目覚まし
ピピピ!ピピピ!がちゃ
僕は目覚まし時計のアラームで目が覚めた。まだ起きたくないなぁ、でも今日は新学期の初日だった…。
学校に行きたくないが親が心配するし行かなければならない。そう思いながら重すぎる瞼を開けて気づいた。
「あれ…目覚まし押したっけ」
「おはよう勇人。」
舞だ…舞が居た…この女の子は神代舞
僕の幼馴染で今は母さん、僕と舞の3人で家に住んでる。舞の両親は事故に遭い亡くなってしまった。舞の面倒を見てくれる親戚がいなかった為、舞の父親と親友だった僕の父さんが舞を引き取ったらしい。
因みに父さんは北海道で研究をしていて家には居ない。正月に帰ってくるだけで基本家には帰ってこない。
「……おはよう。なんでここに居るの?」
「私はこの家に住んでるから」
「うん。それは分かるけど僕の部屋に居るのはおかしいよね。なんか用あったの?」
「起こそうと思ったんだけど目覚ましセットしてあるし起きるまで待ってたの。」
「あ、そうなんだ。来てくれてありがとうね。どれくらい前から居たの?」
「ん~30分くらいかな」
「ええ!?そんなに!?待ってるんだったら起こしてくれても良かったのに!」
「ううん、せっかく眠ってる勇人を起こすのは勿体ないよ」
そう言うと舞は優しく微笑んだ。
勿体ない?どういう事だろ…それにしても30分も待っているとは思いもしなかった。なんで今日に限って…あ、そうか。分かったぞ。多分、新学期だから心配してくれてるんだな。
「それとおばさんがご飯作ってあるから着替えてから来なさいって言ってたよ」
舞はドアに向かいながらそう言うとドアを明け出て行った。
「はーい。りょうかい」
僕はすぐに制服に着替え既に筆記用具と上履きが入ってるカバンを持って階段を降りリビングに向かう。
「おはよう。今日はいつもより早いわね…ぷぷ」
母さんが居る。何故か笑いを抑えながら挨拶をしてきた。テーブルにはハムエッグとご飯と味噌汁が置いてあり美味しそうだ。
「おはよう。なんで笑ってんの」
「だって舞があなたの部屋から出てきたのよ…ぷぷ」
「はぁ?それがどうしたの」
「とぼけちゃって可愛い子ね。早く舞と結婚――」
「しないから。好きじゃないし舞も僕の事なんか好きじゃないって」
僕がそう否定すると舞は一瞬悲しそうな目をして下を向く
「ほら勇人がそんな事言うから舞が悲しんでるじゃない!」
「良いんです!おばさん!私は勇人に愛されなくても近くで住めていれば…それだけで幸せなんです…」
舞が朝から凄い演技をしてきた。どうしちゃったんだろう…
「ごめん、何言ってるのか意味が分からない」
「勇人ッ!!黙りなさい!お前はいつも舞を悲しませて!!鈍感なんだから!」
母さんは僕を怒鳴ると舞に駆け寄り舞の顔を優しく抱きながら耳元で何かをささやく。舞もそれに返事するかの様に時折、頷いてる。
こんな光景を見ると母さんは僕よりも舞に優しい気がする。気のせいだろうか。
「とりあえずご飯食べてるね」
「もう勝手にしなさい。舞も早く食べて元気出してね。まだチャンスはあるわ。寧ろあり過ぎるくらいよ。」
「はい。頑張ってみますおばさん!」
そう返事した舞と3人で朝食を食べるのだった。
「気を付けて行ってくるのよ~!」
玄関まで出て見送りながら母さんは僕と舞を送り出してくれた。
「あ~い。行ってきます」
「おばさん、行って来ます」
適当に返事をして舞と一緒にバス停へ向かう。
「よお~!勇人、舞!おはようだぜ」
「…おはよう誠」
「おはよう。」
こいつは大谷誠
僕、舞と小学校に入学してからよく3人で遊んでた幼馴染だ。短髪黒髪でイケメンのナイスガイだ。体もガッシリしており身長も170後半で逞しい。年は17才で僕よりも1つ年上だが10ヶ月位家出して留年している。その為、今年からは僕らと同じ学年であった。そんな彼にも残念な所が
「相変わらず、勇人は男の娘だな!身長低くて女顔だし!さらに一人称が僕ぅぅぅうううう!!!ありえなぁぁあああいいい!!!」
そう。誠はホモなのだ。本人曰く両刀らしいが。もちろん僕にそんな趣味は無い。誠には昔から世話になってるし尊敬もしているがそれは人間としてである。なので僕が黙っていると
「誠…前にも言ったと思うのだけれど勇人が嫌がる事はしないで」
「OK!OK!分かってるさ!勿論、舞も可愛い。美人系のルックスをしていながら可愛さもある…わかる。すげーよく分かる。髪は黒髪で肩までの長さ。髪質も綺麗で女の子特有の良い匂いもするしスタイルも抜群に良い…ただ胸が貧乳――うわあああ!!」
舞が目潰しをしていた。突きが速く正確に誠の両目を突いていた。怖いよ舞さん…
「バスが来たから早く乗ろう勇人」
「う、うん…誠も早く乗ろう」
「お、おう…痛い…痛いよぉ…」
誠が目を押さえながら乗車し僕達は駅へ向かった。
駅に着いた。ホームでジュースを買い電車に乗り込んだ。
「ふう~!疲れたぜ!それにしても普通目潰しするかあ?マジで痛かった本当に」
