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VISION  作者: Mr.M
四章 殺人未遂事件

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第44話 白い世界

食事を終えた者達が

次々と食堂を出ていく中、

私は1人テーブルに座って

目の前に置かれたグラスを見つめていた。

真っ赤な液体が微かに揺らめいていた。

その時。

ふいに厨房のドアが開いた。

「後片付けをと思いましたが。

 食事中でしたか」

本田は私に気付くと深々と頭を下げた。

「い、いいえ。

 少し考え事を・・ごめんなさい」

「ほっほっほ。

 そうですか。

 それならば何かお持ちしましょうか?

 紅茶かコーヒー、

 あるいはフルーツなど、

 いかがでしょう?」

「お気遣い感謝します。

 でもお腹が一杯でこれ以上は・・。

 あっ!

 シチュー、すごく美味しかったです」

私は正直に答えた。

「それは何よりでございます。

 おや。

 そのグラスは・・」

本田の視線が、

私の前のグラスに注がれていた。

「こ、これは・・後で部屋で飲もうかと」

「なるほど。

 そのペトリュスは89年モノで

 なかなかお目にかかれない代物です」

そう言いながら本田の視線は

吉野の席に置かれたままの

グラスを捉えた。

「吉野さんのお口には

 合わなかったようですが」

そして本田は微笑んだ。

見ると吉野のグラスには

私のグラスと同じく、

口をつけられた形跡がなかった。

「あの・・。

 食事の前にグラスを用意したのは、

 本田さんですか?」

私の問いに本田はほんの一瞬、

怪訝な表情を浮かべた。

「料理を作ったのは私ですが、

 テーブルのセッティングは、

 江藤さんにお任せしました。

 それが何か?」

「い、いいえ。

 お二人で準備なんて、

 すごく大変だったろうなと思って・・」

私がそう言うと本田は目を細めた。


私は本田にもう一度お礼を言って

食堂を出た。

丁度そこで、

廊下の奥から歩いてきた笠原と

鉢合わせた。

「おや。

 部屋を覗いても姿がなかったから

 探してたんだ」

笠原はそう言って鉛色の髪をかき上げた。

「その手にあるのは、

 さっきのペトリュスかい?

 それならこれから君の部屋で

 一緒に飲もうか」

「あ、あの・・。

 少し疲れたので

 シャワーを浴びようと思って・・」

私は反射的にそう口にした。

「構わないさ。

 何なら俺も一緒に浴びてもいいかな?」

笠原はそう言うと前屈みになって

私の顔を覗き込んできた。

心臓がどくんと跳ねた。

「じょ、冗談はやめて下さい」

「はっは。

 冗談は嫌いだと言ったはずだ」

笠原の視線から逃げるように私は俯いた。

頬に熱を感じた。

私は目を閉じて小さく息を吐いた。

徐々に胸の鼓動が静まっていった。

それに合わせて。

周囲の雑音が遠のいていった。


 いつの間にか。

 濃い霧が一面を覆いつくしていた。

 前も後ろも右も左も上も下も

 わからない。

 私は霧の中に立ち尽くしていた。

 霧が私の全身を包み込んでいた。

 私はその中から抜け出そうと足掻いた。

 その時。

 霧が目や口、そして耳や鼻の奥へと

 染み込んでくるのを感じた。

 私は咄嗟に目と口を閉じて耳を塞いだ。

 すぐに息苦しさを覚えた。

 呼吸ができない。

 徐々に意識が遠のく中、

 ふいに肺が空気で満たされるのを

 感じた。

 私は恐る恐る目を開いた。

 霧が晴れていた。


 目の前には白い世界が広がっていた。

 何もない。

 ただどこまでも白い。

 まるで雲の中に迷い込んだかのような。

 私は勇気を出して一歩足を踏み出した。

 そこには。

 存在しているはずの地面がなかった。

 私の体はそのまま白い空間へと

 落ちていった。



私はゆっくりと顔を上げた。

笠原が不思議そうに私を見下ろしていた。

と。

笠原が私の耳元で囁いた。

「・・それにまだ答えを聞いてないな。

 昼間の乾杯の時、

 どうして俺にぶつかってきたんだ?」

「そ、それは・・」

「この続きは、

 君の部屋で聞かせてくれよ」

ふいに笠原の手が私の両肩を掴んだ。

想像以上の強い力に私は足が竦んだ。

「おーい、笠原くん。

 ここにいたのか」

その時。

歌川の声がした。

笠原が私から手を放して振り向いた。

笠原の背中越しに、

廊下の向こうから歩いてくる

歌川の姿が見えた。

「さっきビリヤードの話をしただろう?

 ちょっと腕比べをしようじゃないか」

歌川は私達の前で足を止めた。

その視線が笠原から私へと移った。

「お、ここにいたのか。

 小鳥ちゃんが探してたぞ。

 早く部屋に行ってあげなさい」

そう言って、

歌川は自らの広い額をパンッと叩いた。

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