ある男の日記
男視点
○月×日
やあ、初めまして。
僕は椎堂冬夜。
日記に初めましても何もないか。
どうやらここは異世界らしい。
倒れているところを親切なここの村の人たちが助けてくれた。
今は言葉を練習中。
紙を貰ったので日記を書く事にした。
まず最近分かった事。
この世界には魔物と言うモノがいる。
最近水晶が濁ってきて魔物が人間のところまで来る事があるそうだ。
まだ見た事ないけれど、熊とかそんな感じかな?
会うと襲われたり食べられたりとか。
それは大変だ。
柵とか、対策とか立てとかないともしもの時困るじゃないか、と村の人たちに伝えたいのだが言葉が拙く上手く伝わらない。
幸いにデッサンが得意な僕は絵を描いて防御策を皆に伝えた。
僕の言う事を理解してくれたらしい村長さんのリックさんは直ぐに村の周りに頑丈な柵を作り始めてくれた。
まだ言葉を理解しきれてないから僕がわかるのはこのくらいかな。
とりあえず、この世界のことを学ばなければ。
一緒にこちらに来たはずの夏希ちゃんを探す為に、ここの地理と治安を把握したい。
まずは、言葉だ。
ディライザ歴5890年 ○月×日
なんとか意思疎通が出来るようになってきた。
まずこの国の名前。
ディライザ国というらしい。
ここはディライザの辺境の村。幸い水晶とは反対側の村なのでまだ魔物の被害は少ないそうだ。
最強の戦力を誇るディライザの騎士団によって今はまだ平和が保たれているが、水晶の汚れが強くなり真っ黒になってしまったらいくら騎士団とはいえ、防御の一択になるそうだ。
魔物は無限に現れ、決してこの世から居なくなる事はない。
ではどうするのか?
実は水晶が黒く濁り、結界が弱まる事は過去に何度もあったらしい。
原因は分かってはいないが、対策はある。
”巫女”だ。
突如現れた初代巫女が水晶を浄化し世界に平和を齎したと言う。
そしてその巫女は”異世界人”らしい。
嫌な予感しかしない。
まさか、夏希ちゃんが?
しかし今代巫女を召還したという噂も事実もないそうだ。
何でも、召還が出来るほどの召還士がいないので不可能だそうだ。
今まさに召還士を育成中。
でも初代は誰かが呼んだ訳ではないなら、夏希ちゃんも僕と同じようにどこか別の場所に落ちているかもしれない。
○月×日
最悪だ。
リックさんに夏希ちゃんの事を話した。
妻を捜しに旅に出たいと。
地図を見せてもらったが、想像以上に広い世界に目眩がした。
まず馬に乗れなければ一生かかっても世界なんて回れない。
自慢ではないが芸術面にばかり才能が開花している僕は身体能力がまるでない。
乗馬を教えてもらえることになり馬屋に行ったが、馬は賢い生き物だと聞く。
僕をみて馬鹿にしたように笑っていた、絶対。
あと、自衛が出来なければならないと強く言われた。
盗賊だっているし、今は魔物がいるのである。
旅をするならそれこそ騎士団クラスの力を持っていなければ、魔物に出会えば即、死だ。
試しに村の自衛団のジュークさんに戦いを挑んだが、攻撃を避けられた際、そのまま前のめりに転けてしまい、「諦めろ」と割と本気で言われた。
ディライザ歴5899年 ○月×日
初めて魔物を見た。
ジュークさんと一緒じゃなかったら確実に死んでた。
まず感じたのは、異臭。
卵の腐ったような匂いに思わず鼻を摘むとジュークさんがその腕を捕って走り出した。
引っ張られる中、僕の目に映ったのは、うちの村に来るはずだった商人の馬車……を壊した魔物の姿。
その手には、人間だったもの。
頭から齧られてすでに頭が無くなっていた。
口は裂けるほど大きく、牙は鋭く尖っている。
異常に発達した腕に鋭い爪。
体系はゴリラのよう。
だが色々な動物を混ぜたような身体に、四つのギョロ目の一つがこちらを見ていた。
案の定、逃げ帰った僕らを追って村まで来たがあれから強固し続けてきた柵は三メートルほどあり魔物が村に入る事はなかった。
しかし魔物が体当たりを繰り返す度軋む柵と怯える人たち。
幸い魔物は諦めて離れて行ったが、柵のへこみ具合を見るにこのままでは危ない。
……ここの村の人たちを、護らないと。
○月×日
柵の外側を見回り、どう強化すればいいか考えていたとき、また魔物に遭遇した。
異臭は以前見た魔物と同じだが、形は全然違う。
蛇のような身体でずるずるとこちらに向ってくる。
今度はジュークさんもいない。
死ぬと思った。
でも何故か魔物は一定の距離まで近づいてきたら僕を遠巻きに見るだけで近寄ってこない。
何故だろう?
調べてみたい。
ディライザ歴5921年 ○月×日
どれくらい経ったろう?
日記を書くのは久しぶりだ。
僕は村の人たちの反対を押し切って村外れにある水車のある小屋に住まわせてもらった。
たまにジュークさんが見に来てくれる。
僕もたまに村に帰るけど。
何故ここに住み始めたかと言うと、魔物を観察するためだ。
何故か僕は魔物に襲われない。
何故なのか分かれば良くしてくれている村から魔物を遠ざけるのに役立つかもしれない。
○月×日
魔物に襲われた。
いつも襲ってこないから油断していた。
また死を覚悟した。
たまたま食料を持ってきてくれたジュークさんに出会い、村に逃げ込んだため助かったが。
何故今日は襲われたのか。
いつもとの相違点と言えば……指輪を今日はつけていない。
最近食が細くなり痩せて抜ける事が多くなったので落とさないように昨日ベッドの横に置いた。
今日村に行って紐かなにかを貰って首に着けようと思ったからだ。
小屋に戻る事にジュークさんとリックさんが反対したが、何かが掴めそうなんだと反対を押し切って帰った。
僕が毎日着けていた指輪……結婚指輪。
内側にはMon amour (私の愛しい人)と刻まれダイヤモンドが埋め込まれている。
まさか、ダイヤモンドか?
