第16話
玄関の軒下で、俯いていた。
「……お前、なんでここに……?」
「……ごめんなさい」
久々に紺野と会って、あの日で終わったと思った時間がまた動き出した。
複雑な気持ちの中に、確かにあった。
……会いたかった。ずっと。
やっぱり、何かで気を紛らわせても、どうしても埋められなかった。
それが、今――満たされている。
「……どうした?」
「……ダメだったんです」
紺野は、まっすぐに俺を見た。
「他の人じゃ、だめだったんです!私、先生と映画行った後すぐ、大学で告白された男の子と付き合ったんです」
前見たあの男か。
「でも、その人と居ても、ただ先生と比べてしまってばかりでした。ずっと拒み続けてしまって……傷つけてしまいました」
俺は何も言えず、ただ雨の音が周囲に響き渡るだけだった。
「先生、最後のお願いです。私のこと、“嫌い”って言ってください。そしたら私、本当に諦めます。もう、こんな風に会いにきません。二度と」
──あの日
俺が言う前に、紺野が察して終わったあの日。
あの時、俺がはっきり言っていれば、紺野はもっと男と向き合えてたのか……?
嘘でも、“嫌い”なんて言えるわけないだろ。
お前に。
「紺野……その願いは聞けない」
紺野は、しばらく考えた後、傘を開いた。
「先生、すみませんでした。先生はそんなこと言う人ではないですよね。最後まで迷惑かけてごめんなさい。さようなら──」
紺野は背を向けて、雨の中に入っていった。
暗闇に紛れて。
もう、これが最後かもしれない。
そう思った時──
俺は紺野を追いかけていた。
そして、紺野の手を掴んでいた。
紺野は、驚いていた。
もう、自分を誤魔化したくなかった。
後悔したくなかった。
雨で全身がだんだん濡れていく。
「先生、どうしたんですか……?」
「……俺もお前が好きなんだよ」
何も、先のことは考えてなかった。




