乙女ゲーにTS転生しましたが協力者のライバルキャラがガチレズです。
乙女ゲーで一本書きたかった、それだけです。
ゲームに転生するだとか、自分が女の子に生まれ変わるだとか、そんなの全く信じてなくて絵空事であると僕は常々そう思っていたのです。
でも現実とはわからんもので、僕は今9歳の可憐な少女として毎日小学校に通っています。どうしてこうなった。
「然もまた死んじゃう可能性もあるんだよね?どうしたらいいんだろ」
そうこの世界は僕が妹に強制されて渋々やり切った乙女ゲーに酷似している。
もしそれが本当であるとしたら僕はある男のルートにて交通事故で死ぬのだ。
…傍迷惑な話だが、僕が生き抜くためにはその男のルートを確実に潰さねばならん。
まあ主人公さんがゲーム同様おっちょこちょいで天然な子であるなら早々何人もいるキャラの内、その男ルートを選択することは可能性として低い。
なのでほっといてもいい話なのだが出来れば自分に降り注ぐかもしれん災厄は未然に防ぐべきだろう。
死にたくないなら、そうあるべきだ。
だが大きな問題点として彼女たちの邪魔をすること自体今の僕には難しい、ということが上げられる。
「その為にはこちらの協力者を増やすべき、だよね」
所詮小学三年生の僕にやれることは少ない。
ならば主人公の通う高校にてしっかりリードしてくれる存在が必要不可欠だ。
と言ってもそんな何の得にもならないこと、快く信じ引き受ける人など早々いないであろうが。
「んんっ迷っていても仕方ない。ここは主人公さんに会える数少ないイベントを破たんさせるしかない、よね」
それがどれだけ小さな変化だとしても、僕はもう死ぬつもりなんてない。
あの男と主人公さんに会える僅か三回のチャンスに、全てをかける。
僕は強く決意を固め、後ろにからう真っ赤なランドセルを愛おしげに撫でたのだった。
◇
「もう大丈夫、痛くないよ。立てる?君」
僕の目の前にあるのは、綺麗な顔した淡い金色の髪をちらつかせる男性。
その男性は僕が『イベントとして』道端でこけたのを見てこちらへとやってきた。
勿論デート中?である彼女――――この乙女ゲーの主人公である乙留桜花を連れて。
このイベントは確か出会って最初のデートであったように思える。
子供好きを主人公にアピールする目的かなとゲーム中には冷めた目でプレイしていた。
僕のここでの役目は心配そうな顔を見せる彼に『イベントで』顔を真っ赤にして走り去ることなのだが、ここであったが百年目だ。
しっかりとイベントを破たんさせ、このルートは進行不可能であると印象付けなければならない。
僕は上目遣いで男性を見る。僕の今の容姿は美少女と言ってもいいレベルのものだ。
青色のストライプ柄であるシャツと短めのローライズを身に着け、清楚で端正な顔立ちには艶やかな黒髪が頬を撫でる。
じっと見つめられることに困惑した様子の彼に乙女ゲーの主人公さんは助け舟を出す。
「ほら、もう平気よね。ちょっと擦りむいただけだし、絆創膏貼っちゃおうか。」
彼女は徐に肩に下げていたポーチから絆創膏を取出し、目線を僕に同じくして擦り剝けた膝小僧に貼る。
その手際は普段の彼女からして(ゲーム中の彼女は兎に角どんくさいのだ)見事なものであったが、きっと自分がよく転ぶので慣れているのだろう。
傷からずれることなく綺麗にくっついた花柄の絆創膏を見て僕はそう思った。
「…ありがとう、お姉ちゃん。」
「どういたしましてっ次からはちゃんと気を付けるのよ?」
ニコリと笑い素直にお礼を言う僕に、主人公さんも輝く笑顔を返してくれる。
途端これからの自分の行動に罪悪感を微かに覚えるが、致し方ないことだろう。
自らの生死が掛かっているのだ。形振り構ってなど居られない。
僕はその場を走って立ち去る。このままイベントの邪魔をしてもよいのだが、それでは効果が薄いと感じたからだ。
彼女たちを密かに尾行しつついい雰囲気になるところを邪魔する。
勿論姿は隠したままで、だ。過度の接触は新たな死亡フラグへの道となるやもしれん。
この世界の強制力がどれほどの物なのか、先程試すことが出来たしこの作戦で間違いないと思う。
僕は数十メートル先の曲がり角まで走って行き、そのまま身を隠す。
彼女らはそれに気づきはしなかったようで、再び目的の場所へと歩みを再開する。
向かう先は分かっている。デートの定番である映画館に行くつもりなのだ。
こそこそと出方を伺う僕、見つかりはしないかと嫌な汗が頬を伝う。
見失うわけにはいかない。こんなチャンスもう、後2回しかないのだ。
少ないチャンス、しかといかさねばと二人の動向に注意を払っていると不意に囁かれる声。
「…こんなところでどうしたのかな。ちっちゃな探偵さん?」
背筋がピンと伸び、叫び声をあげそうになったが何とか声を押さえる僕。
見上げると色素の薄いピンク色した髪を持つ麗人と目が合った。
女性は悪戯が成功した子供のように口元に笑みを浮かべている。
僕はその瞬間に悟ることになった。あぁこれから今まで以上に大変な出来事が起きるんだなと。
何故か思い至る結論に僕は自分のことながら頭を傾げつつも、2歩女性から横にずれて彼女との最初の言葉を口にしたのだ。
