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漫画家Kを殺します

2024年2月3日にこんな一文が投稿された「4月3日漫画家Kを殺します」

突如として書き込まれた犯行声明は、瞬く間にネットの海と森をあらゆる角度で駆け抜けた。

最初は悪質な犯行予告だとして炎上目的で拡散したり、投稿者を小馬鹿にするような投稿が目立った。

さらに掲示板などに転載されると一気に犯行声明の注目度が増えていった。

まず漫画家Kという人物について説明しよう。漫画家Kとは2022年に「神童の花々」という恋愛漫画でデビューすると発行部数120万冊を突破し一世を風靡した天才漫画家である。その後も「コントロールB」「人工地震伝説」「1・2・3!」などの作品を同時連載し、どれも高い評価を受けている。そんな人物なので殺害予告や誹謗中傷など毎日どこかのSNSに投稿され、同じように思っている人物が拡散している。

犯行予告の翌日である2月4日、投稿者は漫画家Kのプライベート写真と思われる画像をネットに上げ始めた。この投稿によって犯行予告が現実味を増し、漫画家Kに例の投稿を伝える者や警察に通報する者、漫画家Kと仲の良い漫画家に投稿を教える者まで現れ始めた。この事態に漫画家Kも声明文をあげ投稿者に対し、それ以上度の超えた投稿を続けるのなら法的措置をとると警告をした。しかし投稿者は漫画家Kに対する投稿をやめることはなかった。この投稿者を見たネット民はこの投稿者に「AK」という名を付けて動向を観察し始めた。

その2日後の6日に漫画家Kが住んでいる自宅に脅迫文が届いたらしく、漫画家Kは本格的に法的措置をとったとSNSに投稿した。これについてはAKの仕業説と模倣犯説にきっぱりと分かれたが真相はわからなかった。

その後AKはSNSを更新し漫画家Kの自宅内と思われる写真を投稿した。これにSNSは恐怖しAKが本気で漫画家Kを殺すのではないかという空気になった。この投稿から2日後の8日、有名な暴露系インフルエンサーである「RXマン」がAKに対し懸賞金をかけた。その額は最高2億円。報酬はレベルごとに分けられておりこのようになっていた。

目撃情報(情報の精度によって金額が変動します):1000円~15万円

顔写真(過去の写真でも可):30万円

接触(証拠が必要):50万円

住所(部屋番号まで):130万円

個人情報:250万円

身柄(遺体での引き渡しは不可。必ず生かすこと):2億円

この投稿を機に日本全土でAKの正体を推理、考察、捜査し始めた。SNSには真実か否かわからないような投稿が増え、恐らく無関係な人間の個人情報が多く流され始め大きく問題になった。

AKはこの流れに少し戸惑っている様子を見せたがこの状況を楽しみSNSを煽る様子も見せた。

その後1ヶ月経過しても何の手がかりも掴むことが出来ず多くのユーザーが捜査を諦めかけていた。RXマンも不確実な情報にお金を払うことに疲れたと投稿。某掲示板のAK板でも机上の空論でしかない推理合戦が繰り広げられておりまさに地獄だった。そこにとあるユーザーが推理を投稿した。そのユーザーは以下の推理を展開した。

・AKは女

・AKは左利き

・AKは漫画家Kの近い所にいる

・AKは殺すつもりはない

・AKは漫画家Kと古い付き合い

これに掲示板にいたユーザーは様々な否定的コメントを投げつけたがどれも根拠があるという。

まず女だという理由はAKが投稿した写真にとても細かいが一部反射している部分があり、そこの部分を解析するとスカートを履いていた。更にカメラの向き的にレンズが右にある状態で撮られたような写真が多い。続けてAKは漫画家Kの細かいスケジュールや行動を投稿しており、かなり近い場所で漫画家Kをいつでも観察できる場所にいる。そしてユーザーはAKには殺意がないと断定した。ここまで漫画家Kの情報を知っておきながら予定日まで生かしておいている理由がない。つまり殺意が無いどころか元々殺害目的ではないと投稿した。ユーザー達は生かして楽しんでいるのではないかと反論したが、AKは凶器や殺害方法について投稿しておらずダラダラと漫画家Kに脅迫しているだけで、AKは人を殺せない臆病者だと断言した。最後に古い付き合いという根拠を並べた。ユーザーはAKの「あいつはキャベツパンばかり買っていた」という部分に注目した。実は漫画家Kの実家付近には漫画家Kが中学2年生の年齢の時まで有名なパン屋が存在しておりそのパン屋にはキャベツパンというパンが存在していた。しかもキャベツパンはメインメニューではなくあまり人気のないメニューだった。漫画家Kもそのパン屋についての思い出を雑誌取材で語っておりまた食べたいと言っていたがキャベツパンについては言及していなかった。ここまではユーザーの中では初歩的な段階でしかなく更に調べていくという。ユーザー達は彼の登場に歓喜し有名な漫画であるDEATH NOTEのLに例えて「S」と名付けてAK対Sの対決が始まった。

