第47話 窃盗犯
江藤は私から視線を離さずに、
部屋に入ってきた。
そして私の横をすり抜け、
机の前に立った。
江藤は机に置かれていた小物を
ポケットから取り出した布袋に入れた。
「立ち話というのも何ですね。
そちらのベッドにお座り下さい」
江藤がこちらに背を向けたまま、
そう口にした。
私は言われるがままに
ベッドに腰を下ろした。
「・・それで。
私に聞きたいこととは何でしょうか?」
その言葉に、
私は一瞬躊躇った。
ここに来て、
当初の疑問に加えて、
新たな疑問が生まれたからだ。
しばし迷った末、
私は意を決して口を開いた。
「あ・・の・・。
江藤さんは以前に、
命を落としかけたことは
ありますか?」
江藤は立ったままゆっくりと
私の方に体を向けた。
「それは・・どういうことでしょうか?」
そして首を傾げた。
「そ、その・・。
事故に遭って生死を彷徨ったとか。
不治の病で余命宣告を受けたとか。
他には・・その・・」
「ふふっ」
ふいに江藤が噴き出した。
「なぜそのようなことを
仰るのかわかりませんが。
私が記憶している限りでは、
危険な目に遭ったことも、
重い病に罹ったこともありません」
そう言って江藤はにこりと微笑んだ。
「そ、そうですか・・」
知らず知らずのうちに
溜息が漏れていた。
「お話はそれだけですか?」
江藤の目が真っ直ぐに私を見ていた。
「えっ・・」
浮世離れした江藤の美しさに、
私は思わず視線をそらした。
「本当にお聞きしたいのは、
これのことではないですか?」
そして江藤は机の上の布袋を持ち上げた。
その口元に、
微かな笑みが浮かんだ。
私は大きく息を吐き出した。
「・・その袋の中身ですが。
歌川さんの腕時計と、
小鳥遊さんのイヤリングが
入ってますよね?
どうして江藤さんが
持ってるんですか?」
私は江藤の目を正面から見た。
視線が交錯して一瞬の緊張が走った。
私は目をそらさずに
江藤が話し出すのを待った。
ふいに。
江藤が「ふっ」と息を吐き出した。
「これらの物はすべて
中庭の木陰に隠されていました」
「えっ?」
江藤の言葉の意味が
すぐには理解できなかった。
「そ、それは・・どういうことですか?」
江藤は私の問いには答えずに、
袋の中の物をもう一度机の上に出した。
「腕時計とイヤリングはそれぞれ
歌川様と小鳥遊様の物で
間違いないですか?」
私は頷いた。
「サングラスとネックレスには
見覚えがあります。
サングラスは笠原・・様。
ネックレスはヒカル様。
そして。
財布が三ノ宮様の物でなければ。
これは蒼井様の持ち物でしょう」
一拍置いて、
江藤はさらに続けた。
「すると。
奇妙なことに。
ここには三ノ宮様と鈴木様の
持ち物だけがない、
ということになります」
江藤の目が妖しく光った。
「次は私からお訊ねします。
三ノ宮様、
私の部屋で
何をしていたのですか?
先ほどの質問をするためだけに、
ここに来たのですか?」
江藤の視線が鋭さを増した。
「ど、どういうことですか?」
ふいに私は喉の渇きを感じた。
「これらの物は、
ある程度
金銭的価値の高い物ばかりです。
つまり。
鈴木様が盗む理由はありません」
まさか。
江藤は私を疑っているのだろうか。
「ご、誤解です。
私はただ・・」
「ご安心ください。
この件を大烏様にご報告したところ、
これらの物は気付かれぬよう
持ち主の方へ返却しておくようにと
仰られました。
事を大きくすることは
大烏様も望んでおられません」
そう言って江藤は口元を緩めた。
だが。
彼女が私を犯人だと考えていることは
明らかだった。
そして。
残念なことに、
私にはその誤解を解く術がなかった。