○月×日
どうやら魔物は宝石が苦手らしい。
考えてみれば結界の役割を果たしているのも水晶だ。
この事実を知った僕は訳を話して村中の宝石を集め、柵の下に埋めた。
すると、どうだろう。
魔物が村に近づかなくなったではないか!
……と思ったが年月が経てば宝石は黒く濁り、効力を失ってしまう。
僕のダイヤモンドはずっと透き通っているのに、何故だろう。
ふと、あることに気づく。
集めた宝石の中に、水晶とダイヤモンドだけない。
無色透明な宝石が皆無だ。
リックさんに確かめると、ダイヤモンドの存在自体知らなかった。
ここが小さな村だからなのかこの世界事態ダイヤモンドがないのかわからない。
リックさんと今では親友のジュークさんにこの事実を話した。
本来ならば王都へ知らせるべき重要な事実だ。
しかし手紙を書いてもそれを持って行く人がいない。
……すでに魔物被害はこの世界を揺るがすほどでほとんどの住人が自分の村、街からは一切出ない。
うちの村も自活が出来るように畑や家畜がずいぶん前から増えている。
問題は、宝石の入手。
僕はある可能性に気づいていた。
○月×日
宝石の濁りが、消える。
大きな物は無理だが、小さな物ならば僕が一日所持していればいつの間にか濁りが薄くなるのだ。
……きっと、これと同じ指輪を持っている夏希ちゃんのおかげなんじゃないかな、と僕は思う。
彼女は、僕の太陽だから。
この指輪を通じて、彼女が僕を護ってくれている気がする。
○月×日
会いたい
○月×日
夏希ちゃん
夏希ちゃん
なつきちゃんなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつきなつき
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ディライザ歴5935年 ○月×日
日記を書くのは何年ぶりだろう。
夏希ちゃんに会いたい。
会いたくて、会いたくて気が狂いそうだった。
気づけば小屋を離れ、ふらふらと森を彷徨っていた。
また魔物に遭遇した。
最近うちの村の近くに魔物が来る事は少なくなったのに、珍しい。
どうやら、魔物から逃げてきたらしい親子のようだ。
両親は既に生き絶え、その腕の中には赤ん坊がいた。
まるで赤ん坊を魔物から隠すように折り重なって死んでいる。
僕が近づいた事で魔物がその親子から遠ざかった。
赤ん坊の泣き声がする。
この子だけはとがっしりと子供を掴んでいた腕が、僕が触れた瞬間弱まったような気がした。
赤ん坊を掬い上げ抱っこすると、赤ん坊は笑った。
愛しい存在を思い出し、僕は泣いた。
今度こそ、僕が護るからね。
ディライザ歴5947年 ○月×日
ハルトはすくすく育っている。
僕と違って運動神経がよくジュークさんも筋がいいと褒めていた。
ハルトが僕の名前と父さんの名前が皆と違うと言うから何でか教えてあげた。
もう十二歳くらいだし、いいだろう。
まずは僕が異世界から来たと言う事。
僕には妻がいる。
名前は夏希。僕は冬夜。
夏希ちゃんは妊娠してた。
僕らの名前が夏と冬だから、子供の名前は春か秋にしようと決めていた。
男の子なら、春人。
女の子なら、千秋。
二人で話し合って決めた。
あのころは、とても幸せだった。
でも、産まれた男の子は息をしてくれなくて。
僕たちは春人を失った。
ハルトが不安げに見てくるので、笑ってぎゅーっと抱きしめてやった。
代わりなんかじゃない、僕に取って君はハルトなんだ。
僕の大切な子供なんだ。
そう言うとハルトは安心したように笑った。
かわいいなぁ。
夏希ちゃんに見せてあげたい。
ディライザ歴5955年 ○月×日
ハルト、なんでそんなにかっこよく育っちゃったんだ。
今では僕よりも背が高いし、ジュークさんに鍛えられて馬にも乗れるし、剣だって使える。
僕より強いし僕よりよっぽどしっかりしている。
反抗期なのかちょっと無口だし。
お父さん、寂しい。
それに最近何か、言いたそうに何度も話を切り出しては「やっぱいい」と口を閉じてしまう。
なんだろう?
ディライザ歴5559年 ○月×日
この年で痴呆が始まってないのは、きっとこっちに来たからだろう。
日本だと便利すぎて何もしなくていいからぼけるんだろうな、と思う。
さて、最近やっとハルトが話してくれた。
なんでも四年前に”巫女”が召還されたらしい。
それを伝えようとしてたらしいんだけど、何故言いよどんだのかわからない。
しかも今年に入って巫女はギルバート殿下と共に水晶の浄化に成功し、残るはこちらに入り込んでしまった魔物を討伐するだけなのだそうだ。
”巫女”か。
どんな子なんだろう。
きっと夏希ちゃんみたいな子なんだろうな、と思う。
一緒に異世界に飛ばされた夏希ちゃん。
足腰立たなくなった今では探しに行く事も出来ない。
夏希ちゃん、無事かな。
魔物に襲われてないかな。
指輪があるから大丈夫だよね?
夏希ちゃんのおばあちゃん姿、見たかったな。
きっと可愛い。
夏希ちゃん、会いたいよ。