AKもSの存在を感知しておりSを挑発すると共に対決に乗り気だった。しかしSは対決にあまり興味はなかったのだが周りに合わせ渋々対決の流れに乗った。まず攻撃を仕掛けたのはSだった。まずSはAKに対決の場所として自作した掲示板に誘導した。AKは掲示板に行くとSの推理攻撃が始まった。これから書き記すのはAK対Sの対決の一部始終である。

Sが作った掲示板は、拍子抜けするほど簡素だった。

背景は白、文字は黒。装飾は一切ない。スレッドは一つだけ立っており、タイトルはこうだった。

「AKへ」

AKは数分間、書き込みをせずにその画面を眺めていた。

そして、まるで最初からここに来ることを想定していたかのように、短い一文を投下した。


AK 来たよ。で、何がしたいの?


数秒後、Sの書き込みが表示された。


S 殺す気はないだろ。というかお前は人を殺せない。


掲示板が一瞬、静まり返った。見守っていた匿名ユーザーたちは、息を呑んだ。AKはすぐには反論しなかった。代わりに、いつものような挑発的な絵文字も、煽り文句もなかった。


AK ずいぶん早いね。もう結論?私がすぐに人を殺すような短気な人間だと思ったの?ていうかそんなこと誰でも言えるよね。君の探偵?気取りには腹を抱えますわ


Sは淡々と続けた。


S 4月3日から今日まで、あなたは「可能性」だけを見せ続けている。刃物も、具体的な手順も、逃走経路も一切示していない。本気で殺す人間はこんなに饒舌じゃない。本当に殺したいのならわざわざ証拠をSNSで残すなんて間抜けだと思わないか?


数秒の沈黙。


AK ……それだけ?それだけw?マジで証拠ないじゃんwあんた絶対L気取りの学生だろwそんな浅い推理でよく私を追い詰めるみたいな感じのこと言っててわらえるんだがw


S それだけじゃない。


Sは一気に書き込んだ。


S あなたは観察者だ。それも「壊したい観察者」じゃない。「手を出せずにいる観察者」だ


この一文で、掲示板の空気が変わった。

AKの次の書き込みまで、明らかに時間がかかった。


AK 言葉遊びはいいよ。んで根拠は?


Sは待っていたかのように返した。


S 私は最初あなたは漫画家Kのアンチで作品や何もかもが嫌いなだけの人間だと思っていた。だけどあなたの投稿を全て見たところあなたはKのアンチではない。ところどころに愛を感じる。あなたはKの過去を知っていてKの過去にいた。恐らくあなたはKの事が好きだった。


AKの書き込みが止まった。


S キャベツパンの話もそうだ。誰にも知られなくていい記憶を、わざわざ掘り起こしている。確認だ。Kに書き込んでいるのは自分だという確認だったんだよキャベツパンは。あなたはKに存在を認知して欲しいが方法がわからずこの様な凶行に及んでしまったんだ。


数分後、AKはこう書いた。


AK 面白い想像力だね。じゃあ聞くけど私が何をしたかったと思ってるの?


Sは即答しなかった。

その沈黙が、AKにとっては何より不気味だった。


S あなたは「自分だけがKを知っている世界」を終わらせたくなかった。でも同時に自分だけが知っているままでも耐えられなかった。だから“事件”にした。


掲示板の閲覧数が跳ね上がった。

外野は歓声と罵声を同時に書き込んでいたが、二人はそれを無視していた。


AKは、初めて感情を滲ませた文章を投下した。


AK あんたはなんなの


Sの返答は短かった。


S 僕は真相が見たいだけだ。


AK それで?


S それで終わりだ。


AKは、しばらくして最後にこう書いた。


AK じゃあ私もそろそろ終わらせようかな


その直後、AKのアカウントは沈黙した。


掲示板は祭りのように荒れ、

「逮捕された」「逃げた」「自首した」という未確認情報が飛び交った。だが、数日後漫画家Kは何事もなかったかのように新連載を発表した。新連載の内容は中学時代の同級生と再会し同級生の歪んだ愛を10年越しに受け止めるガールズラブストーリーだった。そしてその巻末コメントには、こんな一文があった。「昔、キャベツパンと同じくらい好きだった人へ。また一緒に食べよう。」

Sはその文章を見て、静かにブラウザを閉じた。

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