第5話
その日、紺野からは何も連絡がなかった。
少し、安心した。
買った小説を読んで、ビールを飲んだ。
これが今の俺の日常。
これでいい。
今は、とにかく自分で精一杯なんだ。
……でも。
少し、罪悪感があった。
* * *
──土曜日
残っていた作業があったから、学校に出勤した。
今日は、ほとんど教員が来ていない。
集中できる。
黙々と作業をしていた。
その時、視線を感じた。
振り返ると、誰かが覗いている。
──紺野だった。
なんでここに?
無断で入ってきたのか?
「お前、勝手に入ってきたらダメだろ」
「無断じゃないです!ちゃんと事務室で許可取ってます」
……堂々と来るとは。
「今日は先生に会いに来たんじゃないんです。部活の後輩たちに会いに来ただけです……」
そのまま紺野は通り過ぎていった。
何部だったか?紺野は。
覚えていなかった。
仕事が終わったら早く帰ろう。
とっとと終わらせて、急いで駐車場に行ったら――
弓道部の部室の近くに紺野がいて、部員の生徒と話していた。
……本当に部活の用事だったのか。
弓道部だったのか。
弓道部の道着を着て、弓を引く紺野を想像した。
ちょっと……見てみたかった。
ちょっとだけ。
その気持ちを、必死に誤魔化した。
「先生!」
……バレた。
紺野が、手を振っている。
周りの生徒に、見られている。
ここで無視すると、それはそれでまた面倒くさくなりそうだ。
俺は、軽く手を振った。
紺野が凄い喜んでいる。
周りの生徒の視線が痛い。
俺はあくまで“元教え子”として接する。
それだけだ。
そしてすぐに家に帰った。




