表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫とワルツを  作者: ピジョン
魔女の恋
41/42

エピローグ いつかの青

 出征を控え、慌ただしい雰囲気の旅団を見下ろし、第八連隊の兵舎の屋上にて、俺とイザベラの二人は呑気にお茶を楽しんでいる。


「ねえ、私のこと……どう思ってんの?」

「好きですよ?」


 嘘は言ってない。猟奇趣味にはうんざりしているが。


「そ、そう……」


 ぷいっと視線を逸らしたイザベラの長い耳は、気の毒なくらい赤かった。


「猫は、いいの……?」

「今日は、あなたに会いに来たんです。アキラは関係ありません」

「そ、そう……」


 そして俺たちは沈黙を選ぶ。

 冬の到来を感じさせる秋の風が吹く。イザベラは落ち着かないのか、頻りに髪をかきあげる仕草を繰り返していたが、


「ねえ、今からでも遅くない。私のものに――」

「おことわりします」


 キスを交わしてから、この手のやり取りは嫌というほどした。

 イザベラは、どうしても俺を行かせたくないらしい。


「死んじゃうわよ……?」


 その言葉は、俺の心までは届かない。

 イザベラが俺に向ける感情は同情だ。可哀想、ただそれだけ。

 好きだから、可哀想だから、この二つの感情はよく似ていて混同しやすい。

 イザベラは好意と同情を履き違えているだけだ。


 空を見る。


 青、青、青。


 無関心の青。


 残酷な青。


 俺が死のうが生きようが、変わらずきっと、青いのだ。

 隣ではエルフの女が苦しそうに胸を抑え、こちらを見つめている。喉に茶菓子でも閊えたのだろうか。

 青い瞳の女。名前も知らない女のことを思い出す。


 不意に、イザベラが言った。


「ねえ、あんた……絶対死なないって、約束なさい」


「それで気が済むんでしたら」


「ばかっ! 真面目に言ってんのよ! 何をやってもいいから、絶対死なないって約束しなさいよ!」


「…………」


 これは……参った。


 参ったぞ……。


 無関心の青、残酷な青……そんなことはないのかもしれない。イザベラの青い瞳をのぞき込み、途方に暮れる。


「な、なによ? 私の顔に、なにか付いてんの?」


 同情ではないのかもしれない。


 羞恥に頬を染めたイザベラを見つめながら、そんなことを考えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苛烈に生きる弟の話を……
『アスクラピアの子』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