第39話 未成年
「俺も会話に入れてくれよ」
ふいに背後で声がした。
振り向くと缶ビールを持った笠原が
立っていた。
「あっ・・。
そ、それでは・・私は・・。
その辺を歩いてきますので、
後はお二人で・・」
鈴木はそう言うと足早に去っていった。
「一応、
気を遣うことはできるようだな」
笠原は私の方を見てニコッと微笑んだ。
そんな笠原の瞳に
吸い込まれそうになって、
私は慌てて目をそらした。
「それより。
改めて乾杯をしよう。
俺達はその機会を逃しただろ?
さっきのチューハイはもう空かな。
何か新しい酒を持ってこようか。
何がいいかな?」
「い、いいえ。
お酒はもう・・」
私は手を小さく振って遠慮がちに断った。
笠原は小さく「フッ」と笑い、
私の耳元に顔を寄せるとそっと囁いた。
「大丈夫だよ。
今日は無礼講だ。
君が未成年であることは秘密にするさ」
「ど、どうしてそれを・・」
私は驚いて笠原の目を見た。
「はっは。
そんなことはどうでもいいさ。
今はこの場を楽しもうじゃないか」
そう言って笠原は意味ありげに
片目をパチッと閉じてみせた。
「ひ、ヒカルさんが・・いますよ」
「あの女とは何の関係もない
って話しただろ?」
「で、でも・・。
同じ部屋に泊まるんですよね?」
私の指摘に、
笠原はやれやれと肩を竦めると、
溜息を吐いた。
「だから困ってるんだよ。
どうかな。
君の部屋に泊めてくれないか?」
「そ、それは・・困ります・・」
私は慌てて首を振った。
顔が熱くなり、
心臓が早鐘を打った。
「はっは。
冗談だよ。
でも。
あっちを見てみな。
俺の言葉が真実だってわかるさ」
笠原に言われて、
私は長方形のテーブルの方へ目を向けた。
大烏とヒカルが体を寄せ合っていた。
ヒカルの手が、
まるで当然のように
大烏の肩に置かれていた。
大烏が一方的に話しているようで
ヒカルはうんうんと頷きつつ
時折大袈裟に笑っていた。
「あの・・。
笠原さんと大烏さんは
親しいんですか?」
このまま笠原に
話の主導権を握られたままでは
危険だと判断した私は話題を変えた。
「うん?」
笠原は首を傾げた。
「何度か店で顔を合わせたことは
あったけどね。
ちゃんと会話をしたのは2、3度かな?
だから今回誘われて正直驚いたんだ。
最初は断ったんだけどね。
君が来るって聞いて、
気が変わったんだよ」
そして笠原は私の目を見た。
その美しく整った顔立ちに、
私の心臓がどくんと跳ねた。
「じょ、冗談はやめて下さい」
「はっは。
照れた表情も可愛いね。
でも俺は冗談は嫌いなんだ」
笠原の視線に耐え切れず私は俯いた。
頬が熱を持っていた。
私は小さく息を吐いた。
胸の鼓動が徐々に鎮まっていった。
その時。
耳元で声がした。
「後で君の部屋でゆっくり話そう。
乾杯の時。
俺にぶつかってきたのはワザとだろ?
どういう意図があったのか聞きたいね。
俺の興味を
引きたかったんじゃないのか?」
私は驚いて顔を上げた。
笠原の顔がすぐ近くにあった。
どくん。
何か言おうとしたが言葉が出なかった。
「三ノ宮くん!
お取り込み中のところ悪いのだが、
ちょっとお使いを
頼まれてくれるかね?」
ふいに声がした。
見ると大烏が手を振っていた。
「は、はい。
私で良ければ」
私はホッと胸を撫で下ろした。
笠原に軽く一礼し、
逃げるように席を立った。
背後で、
小さく「チッ」という舌打ちが聞こえた。




