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猫とワルツを  作者: ピジョン
第4章 猫とワルツを
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第22話 ワルツの鳴る方へ

「おやすみなさいませ……レオンハルトさま」

 エルが、そっと俺の髪を指で梳く。


 レオンハルトさま……俺は、レオンハルトをやってもいいのだろうか……わからない。

 ジークは、俺は、レオンハルト・ベッカー以外の何者でもない。と言っていた。レオンハルト・ベッカーでいていいとも……。


 意識の境が、曖昧になる。


 ………………


 ……………


 …………


 ………


 ……


 …


 エーデルシュタインの宮殿……ジークの寝室……。


 いつも堂々として凛々しいジークだが、閨ではいつも余裕がない。

 馬乗りになって、俺の顔に大きな胸を押し付け、息を荒げて言う。


「レオ、レオ……動いちゃだめだ……動いちゃだめだ……!」


 背筋に沿って生えている美しい銀の鬣を撫でてやると、それだけでジークは、


「ぅぅ―――――」


 静かに、深く、果てる――。


 狼の女は、その生涯に於いて、一人しか番を持たないと言われている。


 愛されるのは、悪い気分じゃない。だが、こうも思う。


 俺の気持ちは……?





 ランプの薄暗い明かりの中で、知らない女を抱いている。


「レオンハルトさま……もっと、もっと……エルを溶かしてください……」


 ……エルは、辱められたと言っていたが、この夢の中では、積極的に俺を求めている。

 首筋に噛み付いたり、背中を引っ掻いたりと忙しい。頻りに口づけをねだり、耳元で、


「少佐、しょうさぁ……愛してるんですよう……!」


 と、囁いた。


 エルを抱く俺の胸の内は、ただひたすらに息苦しい。


 一度でいいから、この女を、心から笑わせてやりたい。

 生きることの素晴らしさを、教えてやりたい。

 でも、それは俺にはできなくて……

 俺はエルに、返しきれない大きな負債があるようだ。


 だが、こうも思っている。


 決して心を許すことのないこの女を、なんて陰気な女だろうと、疎ましく思っている。

 とても大切に思う反面で、この女の絡み付くような性根を、俺は、快く思っていない。



 ……もう、終わったか?

 蛇の食い残しは、もうないか……?

 エルの記憶は、蛇にとって、とても不味いものであるようだ。


 耳の奥から、ワルツの旋律が聞こえる。

 蛇の食い残しは、まだあるようだ。

 どんなに不味いものを残したのだろう……。


「おまえは黙って、ボクを受け入れたらいいんだ」


 だれだ……?


「ボクの指をやろう!」


 彼女は、いかれてる。


「どうしてボクを拒絶するんだ! どうしてボクを恐れる!」


 彼女は、いかれてる。


「足を切るぞ! 足を切って飼ってやる!」


 彼女は、いかれてる。


「卑怯者……このうすらとんかちの唐変木め……」


 でも、どうしようもなく愛しくて……


「ボクを抱いていると、夢のようか……」


 俺の大事な風雲児……キラ・キサラギ……。


「愛してる。愛してるんだよ、キミだけを……」


 彼女は、いかれてる。


「気に入らないなら、焼き払ってあげるよ?」


 耳の奥で鳴り響くワルツの旋律が、不協和音のように、俺の神経を苛み続ける。


 愛深きゆえに、狂ってしまった俺の風雲児……ア……キ……ラ……


 ――――アキラ・キサラギ。



「おまえの全てはボクのものだ。流れる血も、今正に打つ鼓動の一つですらも、ボクのものであるべきだ」



 アキラの狂愛が、俺を掌握しだしたのは、いつからだ?


 わからない……わからないが……行かなければ……。


 アキラの狂愛が、今もまだ、俺の胸を焼いているから。


 でも、何処へ向かえばいい……?


 決まってる。


 ワルツの鳴る方へ。


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苛烈に生きる弟の話を……
『アスクラピアの子』
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