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星の降る丘での約束

作者: 春夜
掲載日:2026/02/07

静かな夜の話です。

派手な出来事は起きませんが、

誰かとの記憶が心に残っている方に、そっと届けば嬉しいです。


少しだけ空を見上げたくなるような物語になっていれば幸いです。

――「あの丘の上で空を見ると星が降るんだって! 今度見に行こうよ!」


そう言って見に行きたがっていた君は、どこで何をしてるのだろう。

幼い頃に交わした、他愛もない約束。

あの頃は自分たちだけで行くには幼すぎたし、親と行くのも、なんだか秘密を知る人が増えるみたいで嫌だった。


今思えば、子供同士のすぐ忘れてしまうような約束だったんだと思う。

だから成長したら行こうと思っていたけど、いつのまにか君はいなくなって、会うこともなくなった。


でも十年経った今でも、僕はまだ覚えている。

ちょうど今日が、あの日から十年目だ。


一人で行くには味気ないけど、君も見たがっていた景色を見に行くのもいいか。

今夜、行ってみよう。


軽く準備を済ませて家を出る。

道中、君との思い出が幻みたいに浮かんでは消える。

どの思い出にも、最後は君の笑顔が残っている。


日が暮れ、星の降る丘までもう少しというところで、空気が変わった気がした。

澄んでいるのかなんなのか、不思議と嫌な感じはしない。

初めて来るはずなのに、むしろ懐かしい気さえする。


一歩一歩、歩みを進める。

期待のせいか、足取りは自然と速くなっていた。


そして丘に着く。

見上げた先には、満天の星空。

その中を、星が流れた。

一本の光が、幾千にも枝分かれするように。


「確かにこれは星が降ってる。

……これが君の見たかった景色なんだね」


見惚れていると、背後に気配を感じて振り返る。


そこに、成長した君が立っていた。


胸が高鳴る。

あの頃より背も伸びているのに、変わらない笑顔のままで、僕はまた見惚れてしまった。


「君も来てくれたんだね!」


星明かりに照らされる君は、僕には少し眩しかった。


「ああ、なんとなく今日かなって思ったんだ。

そしたら案の定で、びっくりしたよ」


そう言って、君の隣に並ぶ。


「私からすれば、まだ来ないのかなって感じだった」


その言葉の意味を聞こうとしたけれど、少し遅かった。


「でも来てくれたから許す! ありがとうね。話したいこと、いっぱいあったんだ」


「……それを言ったら、僕もだよ」


変わらず明るい君に、ほっとする。

けれど、いつも感じていた力強さの奥に、どこか儚さが混じっている気がした。


「今まで何してたんだ?」


そう聞いたとき、君の表情が少しだけ曇ったように見えた。


「……ちょっと忙しかった、かな。

はは……今まで何も言えずにごめんね」


「大丈夫だよ。君がこうして元気で、今ここにいるって分かっただけでよかった」


「……」


何か言いたげに見えたけれど、君はまた夜空へ視線を戻す。

僕もつられて見上げた。


幾千の流星が、途切れることなく降り続けている。

隣に君がいることへの充足感と、昔果たせなかった約束が叶った満足感が、同時に胸に満ちていく。


昔みたいに手を繋ごうと、僕はそっと手を伸ばす。

けれど、指先は何も触れられず、空を切った。


「……そっか」


昔は簡単に握れた手が、こんなにも遠い。


「ん? どうしたの?」


「いや、なんでもない」


君が語らないなら、僕から言うのは野暮だ。


「ねぇ、約束覚えてくれててありがとう。

もうずっと前に忘れちゃってるかと思ってたよ」


「忘れるわけないだろ。

君とは、ずっと友達だったんだから……」


声が震えないように、なんとか笑う。


「綺麗だね。

一緒に見れて、ほんっっとうによかった!」


「そうだな。僕もよかった。

君との約束から、こうして忘れられない思い出が増えたよ」


「うん……」


君を横目で見る。

少し薄れて見えたのは、涙のせいだったのかもしれない。


「来てくれてありがとう!

私もこの思い出、絶対に忘れないよ!」


君の目から、光るものが零れた気がした。


「ああ、僕も絶対に忘れないよ。

何があっても……何年経っても……」


その言葉を言い終える頃には、隣に君の気配はなかった。


幾千、幾万の星が降る。


しばらくのあいだ、僕は動けなかった。


「ああ、本当に綺麗だ……」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


この物語は、

「忘れなかった約束があったら」

というところから生まれました。


詳しい説明はしないまま終わるお話ですが、

それぞれの読者さんの中にある記憶や想いと重なってくれたなら、とても嬉しいです。


あなたの心の中にも、

星の降る丘がありますように。

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