◇
『夜角目グレートス』
この世界の元である乙女ゲーのライバルキャラにして、嫌味で高飛車なお嬢様キャラとして名高い。
彼女の通る道は常に赤絨毯が引かれ、取り巻きは少なくとも5人はつき、ありとあらゆる嫌がらせを主人公にした後、最後には今までのいじめが上にばれて学園を強制退学とされる。
彼女の家は程なく没落し、借金にまみれた彼女のその後まではゲーム内で描かれはしなかった。
そんな主人公の超えるべき障害として描かれた彼女であったが、ゲームが現実となった世界での彼女は一段と違うように見えた。
ここはそのグレートスの寝室、僕は客人として招かれ現在落着きなく部屋をうろうろと回り続けていた。
人が何人も横になれそうな大きなベッド、広々とした空間、家具一つ一つにもしっかりとした装飾が施され無暗に触れることさえ躊躇してしまう。
僕が生きてまだ16年と9年しか経っていないが、それでもここが未だ踏み入れたことのない未知の世界であることには変わりない。
落ち着かない心を何とか鎮めようと深呼吸を試みるが、部屋中に漂うハーブの香りに頬が緩む。
気を引き締めようとすればするほどだらけてしまうのだが、丁度良いところに沈むベッドがあったので迷わず飛び込む。
そのまま寝息を立てようとした僕だったがここの主はそれを許してはくれないようだ。
「…あら、もう寝てしまうのですか帆足さん?まだまだ日は高いですのに怠け者さんですね」
ふふっと上品に笑いを浮かべるのはこの部屋の主である夜角目グレートス。
僕は慌てて身なりを整え、ベッドから立ち上がろうとする。
だが余りにも柔らかいベッドに手元は狂い、バランスを崩してまた沈んでしまうのだった。
「ふふっ面白い子ですね。ホントこんなに幼くなければ、美味しく頂いていたとこですのに」
近くまで来たグレートスさんが僕の頬をやさしくつねる。
この人の言う美味しく頂くとは本当に性的な意味しか含まれない。
彼女に気に入られた多くの者が手籠めにされ、この屋敷にいる専属のメイドさんも勿論手を付けたとのこと。
つまりは女性を愛する女の子なのですグレートスさんは。
…僕の貞操、案外危ういところにあるとです。
「グレートスさん、それはちょっと…」
「こら、グレートスさんじゃないです。お姉さまと呼んでください。」
ニコニコとさも当たり前のようにお姉さま呼びを強制してくるレズ野郎。
温和な表情の中にどす黒い欲望が渦巻居てやがります。
でもこんなのでも今は立派な協力者なのです。一応
「…さあ冗談はさておいて、グレートスさん。桜花さんの様子はどうですか、まだあの男を狙ってそうなのですか?」
お姉さまなのにっと口を尖らせる彼女に僕は早めの報告を促します。
彼女の報告曰く主人公さんは現在攻略出来うる限りの男性キャラを口説き、逆ハーレムを築いているとのこと。
勿論彼女はこの世界が乙女ゲーの世界だと知りませんから、ただ手当たり次第に男を従わせているように見えるでしょうね。
グレートスさんは主人公さんが嫌いなようです。
日に日に『あのビッチが!?男を周りに囲んで何が楽しい?きっと病気なんじゃないかな』と妄言を垂れ流しているので、心底嫌いなんでしょうね。
でもまあ何だかんだ言って僕はグレートスさん嫌いじゃないので学園追放されぬようやんわりと窘めているのです。
おかげで僕に毒牙が回りつつありますが、今のところ彼女にちょっかいは出していないようなので安心しました。
でもそろそろ僕の体を舐めまわすように見るのは止めてもらいたいのです、ダメですか。
「見るだけならいいだろう!?触れてアレをコレするのは後5年くらいは待つつもりですので」
…え、その話だと僕後5年後に奪われちゃうですか。引きますよその発言には。
でも今の僕にはグレートスさんの協力は必要不可欠です。あの時貴方に会えたのはもしかしたら偶然ではないのかもしれませんが、今の関係には結構満足しているんですよ?
だから、ね。その何かを欲しがるような切ない顔は止めましょう。
僕が今小学三年生の少女でなかったなら軽く襲いたくなる可愛さですよ。さっきは突っ込みませんでしたが今も際どいネグリジェ姿を晒しているグレートスさんは危険ですある意味で。
「ガードが固い清楚系少女、ホントそそられますよねぇ。やっぱりやっておきましょうよ責任は取りますから。ね?ね?」
そんなこと火照った顔で耳元で囁かれても、ぜっ全然その気になりませんからね?
本当ですよ、僕は理性的な人間ですから。だから早くどいてくださいませんか。先程から主張を続ける貴方の胸が当たってるんですよ。
何もそこまで抱きしめなくてもよろしいじゃないですか。ホント、ホントいい加減にしてください。
僕の日常はこうして始まる。
金持ちのレズ姉ちゃんと逆ハーを作ろうとする主人公さんの間に挟まれ、四苦八苦死のフラグを折ろうとする若干9歳の慌ただしい日々がここに幕開こうとしていた。
「レズ姉ちゃんとは酷い言いがかりですよ。気品高く百合お姉さまと呼んでくださって結構ですよ。」
「本質全く変わってないですからね、それ」
…本当に残念な日常が、今ここに展開されようとしていた。
※評価高ければ連載考えます(連載するとは言ってない)