来る聖夜を偲ぶ星の夜
肌寒い。空気が凍りついているような寒さはまだまだ健在でここからさらに本格化していくのだろうと考えるとポケットに入っているカイロを握りしめる手に力がこもる。カフェでの彼との待ち合わせがあるのだが少し遅れてしまっている。急な待ち合わせでどうしてもバイトを早く上がるなんてことはできず連絡だけいれて急いで向かっている。
不思議と冬の空気というのは澄んでいるように感じる。気温が低いから体温との差が顕著になっているからなのかな。外の空気が体内の空気と気温から違うから、体内に取り込んだ時に新鮮だと感じるのかもしれない。
白い息を吐きながらも早足でいつものカフェに向かった。暗い静かな街の中に暖かい光を放っていて少し輪郭が整わないように感じる。夜の街に混ざっているようで、だけど光はここはカフェだと境を引く。その輪郭は朧げで明確だ。そこだけが異世界のように感じる私たちのカフェ。ドアを潜るといつものドアベルが鳴り、家でもないのに帰ってきたんだなって感じる。店員さんも私を見るといつものように挨拶をしてくれて、私もいつものように返す。そして案内をされるでもなく、いつもの席に向かう。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「んー。いいよいいよ。」
そう言ってコートを脱いでいると席から立ち上がってコートを受け取りカフェのハンガーラックにかけてくれる。少し眠そうだと思った。無理もない。外はあんなに寒いのに、カフェの中は暖房が焚かれていてふとすると気が抜けてしまう。
「今日は急に呼び出してどーしたの?」
席につき飲み物をいただくために店員さんにココアをお願いした後眠そうに眼を擦る彼にそう投げかける。カフェで彼がよく飲むのはコーヒーだ。だが今日は違うようでカップの中にはミルクが入っていたような形跡があった。
「いや、特に理由はないさ。」
そう言って目をくしくしする彼の顔には若干の疲れを感じた。年末が近い。きっと彼も忙しいのだろう。そう思っていると彼の目線はカフェに飾ってあるモミの木に向かっていた。
「なに?寂しいの?」
「さぁね。でもあれ見て寂しくなるのは孤独というより嫉妬じゃないか?」
赤い靴下や電灯によって飾り付けられたモミの木を眺めてそう言った。来たる聖夜を家族団欒や愛の日とするならばあの木は誰かの誕生日を祝うものではなくその象徴と言えるだろう。少なくとも無神教の多くの人にとっては。
届いたココアを受け取りそのまま口をつける。湯気が鼻に絡みつくような匂いが立ち上っている。暖かい液体が体に流れ込みその温度が、優しい甘さが安心や充足感をもたらす。
「あったかいか?」
「そりゃあもう。世の中が冷たすぎるので。」
彼はモミの木から目を離して私の方を見て少し微笑むと、テーブルを見つめる。
「俺は、冷たい方が安心する。」
顔は上げたが、私の方は見ない。どこか遠くを見ているような、そんな目だ。
「俺は一人なんだって。」
「ふぅん」
少しだけわかるような気がした。でもそれは少しだけ。全てがわかるなんてのは私の傲慢だ。
「自分とは違うんだって感じられるから、俺は俺だって安心できる。自分じゃないものが世界を満たしているんだって。」
そういう彼の顔はどこか寂しそうだった。俺は安心しているって言ってるのに。これも私の解釈に過ぎないけど、でもしきりに手を組み合わせている彼はどこかに寂しさを抱えているように見えた。
「どっちも大事だと思うな」
冬の寒さに凍えることも、自分とは違う暖かさに触れることも。どちらだけでもきっと寂しさは埋まらないのだと思う。究極的にはどっちもあったとしても、きっと私たちは寂しいんだと思う。
そう言って私はココアを置いた。彼の前に。彼は少し驚いたような顔をした。
「君に足りないもの、どーぞ。」
彼は手を伸ばして私が触れていたカップに触れてそれで口を濡らす。彼はゆっくりと味わい、喉を通し、それを降ろす。
「どうだった?」
「うまいが…もう少し甘い方が好みだな。」
「私は十分だったよ?同じものを味わってるのに違うみたいだね?」
同じものを共有してもその感想は違う。それで自分とは違うものがあるっていう安心を、ある種の寂しさを彼は感じるのかな。でも私たちは同じものを共有している。同じことをしている。
「きっと人が寄り合うのと一緒だよ」
違う体温を重ね合わせることで人は孤独を消す。自分と違うものを感じて寂しさを手放すことと、冷たいものを手にとって感じる彼の安心は一緒なのだろうか。
それは私にはわからないけど、でも私はきっとどこかで重なり合わなければいけないんだと思ってる。全く一緒もダメだけど全く違うのもきっと寂しいのだと思う。
彼は何やら難しい顔をしはじめた。私には何を考えているかはわからない。そんな彼からココアを取り返して口をつける。
うん。十分甘い。彼がなんといっても私にとっては十分甘い。でも、このココアの喉に絡みつく感じも、独特の後味もきっと同じものなのだと思うと、私はそれがその事実がとっても嬉しくて、安心するんだ。
「聖夜ねぇ…。なーにが特別なんだか…。」
「あ、恨み言を素直に言えるようになったんだ?」
彼はカウンターからは遠い窓から覗く星を見てそう呟いた。さっきは素直に言えてなかったのに今度はっきりと言った。あれはやっぱり嫉妬だったのだろうか。彼は目線をそのままで星を見ていた。
「案外こーいうのだったかもな。誰かと星を見るだけで意外に聖夜だったりするんじゃないか?」
「はいはい。」
強がりを言っちゃって。ココアを飲みながら私からはうまく見れない星を見ようとしてみるも彼が邪魔で見えないので諦めて彼が星を覗く姿を見ていることにした。正しい聖夜の過ごし方なんて私はあまり知らない。
でも聖夜と定義つけられた特別な日に選んだ過ごし方はどんな過ごし方だとしても、それはそれとしてきっと普段とは違った意味が与えられるんだと思う。特別な過ごし方をしなかったとしても、特別な日であることに変わりはなくそんな日に選んだ過ごし方は特別な意味を持つはずだ。
特別な日に選んだ何気ない過ごし方として。
聖夜が近いのでこの話を書きたいなって思ってたんですけどうまく書けなかったですね。テーマを決めて書いたんですけどうまく言葉にできない部分があったり自分の中でしっくりこない部分がそのままで投稿することになってしまいましたが、それもまた彼らの答えなのでよしとしましょうか。




