星の降る丘での約束
静かな夜の話です。
派手な出来事は起きませんが、
誰かとの記憶が心に残っている方に、そっと届けば嬉しいです。
少しだけ空を見上げたくなるような物語になっていれば幸いです。
――「あの丘の上で空を見ると星が降るんだって! 今度見に行こうよ!」
そう言って見に行きたがっていた君は、どこで何をしてるのだろう。
幼い頃に交わした、他愛もない約束。
あの頃は自分たちだけで行くには幼すぎたし、親と行くのも、なんだか秘密を知る人が増えるみたいで嫌だった。
今思えば、子供同士のすぐ忘れてしまうような約束だったんだと思う。
だから成長したら行こうと思っていたけど、いつのまにか君はいなくなって、会うこともなくなった。
でも十年経った今でも、僕はまだ覚えている。
ちょうど今日が、あの日から十年目だ。
一人で行くには味気ないけど、君も見たがっていた景色を見に行くのもいいか。
今夜、行ってみよう。
軽く準備を済ませて家を出る。
道中、君との思い出が幻みたいに浮かんでは消える。
どの思い出にも、最後は君の笑顔が残っている。
日が暮れ、星の降る丘までもう少しというところで、空気が変わった気がした。
澄んでいるのかなんなのか、不思議と嫌な感じはしない。
初めて来るはずなのに、むしろ懐かしい気さえする。
一歩一歩、歩みを進める。
期待のせいか、足取りは自然と速くなっていた。
そして丘に着く。
見上げた先には、満天の星空。
その中を、星が流れた。
一本の光が、幾千にも枝分かれするように。
「確かにこれは星が降ってる。
……これが君の見たかった景色なんだね」
見惚れていると、背後に気配を感じて振り返る。
そこに、成長した君が立っていた。
胸が高鳴る。
あの頃より背も伸びているのに、変わらない笑顔のままで、僕はまた見惚れてしまった。
「君も来てくれたんだね!」
星明かりに照らされる君は、僕には少し眩しかった。
「ああ、なんとなく今日かなって思ったんだ。
そしたら案の定で、びっくりしたよ」
そう言って、君の隣に並ぶ。
「私からすれば、まだ来ないのかなって感じだった」
その言葉の意味を聞こうとしたけれど、少し遅かった。
「でも来てくれたから許す! ありがとうね。話したいこと、いっぱいあったんだ」
「……それを言ったら、僕もだよ」
変わらず明るい君に、ほっとする。
けれど、いつも感じていた力強さの奥に、どこか儚さが混じっている気がした。
「今まで何してたんだ?」
そう聞いたとき、君の表情が少しだけ曇ったように見えた。
「……ちょっと忙しかった、かな。
はは……今まで何も言えずにごめんね」
「大丈夫だよ。君がこうして元気で、今ここにいるって分かっただけでよかった」
「……」
何か言いたげに見えたけれど、君はまた夜空へ視線を戻す。
僕もつられて見上げた。
幾千の流星が、途切れることなく降り続けている。
隣に君がいることへの充足感と、昔果たせなかった約束が叶った満足感が、同時に胸に満ちていく。
昔みたいに手を繋ごうと、僕はそっと手を伸ばす。
けれど、指先は何も触れられず、空を切った。
「……そっか」
昔は簡単に握れた手が、こんなにも遠い。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
君が語らないなら、僕から言うのは野暮だ。
「ねぇ、約束覚えてくれててありがとう。
もうずっと前に忘れちゃってるかと思ってたよ」
「忘れるわけないだろ。
君とは、ずっと友達だったんだから……」
声が震えないように、なんとか笑う。
「綺麗だね。
一緒に見れて、ほんっっとうによかった!」
「そうだな。僕もよかった。
君との約束から、こうして忘れられない思い出が増えたよ」
「うん……」
君を横目で見る。
少し薄れて見えたのは、涙のせいだったのかもしれない。
「来てくれてありがとう!
私もこの思い出、絶対に忘れないよ!」
君の目から、光るものが零れた気がした。
「ああ、僕も絶対に忘れないよ。
何があっても……何年経っても……」
その言葉を言い終える頃には、隣に君の気配はなかった。
幾千、幾万の星が降る。
しばらくのあいだ、僕は動けなかった。
「ああ、本当に綺麗だ……」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この物語は、
「忘れなかった約束があったら」
というところから生まれました。
詳しい説明はしないまま終わるお話ですが、
それぞれの読者さんの中にある記憶や想いと重なってくれたなら、とても嬉しいです。
あなたの心の中にも、
星の降る丘がありますように。




