第43話 3輪の美しい華とペトリュス
食堂の柱時計が
ボーンボーンと20時を告げた。
中央にある大きな長方形のテーブルには、
私を含めて8人の男女が座っていた。
こちら側には一番左から
歌川、小鳥遊、私、そして蒼井。
向かい側には同じく左から
大烏、ヒカル、笠原、そして鈴木。
各人の前には、
ビーフシチューの皿と、
2cmほどの厚さにカットされたバゲット、
そしてサラダの盛られた小皿が
並んでいた。
私の目がテーブルの両端に置かれた
ワインボトルを捉えた。
「中秋の名月からは
3日ほど過ぎてしまったが、
昨夜は満月だった。
今宵も空には、
さぞ美しい月が
浮かんでいることだろう。
生憎。
この部屋からは
それを拝むことは叶わないがね。
だが。
この部屋には
その月をも霞ませるほど艶やかな
3輪の華が咲いている。
このペトリュスを彼女達に捧げよう」
大烏はそう言って
テーブル左端のボトルを手に取った。
大烏が慣れた手つきで
ワインのコルクを抜くと、
歌川が拍手をした。
すぐに鈴木が右端のボトルを手にした。
大烏はヒカル、歌川、小鳥遊のグラスに
順にワインを注いだ。
一方、鈴木は笠原、私、蒼井のグラスに
ワインを注いだ。
そして最後に2人は
自分達のグラスにワインを注いだ。
私はぼんやりとその光景を眺めていた。
「どぉぞ」
ふいに蒼井が手に持ったグラスを
私の前に出した。
私は機械的にそのグラスを受け取った。
蒼井はニコッと微笑むと、
私の前に置かれたグラスを取った。
「では。
3輪の美しい華に乾杯」
大烏がグラスを掲げると
皆もそれに倣った。
その瞬間。
私は我に返った。
「あ、蒼井さんのグラスはこっちです!」
私は慌てて蒼井の手から
グラスを奪い取って、
持っていたグラスを蒼井に返した。
「どっちのグラスでも同じですよぅ」
そう言って蒼井は目を丸くした。
「さあ。
食べてくれ給え。
昼間のバーベキューで、
さほど空腹ではないかもしれないが、
味は保証するよ。
本田の料理の腕は超一流だからね」
大烏の言葉を合図に、
皆が一斉に料理に手を伸ばした。
蒼井も一旦グラスを置くと、
シチューに鼻を近づけて
くんくんとその香りを嗅いでいた。
私はそっと鈴木の方を盗み見た。
鈴木は静かに
スプーンを口へと運んでいた。
夕食は終始和やかな雰囲気の中で進んだ。
カトラリーが皿に触れる音が途切れた。
その静けさの中で、
ふいに大烏が口を開いた。
「この後は
自由に過ごしてくれて構わない。
遊戯室にはビリヤードとダーツ、
そしてバーカウンターがある。
応接室で寛ぐこともお薦めだ。
もし読書を希望される場合は
申し出てくれ給え。
私の部屋にある蔵書をお見せしよう」
そして。
この場はお開きとなった。




