第42話 それぞれの思惑
別荘へ戻ると、
門の前は出かける前と
何ら変わりがなかった。
警察の車も救急車も見当たらない。
わかってはいたが、
私はホッと胸を撫で下ろした。
厨房の前で江藤と別れてから、
私は2階へ向かった。
階段を上ったところで蒼井と鉢合わせた。
「この建物って変ですよねぇ。
窓は2階にしかないしぃ。
トイレもないんですよぉ?
それにぃ。
部屋には鍵も掛からないしぃ。
泥棒が入ったら、
どぅするんですかねぇ?」
「トイレなら各部屋に備え付けられてる
ユニットバスを使うみたいですよ。
それに。
こんなところに泥棒は入りませんよ」
私が蒼井の疑問に答えると、
蒼井はぶつぶつと不満を漏らしながら、
階段を下りていった。
その背中を見送りながら、
私もまた不思議に思った。
各部屋に
ユニットバスを設置するくらいなら、
風呂とトイレを1か所、
もしくは
1階と2階に1つずつでも設ければ、
それで済む話ではないか。
何という無駄な造りだろう。
金持ちの考えることはわからない。
私はゆっくりと一番手前の窓に近づいた。
窓を開けて中庭を覗き込むと、
真下に見える長方形のテーブルで
肉と酒に舌鼓を打っている
歌川と笠原が見えた。
そこから対角線上にある丸テーブルでは、
大烏とヒカルが体を寄せ合って
腰掛けていた。
私は鬱蒼と茂る森の方へ視線を向けた。
どこまでも森が続いていた。
その時。
小鳥遊の言葉を思い出した。
『まるで中に入った人間を
外界から隔離するぞっていう
意志を感じたから・・』
もし何らかの方法で
玄関が閉ざされた場合でも。
この森を抜けて、
外に出ることはできないだろう。
私は窓から離れた。
その時。
廊下の向こうから、
血相を変えた鈴木が走ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
私は呼びかけたが、
鈴木はそれに反応することなく、
そのまま階段を駆け下りていった。
私はふたたび窓に近づいた。
いつの間にか歌川と笠原に交じって、
蒼井がテーブルに座っていた。
私はぼんやりと
そんな中庭の様子を眺めていた。
私が窓から離れようとした次の瞬間。
中庭の扉が開いて、
鈴木が飛び出してくるのが見えた。
鈴木は中庭を見回してから、
丸テーブルのところにいる
大烏とヒカルのいる方へ走っていった。
鈴木が近づくと大烏が立ち上がった。
鈴木が大烏の耳元で何かを囁いていた。
それから。
2人は連れ立って建物の中へと姿を消した。
1人残されたヒカルが
不満気に缶ビールを呷っていた。
私は部屋に戻った。




