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VISION  作者: Mr.M
四章 殺人未遂事件

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第60話 食えない男

遊戯室を出て部屋に戻った私は

ドアの前に机を移動させた。

これで。

万が一、

侵入者があったとしても時間は稼げる。

次にベッドの下に、

厨房から拝借してきた

ペティナイフを忍ばせた。

今の私は、

用心してもしすぎるということはない。

念には念を。

石橋を叩いて渡る。


部屋の時計は0時を回っていた。

私は明かりを点けたまま、

ベッドに横になった。

気持ちが昂っていた。

それは蒼井への怒りか。

はたまたそれは、

毒を用意した鈴木に向けられたものか。

それとも・・。

その時ふと、

蒼井の発言の中に出てきた

微かな引っかりの正体に気付いた。

蒼井は紙包みの中身が毒だと

薄々気が付いていた節がある。

普通。

紙包みを見ただけで

毒という発想は浮かばない。

恐らく。

蒼井は聞いたのだ。

紙包みの中身が毒であると。

だが。

彼女は半信半疑だった。

だから。

私で実験しようとしたのだ。

では。

一体誰が蒼井に教えたのか。

考えられる人物はただ1人。


大烏。


その時。

私ははっきりと思い出した。

慌てた鈴木が

中庭の大烏の許へ走っていた光景を。

あの時。

鈴木は毒が盗まれたことを

大烏に相談したのだろう。

鈴木から報告を受けた大烏は、

すぐに犯人が蒼井だと

気付いたに違いない。

そして。

大烏は蒼井に伝えた。

盗まれた紙包みは毒だと。

紙包みを使うな

と暗に仄めかしたのだ。

しかし。

そんな大烏の忠告は、

かえって蒼井の好奇心に火を点けた。


「はぁ」

無意識のうちに溜息が漏れた。


大烏は私が毒の存在を指摘しても

惚けていた。

そのうえで。

大烏は私の能力を信じるふりをしつつ、

蒼井が自分のグラスに

毒を仕込んだという推理を、

あえて披露してみせた。

大烏亜門。

食えない男だと思った。


鈴木から報告を受けた時点で、

大烏が窃盗事件を公にしていたら。

そもそも。

大烏は鈴木から毒の話を聞いた時、

どう思ったのか。

鈴木は笠原を殺そうとしたことまで、

話したのだろうか。

もし話していたとしたら。

大烏はそれでも何もしなかったのか。

ただ傍観者を決め込んでいたのか。


歪んでいる・・。


私は目を閉じた。

どちらにせよ。

もう終わったことだ。

大烏の主張通り、

現実には何も起こっていない。

そして。

明日になれば皆ここを去る。

鈴木とも蒼井とも

今後会うことはないだろう。

たしかに笠原は魅力的だが・・。

裏の顔を知った今では、

そんな気持ちも色褪せていた。

それに。

儚いロマンスに身を焦がすほど

私は子供ではないつもりだ。

そんなことを考えているうちに、

次第に瞼が重くなってきた。


 いつの間にか。

 濃い霧が一面を覆いつくしていた。

 前も後ろも右も左も上も下も

 わからない。

 私は霧の中に立ち尽くしていた。

 霧が私の全身を包み込んでいた。

 私はその中から抜け出そうと足掻いた。

 その時。

 霧が目や口、そして耳や鼻の奥へと

 染み込んでくるのを感じた。

 私は咄嗟に目と口を閉じて耳を塞いだ。

 すぐに息苦しさを覚えた。

 呼吸ができない。

 徐々に意識が遠のく中、

 ふいに肺が空気で満たされるのを

 感じた。

 私は恐る恐る目を開いた。

 霧が晴れていた。


 目の前には白い世界が広がっていた。

 何もない。

 ただどこまでも白い。

 まるで雲の中に迷い込んだかのような。

 私は勇気を出して一歩足を踏み出した。

 そこには。

 存在しているはずの地面がなかった。

 私の体はそのまま白い空間へと

 落ちていった。

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