パシリ
次話から異世界召喚予定です。
教室のドアの前に着く。ドアを開けようと手を出した瞬間、声が聞こえてくる。
クラスメイトの話し声がする。
いつもだ。
クラスメイトの話声が聞こえてくるだけで不安に駆られる。自分が陰口を言われているのか、そう思えてくる。
今から帰りたい
教室に入りたくない
どんな理由があれば舞を納得させ早退できるんだろう?
頭の中でそんなの無理だってのは分かってるのに僕は考えるのをやめれない。
逃げ出したい気持ちが心を埋め尽くしていき、僕の表情が固まってしまう。
必死に始業前早退の言い訳を考えていると舞が僕の手を、不意に握ってきた。
「去年は違うクラスだったけど今年は私も一緒だから心配しないで欲しい。勇人は何も考えなくて良い」
舞の言葉は嬉しい、けどイジメられてる自分に恥ずかしくて僕は返事が出来ない。
僕が下を向いたまま黙っていると舞が教室のドアを開ける。
「って!まだ心の準備が!」
「「「……」」」
教室に入室するとさっきまで僕を悩ませていた話し声が消え代わりにクラス中の視線が僕と舞に向けられる。圧されて無意識に顔を下に向けてしまう。なんでこうなるんだ…
「おはようございます。何か用でもあるの?」
「…おはよう神代」
一番近くにいた男子生徒が返事を返して来たが僕には無い。僕が挨拶してないからだ。
無言で僕の手を握ったままの舞は黒板に書かれている座席表を確認すると僕のカバンを奪い手に取るとドアに一番近い列の一番前の席にカバンを置く。
多分、そこが僕の席なんだろうなぁ。天羽だもんなぁ。後ろは、荒井さんだ。
荒井さんは茶髪のショートな髪型の女の子で結構かわいい。元気が良くていつもクラスの中心にいる。
「勇人はここ」
「…だろうね」
「私は、ここ」
にっこりと微笑みながら言った舞は僕の隣の席に自分のカバンを置く。
「…隣なんだね」
まぁ、舞がどこの席だろうが僕には関係ない。
「分からない所があったらすぐに教えてあげるから」
「…別に良いから」
舞が世話を焼いてくる。いつも舞は過保護な気がする。
舞がいなくても僕は平気だ。確かに、僕は舞がいないとすぐにいじめられてしまうけど今度からは大丈夫なのに。次からは一人でもいじめられない様にしていけるのに、なんで僕の手を繋いだりするんだ。
これじゃあクラスの人達に舞がいなきゃ何も出来ない奴って思われる…思われてるけど、これからは本当に一人でやってけるのに…恥ずかしいから手なんて握らないでよ。
決めた。僕は二度と舞を頼らない。いじめも一人でなんとかする!
というか、いつまで僕の手を握ってるんだよ舞…
「あ…」
僕に手を払われた舞は悲しそうな表情をするが、僕はそのまま席に座り筆記用具を机上に出しHRの準備をする。
そのまま、ぼーっとしているとチャイムが鳴り新しい担任の先生が教室に入ってくる。
「おはようございます。僕が担任の中野です。これから1年よろしく。」
中野先生は国語の授業を受け持っている。年齢は40代でぽっちゃりしてる優しい先生だ。
「えーっと…帰りは、天羽君が日直お願いね」
「はい。」
「今日は新学期の初日だから、このまま今日の説明をします。これから体育館に行って校長先生と僕たち教員のありがた~いお話をする集会をしたら教室に戻り、プリントを配って昼前には下校ですね。」
普通の新学期初日だ。授業もないし今日は寄り道しないで帰って溜めてたアニメを観よう…
「じゃあ皆さん、行きますよ~」
中野先生は廊下に出て名前順に僕らを並ばせ体育館に向かう。
…………………
…………
……
集会を終え、教室に戻った僕らは中野先生からプリントを受け取ると学校終了のチャイムを待っていた。
中野先生も黒板に背中を預け、ぼーっとしている。その表情は睡魔と闘ってる様に見えた。
「はーい。では、以上で今日は終わります」
「規律、礼、ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました」」」
中野先生は教室を出て行く。
終わった…早く帰ってアニメを観よう…
「勇人」
「なに?」
帰りのHRが終わると舞が話しかけてきた。
「素晴らしい日直振りだった。」
「………」
なに言ってるんだよ舞…、やっぱり子供扱いしてるよね。何も答えずに舞をジト目で見やると、舞は一瞬だけ表情を張り詰めた。
「なんで何も喋ってくれないの」
「さあね…」
「これから職員室行って来る。勇人には申し訳ないけど教室で10分程待っててほしい」
「職員室?なにかあるの?」
「……先生に呼ばれただけだから気にしなくて良い」
ん?なんだろ。いつものハッキリした舞じゃない。その態度は親に叱られるのを恐れる小学校低学年児の様にビクビクしている……ような。僕には、よく分からないけどそう思える。
「わかったよ。僕も途中まで職員室行くよ。わざわざ、職員室から教室に戻るよりも早く帰れるよ」
「ッ!いや、大丈夫!私の事は考えなくて良いから!行って来るから此処で待ってて」
焦った舞は慌てて職員室に向かっていった。
「なんかあるな…」
僕の勘が囁く。様子見に行こうかな。どうしようかな。
「よ、天羽君!」
僕が舞の隠し事について考えていると去年から僕をいじめてくる鶴賀順平が声を掛けてきた。同じクラスだったけどコンタクトして来ないから、もういじめるのやめてくれたのかな?と淡い期待を抱いてたのにやっぱり変わらないみたいだ。
「な、なな、何?」
後ろから突然話しかけられた事への動揺と鶴賀君への恐怖で僕は噛んでしまう。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいどうしようどうしようどうしよう!殴られるのは嫌だ。鶴賀に話掛けられる前に舞なんか置いて帰るべきだったんだ…。もうだめだ。話しかけられた以上、なにかされる……どうか、どうか!殴られませんように!僕は縋る様な思いで神に僕の無事を祈り振り返った。
「まぁそうテンパるなよ。すぐに終わるからさ」
言葉では優しく言う鶴賀君だがその表情は怯える僕を見て口角を吊り上げて厭味な笑みをしている。
「鶴賀君なにか用…かな?」
「ジュース買って来てよ。ドクパなドクパ!それと山田、谷口の分。山田と谷口はなに飲む?」
「俺はココ・コーラ」
「俺はやーいお茶で!熱くて喉渇いてたんだわ。天羽さんきゅーな」
「で、でも僕はま、まい…舞を待ってるんだ。だから行け――」
「うっせーよ!早く行けカス」
冗談じゃないよ。自販機があるのは一階しか無い。しかも、今僕らがいる教室は三階だ。遠い…
でも、舞が10分で戻ってくるって言ってたし丁度良いかもしれない…。舞が来る前に御遣が終わる。舞にこんな所見られたらめんどくさい事になるし今日は新学期だし疲れた。家でゆっくりしたい気分だしここは我慢して、即行ジュース買って終わらせよう。
「っ!う、うん…分かったよ。あ…お金は?」
「お前が持って来たジュースと交換してやるよ」
「え?…なんで…」
「あぁ?当たり前だろうが、お前がそのままネコババする可能性あんだろうが」
「絶対だよ…絶対にお金払ってね…」
泣き出しそうになるのを抑えながら僕は言う。なんでだよ…ネコババなんてしないよ。大体、疑うなら自分で買いに行けば良いのに。
「分かってるから早く買いに言ってね天羽君♪」