10倍は男前なのに!!
「だってさぁ…ねぇ?初の彼女には『ほら、あそこにすんげぇ形相の幼児がいるよ!ちょっと除霊してくるぜ!!』って会話でフラれ次はなんだっけ?ああ、『うわ…君の家霊道のど真ん中じゃねーか!部屋中妙なもので溢れてる』で終わりだったよね」
「だからなんだよ」
「基本的な脳味噌が足りてない」
クソ、たかが山田のくせに…。
「第一そのなんでもかんでも口にする癖直したほうがいいんじゃないかな?」
「こんにゃろう…黙って聞いてりゃ…ン………?」
なんだ、この感じ…ただの浮遊霊どころじゃない…怨霊級の奴がいる…!!
霊には色々種類がある。いろいろあって成仏できない自縛霊、そこらを浮いてる浮遊霊、そして怨念の塊の怨霊やあの世のバケモノなど数多い。
「小次郎様…これ、まずいですよ…!!ただの霊じゃありません…」
「鬼…じゃなさそうだ。怨霊だな。くそ、また嫌なのがいるぜ」
「僕も感じる…あの時の廃屋の奴並みかな…」
廃屋の奴ってのが俺が灰色の中学時代を過ごす理由となった怨霊のことだ。あれほどのはそうそういない。
「まだあれよりはましだろう。でも…」
生身で太刀打ちは無理っぽいな。ただの人間にゃ勝ち目がない。
「やるの?」
「もちろんやりますよね、小次郎様!!」
「ああ、モチ」