スランプ作家と悩める少女の不思議な体験
この物語を選んでくれた みなさまへ
この物語に興味を持ってくれてとても嬉しく思います。なかなか連載はできないかも知れないですが、出来れば長く根気よく読んで貰えたらいいと願っています
プロローグ
「もう!はやく案を出して下さい!締め切りが迫ってるんです!先生それをお分かりですか?」
ここはもの静かで小さな町そこのひときわ大きい家、いや屋敷に雷のような鋭く殺気に満ちた声が響いた。だが、その声を気にもしないような静けさと上品さ溢れた声が小さく聞こえた。「はいはい、わかっています。だからその大きい声を抑えてちょうだいね、紅茶が美味しいありませんから黙ってちょうだいね」
しかし男はさすがにキレたのか聞き取れないぐらいの早口でいいはじめた。
「先生は小説を出版されてからもう十年もたっています。いくら前の作品がベストセラーだったからって、もう今のうちに出さなくとは先生の知名度が低くなるばかりです!」
「私は知名度が低くなってもいいから自分が書きたい作品を出版したいの、だからあまり気にしないで良くってよ」
それでも男は引き下がらない。
「でもこのままだと、私たちとの関係も絶たなくてはならなくなります!!」
それを聞いたとたん、今ま静かに流していた女に電気がはしり、心のなかでとても大きく黒い炎が沸き上がった、そして…
キレた。
「もうさっきから、私を縛るような事ばかり言って、私を困らせて何が締め切りよ!そんなことならあんたが書いたらいいでしょ!!私ば小説家だから自分の小説を書きたいのだからごちゃごちゃ言わないで!
お分かりになって?」
「は、は、はい…。
すみませんでした…」
男はあまりに怖すぎて顔をひきつらせて謝っていた。すると今までのキレかたが嘘のようにまた気品ある笑顔を見せると
「わかってくれたらいいのです」
そう言って紅茶を一口すすった。そしてとても重苦しい口調のふりをして言った「藤原さんが私のために言ってくれているのは百も承知です!」
それを聞いた男、藤原純平は激しく首を縦にふっていた。
この藤原純平はこの会社に入社して一年、ずっとこの女、柏原麻里子を担当していたが、今までに一度も麻里子が小説を書いている姿は見たこともなかった。
だからこそ、藤原は焦っていた。同期がいろいろな成果をあげているなか1人だけ全然なにひとつできていない。その気持ちがさらに藤原を焦らせていた。
「だからこそいい加減案ぐらい出してくれませんか?もうそれだけでもすごく助かりますから」
藤原はすがるようにつぶやいた。麻里子はさすがに哀れに思ったのか、ゆっくりと衝撃の言葉を発した。
「案ならもう出来てるわよただ登場人物がまだ動いてくれないのよ。」
「えっ!?もう案はまとまっているんですか?それならもっと速く言って下さいよってか登場人物って誰ですか?」
「あら、藤原さんにまだ言っていなかったかしら?
じゃあ紹介するわね」
そう言って、藤原に双眼鏡を渡した。
「これで、向こうの家の前で本を読んでいるショートヘアの女の子を探して」
藤原は不思議そうに頷くと双眼鏡をあて向こうの家を見てみた。
茶色がベースのごちんまりとした家の前で白い椅子と机を広げ静かに読書をしている小さな女の子がいた。「あれ…ですか?普通の女の子にしか見えないんですけど」
すると、麻里子はいたずらっ子のような顔をして
「普通がいいのよ、普通があの子は今とても勉強になるときなのよ」
「よくわかりません…」
藤原は困った顔をして言った。
「まぁ、まだ時間がかかりそうだから、執筆はもう少し待って下さいね」
「えっ、それは勘弁して下さいよ〜。」
「お願い!私はあの子にかけてみたいの」
麻里子の必死のお願いにさすがに負けたのか、藤原は大きなため息をつくと
「わかりました、今日は帰ります。でも今度来るまでに案ぐらい出して下さいね。本当に頼みますよ」
「わかりましたわ、そろそろあの子も動き始めると思いますからなんとかします。今日はありがとう」
そう言って双眼鏡片手に、マカロンを食べていた。
それを見てまた大きなため息をつくと、とぼとぼと帰って行った。
「さぁ、そろそろ動いてくれないのかしら?優子ちゃん…」