プロローグ
ーーー広大な宇宙に浮かぶ、生命の星、地球。その地球の衛星である月から、一本のまっすぐな光の筋が放たれた。光は地球のある一点を差して、徐々に加速していった。
そしてそのまま大気圏に突入。光、いや、光を纏った物体の先端は熱を帯びて赤く染まっていく。纏った光もだんだんと消えていき、その中から金属質の円盤が姿を見せた。円盤は地球の重力に身を任せて落下し、そのまま雲を突き破った。
雲を突き抜けた先は、東京。
日本中の人間が仕事、夢、出会いを求めてやってくる日本の心臓。そんな大都会の上空に円盤が落下してくるところを、見逃す人間が果たしているだろうか?
無論、いない。
臆病な女性警察官、望遠鏡を覗いていた男子高校生、怪しげなチラシを配る外国人、魔法少女を装ったコスプレイヤー、円盤を指差し「神さま〜」と呼ぶ少女とその兄。
そして、自称正義のヒーロー「電波マン」と、真っ赤なフードを被った「人喰いリンゴ」。彼らは偶然、東京の闇を裂いて落ちてきた円盤を目にした。
彼らの人生は、この出来事をきっかけに大きく狂うことになる。
そして、月人の彼、この物語の主人公、イナバもこの出来事に見事に狂わされる一人となる。イナバは月から放たれた光を追うように、円盤に乗り込んだのだった。
***
今この瞬間、月から放たれた黄金の光!それを見て、俺の焦りは急上昇した。月の周りを周回するステルス衛生、「ブルーノ」の監視室にて、俺は城から脱走した「姫」を監視していたのだが…。すっかり出し抜かれたようだ。
先程月から飛び立ったあの円盤、中には我らが「月面都市」の姫、かぐや様が乗られておる。姫の世話係を任されて半年が過ぎ、ようやく自分の生活も落ち着いてきたところでこんな事態になるとは、思ってもいなかった。
姫が城から脱走した十分後、姫の、月から飛び立ち地球に向かうという計画が発覚した。まだ今年で十一歳の姫に反重力装置搭載の円盤など操作できるはずがない。なんとか止めるため様々な手を尽くしたが、姫はそれらをくぐり抜け地球に飛び立ってみせた。
そんな一連の事態の責任を負わされたのが、この俺だ。俺は今から、地球時間で一週間の間に姫を連れ戻さなければいけない。半ば強引に円盤に乗せられ、俺は地球へと飛び立った。
これから始まる狂想曲の、唐突で憂鬱な序章。
※『天使な幼女と都市伝説』はしばらくお休みさせていただきます。しばらくはこれを書こうと思いますが、宜しくお願いします。