第11話
俺の行動の先を読まれていたことに、驚いた。
わかってて、紺野は行動していたのか。
映画は断るべきだ。
紺野も理解している。
でもなぜだろう。
俺は映画館にいる。
映画館に向かう途中、紺野は言ってきた。
「今日は私だってわからない様に、雰囲気だいぶ変えたんですよ」
俺が周りの目を気にしていることも、理解している。
それがなおさら、俺の心を苦しめる。
座席は映画館の一番後ろの端だった。
あまり人がいなかった。
紺野がパンフレットを買ってきたから、それを見ていた。
この映画の原作は、そんなに感動的なシーンがあるわけではないが――
俺は、好きだった。
足を怪我して歩けなくなった男が、昔を思い出すノスタルジックな話だ。
思い出すのは、青春時代。
俺は教員として、日々、誰かの“青春”と共にある。
俺にとっては仕事の一部だが。
俺自身の青春時代に何か特別なものがあったかというと、特に何も思いつかない。
でも、この作者が表す青春はとても胸が苦しくなるようなことばかりだ。
もう戻れない、“あの頃”に置いてきた何か──
いつの間にか暗くなり、映画が始まった。
俺たちは、何も話さなかった。
ただ同じ方向を見て、映画を見ていた。
この映画が終わったら、どうしたらいいのか。
もう紺野は俺の気持ちを察している。
この映画が終わったら、俺たちは“教師と教え子”という、それ以上でもそれ以下でもない関係に戻るだけ。
ただ、自分で答えを出しておきながら、心の底で微妙に何かが揺れている。
それが、よくわからないまま映画は、終わった。
名俳優の演技で、想像よりもかなりいい映画になっていた。
映画館で見られてよかった。
周囲が明るくなった。
「先生、ありがとうございました」
紺野は立って、頭を下げた。
「私はもう、これだけで生きていけます……」
紺野は、そのままシアターから一人で出ていった。
俺は、そこに一人残された。
何も争うこともなく、静かに終わった。
俺の心に、爪痕を残して。
去り際の紺野の表情は――
どう表現すればいいかわからない。
ただ、あいつにあんな顔をさせたくなかった。
俺はその後、映画館を出た。
紺野は、もうどこにもいなかった。




