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VISION  作者: Mr.M
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第76話 救い

『Hangover』を出た私は

葛城町の歓楽街の喧騒の中を

1人ポツポツと歩いていた。


ヒカルの話の中で、

引っかかったことがある。

江藤が自身に起こった悲劇を、

第三者に置き換えて

話していたことについては、

何となくそんな予感がしていた。

引っかかったのはその後の言葉だ。

『鈴木さんが刺さなくても。

 ノブはいずれ別の誰かに、

 殺されてたかもしれないわね』

ヒカルはそう言った。

その口ぶりには、

鈴木の殺意を知る者だけが持つ

静かな響きが含まれていた。

つまり。

ヒカルは気付いている。

あれが事故でも正当防衛でもないことに。

ヒカルは見ていたのではないか。

鈴木が笠原を刺すその瞬間を。

その上で。

彼女は口を噤んだ。

「・・はぁ」

自然と溜息が漏れた。

大人は平気で嘘を吐く。

本当に嫌になる。

いや。

上手く嘘を吐くことが

大人になる条件なのか。

それなら私は・・。

その時。

ふと思い出した。

ヒカルが「救い」という言葉を

使っていたことを。


救い。


私はポケットから

小さな卵型のオブジェを取り出した。

失くしても

いつの間にか私の許に戻ってくる

不思議なお守り。

それは木彫りの像のように見えるが、

触れれば石のように冷たく硬かった。

片面には

骸骨のような模様が。

もう片面には

胎児のような模様が彫られていた。

物心ついた頃から、

これはずっと私の許にあった。

その小さな存在は、

まるで生と死を

同時に抱え込んでいるように見えた。

私はこれを

『凶石』

と呼んでいた。

私が『ビジョン』を

ミるようになったのは、

この石の力ではないか。

漠然とそう考えていた。

それはお守りでもあり、

忌まわしい呪物でもあった。


『災い転じて福となす』


そんな石の声が聞こえてくるようだった。

未来の禍をミせるということは、

それを防ぐ機会を与える

ということでもある。

あの日。

私は自らの死を回避したことにより、

その後の未来の『ビジョン』を失った。

しかし。

私はまだ他人の奇禍をミることができる。

それは。

「この力を人のために使え。

 それこそがお前に与えられた使命だ」

石がそう告げているような気がした。


そしてもう1つ。

私の心に刺さった小さな棘。

『落葉ちゃん誘拐事件』

私はこの未解決事件について、

ある可能性に思い至った。

あの事件は、

本来なら

私が誘拐されていたはずだったのだが。

ここで注目すべきことは、

あの事件以降も、

私は自分の『ビジョン』を

ミ続けていたという事実だ。

つまり。

あの時。

私は誘拐されていたとしても、

命までは落とさなかったことになる。

ならば。

私の代わりに連れ去られた落葉ちゃんは、

今もどこかで生きているのではないか。

そう信じられること。

それが私にとっての希望であり、

そして「救い」なのだ。



End

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