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VISION  作者: Mr.M
四章 殺人未遂事件

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第40話 ラグとバグ

私が助手席に乗り込むと同時に、

江藤がアクセルを踏み込んだ。

「あのお店は15時に閉まるんです。

 急がないと間に合いません」

時計を見ると14時30分を過ぎていた。

お使いというのは、

夕食用のバゲットを

買ってくるという他愛のないものだった。

もしかすると。

大烏は

笠原に言い寄られて、

困っていた私を助けるために

機転を利かせてくれたのかもしれない。


「・・やっぱりあの笠原さんが、

 江藤さんの話していた人ですか?」

シートベルトを締めながら、

私は気になっていたことを訊ねた。

「双子の兄弟でもいれば別ですけど」

江藤は眉一つ動かさず答えた。

その美しい横顔からは

心の内を読み取ることはできなかった。

私はシートに身を沈めた。


そして私は

歌川にミえた『ビジョン』について

もう一度考えを巡らせた。

なぜ死を回避した笠原が

ふたたび死ぬのか。

これに関して。

私には1つの考えがあった。


それは「ラグ」だ。

所謂、タイムラグ。

私が笠原の命を救ってから

歌川の『ビジョン』をミるまで

それほど時間は経過していない。

長い人生において。

数分、いや数十分という時間はごく短い。

だから。

歌川の『ビジョン』には、

本来起こるはずだった

笠原の死という

『ビジョン』の残像がミえた、

ということである。

歌川の『ビジョン』は「ラグ」である。

それが私の出した結論だった。


それに。

『ビジョン』は未来をミせるが、

すべてが現実と同じというわけではない。

炭酸水とコーラの違いがあったように。

ヒカルの存在が消えていたように。

笠原の話し相手が、

歌川ではなくてヒカルだったように。

『ビジョン』は細部において

現実との差異がある。

これらは「バグ」だ。

結局のところ。

『ビジョン』も完全ではないのだ。


センターラインが引かれていない

細く曲がりくねった山道を、

江藤は制限速度を10kmほどオーバーして

車を走らせていた。

「どうしました?」

ハンドルを握った江藤が口を開いた。

「・・少し考え事を」

「ふふ。

 あの男に口説かれましたか?」

「えっ!

 い、いや・・そ、その・・」

「あの男は外見は魅力的ですからね。

 でも。

 綺麗な薔薇には棘がある。

 いえ、この場合は。

 甘い香水を纏う男は、

 己の腐臭を覆い隠している。

 と言うべきでしょうか。

 気を付けて下さい。

 あの男の本質は醜く歪んでいますから」

そう言って江藤は

「ふふっ」

と小さく笑った。

「そ、それよりも。

 蒼井さんのことですが。

 彼女は、

 招待されてなかったんですよね?」

江藤に見透かされているような気がして、

私は慌てて話題を変えた。

「はい。

 少なくとも。

 私と本田は

 何も聞かされていませんでした」

「蒼井さんは・・その・・。

 大烏さんの部屋に泊まるんですか?」

「いいえ。

 彼女には私の部屋の隣の空き部屋を

 ご案内しました」

つまり。

大烏と蒼井は

恋人関係ではないということか。

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