「目潰しなんかしたかしら?わたし…」
「はあ!?舞さん記憶力大丈夫ですかあ?」
「心配しないで大丈夫。わたし記憶力には自信あるので」
「いや、心配してねーけどな!」
そう言いながら誠は笑う。だから僕達も笑った。
「そういや勇人、前に言ったろ。俺の事はクレイジーアナルと呼べと」
「くれいじーあなる?てか、前に言われてないけど」
「絶対に言っては駄目よ勇人」
ん?クレイジーは分かるがアナルってなんだろ?でも舞が駄目と言ってるから碌な意味ではないだろうな
「二丁目で俺はそう呼ばれてるんだ。誰にも俺を満足させられなかった。バーに居た男共を一夜で全員昇天させても満足出来なかったんだ。そんな俺を見たマスターが俺をクレイジーアナルと呼び始めたのさ。今じゃ二丁目でクレイジーアナルの名を知らない者はいないね」
なんかそっち系の単語だったみたいだ。断った方が無難だな。学校でこんな単語発したらドン引きされるな。ただでさえいじめられてるのに
「遠慮しておくよ…」
そう言うと舞は当然と頷き誠はやれやれだぜといった感じで肩を上げる。
そうしてる内に電車は目的の駅に着き僕達は談笑しながら学校へ向かった。
学校へ着くとクラス表の看板が校門付近に立てられていて、そこには沢山の生徒が詰め寄っていた。
「はーい、確認した生徒は早く自分達のクラスに向かってくださ~い!!」
生徒の中には自分と友達が同じクラスで嬉しいのかその場で友達と話してる人も結構居る。
先生の注意を受けて看板から離れていく生徒達。不意に声が聞こえた
「でも茜ちゃん運ないね!天羽と同じクラスなんて――」
瞬間、僕は心臓がドクン!と高鳴った。僕はそのまま固まってしまい目線も動かせずに寒気に襲われ冷や汗がダラダラと流れながらもその女子達の会話に耳を傾けた。
「マジついてないよー。あいついじめられてるからよく机の周りとか汚れるんだけど私の机が巻き添え食らっちゃってさー。本当に生きてるだけで迷惑だわ。死ねば良いのに」
「キャハハハハハ」
「でさ、この前もタケちゃんにイジ、ひぃっ!?…」
「どうしたの?」
「あそこに神代さんが…」
「あ…」
僕もそれを聞き舞の顔を見やると舞が不快な…いやこれは殺意?…に篭った目で女子達を睨んでいた。表情は無表情だが目だけが殺意の篭った目をしていた。
舞の目を見た女子達は会話を中断し一言も話さず校舎へ向かって行く。
「舞、勇人を守るのは良いが暴力はやめろよ。でなきゃお前が処分されちまうからな。」
そんな舞を見て誠が舞に注意する。今の舞を見てやばいと感じたのだろう。本気だと。
「…分かってる!」
「僕はあれぐらい大丈夫だから気にしないで良いから。」
僕は恥ずかしくなって見栄を張って大丈夫だと言ってしまう。イジメられたのは去年の秋からで誠は知らなかった。舞にもクラスは違うから始めのうちはバレなかった。でも所詮学年なんて狭いコミュニケーションだ。冬には舞に知られていた。舞は強かった。イジメっ子達も舞には勝てないようで舞が居ない時だけイジメて来る様になっていった。
「大丈夫じゃ…ないじゃない…」
何か過去にあったみたいに悲しさを声に出しながら舞は言う。どうしたんだろ
「勇人、なにがあったか知らんが何か起きたら絶対に知らせろよ。俺が話し付けてやるからな」
「ありがとう。でもなんともないから…早く、3人のクラス確認しようよ」
「む、そうだったな。どぉーれ俺らの新しいクラスわぁあああ?」
ふざけながらそう言う。誠に気を遣わせちゃったみたいだ。イジメも誠がいればそれで良いや。誠と舞がいればきっと楽しめなくとも辛くはならない
「うわああ…」
「どうしたの?…って僕と誠違うクラスだねえ」
「ああ…チクショー」
「私は勇人と一緒だね…良かった」
さっきまでの表情が嘘みたいな笑顔で安堵してる。
いつも思うんだけどなんで舞はこんなに僕と一緒にいたがるんだろうか…やっぱり心配なんだろうな。早く大丈夫な様にならないとなあ…
「うん。そうだね。」
「俺がちげえだろおおお」
「誠の性格なら仲良くやれるよ絶対うん」
「俺は勇人といたいんだぁぁあ!うわああぁん」
発狂しながら泣き出す誠…泣く程かな?
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「大丈夫だよ。クラス違うだけじゃん!休み時間とか会える時間はいっぱいあるじゃん」
「勇人、誠なんて放っておいて良いんだよ。私がいれば誠なんて必要ないんだから」
「なんだとお!お前の様な貧乳――ぎゃああ!!」
舞が目潰しをする。朝の経験が生かせなかったみたいだ。でもやっぱり舞でも貧乳とか気にするんだな
「誠…学習してなかったんだね」
「いや、今のはさっきより早かったんだ…くそぉぉ」
「こんな馬鹿放っておいて早く教室行こうよ勇人」
「う、うん。じゃあね誠」
「痛い!いたぁい!」
本当に痛そうだけど僕と舞は痛がる誠を放置して教室に向かった。